第7話 出直し
第7話 出直し
地図に示された3つ目の目的地に辿り着いた胡蝶は、現在位置と目的地の印に確信を持っていた。1つ目の目的地は小さな集落で、2つ目は大昔に栄えたと思われる廃坑だった。現在地である3つめの目的地は、小規模の街であったが、人種は2層に別れているようだった。1層の人種の下半身は馬であり、上半身はさまざまであった。もう1層はというと、これはケルンと同じと言わざるを得ない。街の門を潜ろうとした時、ケルンは尋問を受けた。製造番号が怪しいと言われていたようだが、胡蝶は見捨てて街の見物をしている次第である。しかし、待てど暮らせどケルンはやってこない。少し不安になった胡蝶は門のところに戻ってみた。門にケルンはおらず、捜索開始となった。当てもなく探していると、門番なのかケルンに似た人たちと出会った。
「お譲ちゃん、何をしているのかな?」
「お友達を探しているの」
「お友達?どんな?」
「あなたたちと似ているけど、凄く間抜けな人よ」
似ているに反応したのか、間抜けに反応したのか、数人がざわついて話をしていた。
「こっちだよ。お譲ちゃん」
親切にもケルンのところに案内してくれるという。
「ケルン、何しているの?かくれんぼ?それとも鬼ごっこ?鬼ごっこなら、この鉄の棒が邪魔ね」
「はいはい、お譲ちゃんは隣だよ」
かくして、二人は檻の中へと囚われてしまった。
「僕の製造番号からすると、僕は破壊されたことになってるそうだよ」
「破壊?でも、ここにいるじゃない」
「そう、それが問題なんだってさ」
「問題?そんなのケルンの勝手でしょ」
「そうなんだけど」
「頭きた!」
期せずして胡蝶の感情爆発が起こった。胡蝶の感情爆発は、強力な集団暗示となり、ほとんど胡蝶の我儘が通る。
「ここを出しなさい~」
おろおろと門番がやってきて、錠を開けてくれた。ご丁寧にも、行先は如何しますかと尋ねる門番もいて、胡蝶は門の外と答えた。
門の外に出て、一安心していると、門から一人こちらに向かう人かげが見えた。その人かげは珍しい姿をしていて、胡蝶に本来の人型を思い出させた。胡蝶も幼い頃は人型で、それが父親の不興を買っていたようだ。その人かげが正面に立った時、胡蝶は酷い安堵感を覚えた。とは言え、年齢は不詳で、怪しい存在であることに変わりは無い。
「僕は、ノージ」
胡蝶には、“僕は”の発音は正しく理解できたが、“ノージ”の発音は複雑で、よく聞き取れなかった。依って、胡蝶にとってノージはノージとなったのである。
「上手くいったね、お譲ちゃん」
「あんなもん、軽いものよ」
「ところで、お譲ちゃんの持っている本に“印を刻みなさい”と書いてなかった?」
「書いてないわよ。それに、わたしは“胡蝶”。大体、わたし字が読めないんだから」
「えっ、じゃあここまでどうやって来たの?」
「運と勘がいいのが、わたしの自慢よ」
「本を少しだけ読めるようにしてあげようか、胡蝶?」
ノージは簡単な印を結んだ。
「読める。っていうかわかる。ねェ、どうやったの?」
ノージは胡蝶に本を読む印の型とそれを元に戻す型を教えた。
「やってみるわね」
…
「わかる。わかる」
本の全てがわかるわけではなかったが、読めなかった頃と比べれば、遥かにましだ。
「ねっ、書いていただろ」
「うん、書いていた。でも、これって最初の目的地に戻れってこと?」
「そういうことだね」
戻らなければならなくなって、胡蝶はケルンに八つ当たりをしていたが、ノージも付いて来てくれると知って、機嫌は直った。
しかし、普通なら見ず知らずのノージを警戒すると思うのだが、これは胡蝶の危険察知能力の賜物ということなのだろうか。かくして、一行は最初の目的地へと戻って行った。