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乱象  作者: 酒井順
第1章 象界師
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第9話 第1の刻印

第9話 第1の刻印


 次の日の朝早くに、ノージにせがむ胡蝶がいた。

「早く印を結ぼうよ」

「もう少し勉強したらね」

「わかった。でも、お昼までね」

(それまでには終わるか)

「よし、始めるぞ。照準からだ。照準は、一言で言えば視界に入っている事かな」

「視界?」

「う~ん、見えている事だよ」

「わかった」

「ケルン、走って。胡蝶は目で追いかけて」

 ケルンは走った。

「ケルン、遅~い」

 その時、ケルンは岩場に隠れ、胡蝶から見えなくなってしまった。

「どうする?」

 胡蝶は羽ばたき、上空からケルンを視界に入れた。

「成程、要領はいいようだな」

「ねェノージ、これかくれんぼでしょ」

「うん、そうとも言うな。でも、照準はできるだけ、正面から相手を捕えた方が威力を増すんだよ」

「わかった~。次に行こう」

(本当にわかっているのかな?)

 確かに胡蝶はよく理解していなかったが、ノージが知らない胡蝶の能力があった。胡蝶は、目もよく、要領もいいが、なにより動態記憶能力を持っていた。相手が突然に消えでもしない限り、胡蝶の視界から逃れることは至難の技であろう。


「最後は精神力だ。こればかりは教えてどうなるというものじゃないから、経験と実践で磨くしかないかな」

「じゃあ、終わりね」

「待った、1つ確認したいから、この印を教えよう」

 胡蝶がその印を結ぶと、目の前にリンゴが現われた。リンゴは、胡蝶の好物で、いきなり鷲掴みにすると、ガブリとかぶりついた。

「………おいし~~い」

(す、凄い。初めてでここまでとは。これは天性の資質というより、天与の才かもしれない)

 そもそも、ケルンは食事を摂らず、胡蝶も食事という習慣はなかったが、目の前に好物があれば、話が違う。

「ごちそうさま~。今までで、最高の印ね」

 未だ昼にはかなりの時間があったが、ノージはそうすることに決めた。

「この印を教えるから、1匹捕まえておいで」


 胡蝶は、“刻の印”から複合印を結んだ。すると、胡蝶の5倍の体躯はあろうかというネコ科の獣が目の前に現われた。獣は、すかさず胡蝶を目掛けて跳躍し、あわや胡蝶に爪がかかるかという寸前、胡蝶は羽ばたいていた。爪は羽根をかすって、羽毛が少し飛び散った。

「あ、危ないじゃないのよ~」

 獣は空を飛べず、眼下でニャンニャン騒いでいるだけだったが、胡蝶は容赦せずに印を結んだ。

「縛」

 獣は、捕縛され胡蝶に役従した。この時、結界は解けたのだが、このことを知るのはノージ一人だった。


 ゴロゴロ言って懐く獣に、胡蝶は“トラ”という名前をつけた。ノージに聞くと、トラは旅の共となるということだった。しかし、トラは胡蝶の意に反して、お座りも、お手もできなかった。

 「こうするんだよ」と言って、ノージは印を教えてくれた。その印は、トラの“真名”の半分で、残りの半分は胡蝶の無意識下に埋め込まれているそうな。ということは、ノージといえどもトラに命令を降すことはできず、トラは胡蝶だけのものになった。胡蝶には、難しいことはわからなかったが、とにかく嬉しかった。トラは、お座りも、お手もできるようになり、ケルンより、よほど役に立ちそうだった。そのケルンはというと、暇を見つけては、メカの改造に余念がなかった。


 当初、胡蝶は主人公の予定ではなかったのですが、何の手違いか主人公となる気配が濃厚です。

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