表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乱象  作者: 酒井順
第1章 象界師
7/42

第7話 出直し

第7話 出直し


 地図に示された3つ目の目的地に辿り着いた胡蝶は、現在位置と目的地の印に確信を持っていた。1つ目の目的地は小さな集落で、2つ目は大昔に栄えたと思われる廃坑だった。現在地である3つめの目的地は、小規模の街であったが、人種は2層に別れているようだった。1層の人種の下半身は馬であり、上半身はさまざまであった。もう1層はというと、これはケルンと同じと言わざるを得ない。街の門を潜ろうとした時、ケルンは尋問を受けた。製造番号が怪しいと言われていたようだが、胡蝶は見捨てて街の見物をしている次第である。しかし、待てど暮らせどケルンはやってこない。少し不安になった胡蝶は門のところに戻ってみた。門にケルンはおらず、捜索開始となった。当てもなく探していると、門番なのかケルンに似た人たちと出会った。

「お譲ちゃん、何をしているのかな?」

「お友達を探しているの」

「お友達?どんな?」

「あなたたちと似ているけど、凄く間抜けな人よ」

 似ているに反応したのか、間抜けに反応したのか、数人がざわついて話をしていた。

「こっちだよ。お譲ちゃん」

 親切にもケルンのところに案内してくれるという。

「ケルン、何しているの?かくれんぼ?それとも鬼ごっこ?鬼ごっこなら、この鉄の棒が邪魔ね」

「はいはい、お譲ちゃんは隣だよ」

かくして、二人は檻の中へと囚われてしまった。


「僕の製造番号からすると、僕は破壊されたことになってるそうだよ」

「破壊?でも、ここにいるじゃない」

「そう、それが問題なんだってさ」

「問題?そんなのケルンの勝手でしょ」

「そうなんだけど」

「頭きた!」

 期せずして胡蝶の感情爆発が起こった。胡蝶の感情爆発は、強力な集団暗示となり、ほとんど胡蝶の我儘が通る。

「ここを出しなさい~」

 おろおろと門番がやってきて、錠を開けてくれた。ご丁寧にも、行先は如何しますかと尋ねる門番もいて、胡蝶は門の外と答えた。


 門の外に出て、一安心していると、門から一人こちらに向かう人かげが見えた。その人かげは珍しい姿をしていて、胡蝶に本来の人型を思い出させた。胡蝶も幼い頃は人型で、それが父親の不興を買っていたようだ。その人かげが正面に立った時、胡蝶は酷い安堵感を覚えた。とは言え、年齢は不詳で、怪しい存在であることに変わりは無い。

「僕は、ノージ」

 胡蝶には、“僕は”の発音は正しく理解できたが、“ノージ”の発音は複雑で、よく聞き取れなかった。依って、胡蝶にとってノージはノージとなったのである。

「上手くいったね、お譲ちゃん」

「あんなもん、軽いものよ」

「ところで、お譲ちゃんの持っている本に“印を刻みなさい”と書いてなかった?」

「書いてないわよ。それに、わたしは“胡蝶”。大体、わたし字が読めないんだから」

「えっ、じゃあここまでどうやって来たの?」

「運と勘がいいのが、わたしの自慢よ」

「本を少しだけ読めるようにしてあげようか、胡蝶?」

 ノージは簡単な印を結んだ。

「読める。っていうかわかる。ねェ、どうやったの?」

 ノージは胡蝶に本を読む印の型とそれを元に戻す型を教えた。

「やってみるわね」

「わかる。わかる」

本の全てがわかるわけではなかったが、読めなかった頃と比べれば、遥かにましだ。

「ねっ、書いていただろ」

「うん、書いていた。でも、これって最初の目的地に戻れってこと?」

「そういうことだね」

 戻らなければならなくなって、胡蝶はケルンに八つ当たりをしていたが、ノージも付いて来てくれると知って、機嫌は直った。

しかし、普通なら見ず知らずのノージを警戒すると思うのだが、これは胡蝶の危険察知能力の賜物ということなのだろうか。かくして、一行は最初の目的地へと戻って行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ