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乱象  作者: 酒井順
第1章 象界師
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第6話 地図

第6話 地図


 老婆と別れて道中を行くと、間もなく日が沈んだ。

「今日も野宿だね」

 どちらからともなくそう言うと、木々のある場所を探し求めた。ここいら辺というより、街や集落以外では木々のある場所が極端に少ない。ほどなく、今夜の宿泊場所を決めると火をおこした。火は暖をとるためではなく、明かりのためだったので、枯れ木はそう多く必要は無かった。特にケルンは自分で明かりを灯すことができるため、火はもっぱら胡蝶のためとなる。胡蝶は、暗くなるとまるで目が見えなくなるのだった。

「ねェ、ケルン。もっと明るい光のメカはできないの?」


「お安い御用さ。でも、今はダメ。他のメカ改良に部品が必要なんだ」

 ケルンは、体内機構によって部品を製造できるのだが、その量はケルンが望むほど多くはなかった。

「ねェ、ケルン。もしかすると、この本を勉強すれば、あなたのお手伝いができるかもしれないわ」

「本当かい?」

「本当よ」

 ケルンのいいところは、素直なところで、早速サーチライトの改良に手を付けた。

「出来たよ」

 それは、火の明かりの何十倍も明るく、胡蝶にも難なく本が読めるほどだった。

「ありがとう、ケルン」

「じゃあ、早速手伝ってもらえる?」

「それは無理よ。この本を勉強してからじゃないと」

「そうか」

 ケルンのいいところは、諦めのいいところで、胡蝶の手伝いをワクワクしながら待つこととなった。


 1ページ目を開くと、そこにはわけのわからない文字が並んでいた。そもそも、表紙の文字がわからず、この本が何のための本なのかわからない。胡蝶は運がよく、1ページ目に簡単な印の結びが描いてあった。胡蝶は本を傍らに置き、その印を結んでみた。

「消えた。本が消えちゃったのよ、ケルン」

「僕じゃないよ。さては、泥棒か。誰だ?何処だ?」

 本が消えたのでは、2ページ目が開けない。仕方なく練習だと思って、同じ印を結んでみた。すると、本が現われたではないか。もう1度印を結ぶと本は消えた。その繰り返しで、本は現われたり消えたりした。

 胡蝶が嬉しかったのは、初めて自分の意思による印で実効が現われたということだった。正確にいうと、フラクタル・トラップに次いで2回目なのだが、あの時の印の意味はわからない。胡蝶は、数十の印の型を結べたが、その意味も実効も知らなかった。ただ、印を発効できるというだけだった。


 2ページ目を開くと、そこにも印の型が描いてあった。1ページ目の印で気を良くしている胡蝶は、その印も結んでみた。

「増えた。本が1冊増えたよ、ケルン」

「そりゃ、よかった。得したね」

 胡蝶は、増えた本の中を眺めて見たが、そこでわかるのは印の型だけだった。胡蝶は増えた本を閉じて、2ページ目の印を結ぶと、増えた本は消えた。3ページ目から5ページ目までは同じ繰り返しで、6ページ目の時現われた本は、何処か違った。なにしろ、文字より図形が多く、それをケルンに見せた。

「地図だと思うよ」

というのが、ケルンの答えでまるで要領を得ない。地図には閉じた図形が多く、海を知らない胡蝶とケルンにはそれが何を意味するのかわからなかった。それでも、胡蝶は諦めなかった。分からないからと言って、諦めてしまったら、せっかく嬉しかった印の実効が台無しになるではないか。本にはいくつかの印の型も描かれており、胡蝶はその最初の印を結んだ。すると、本のある箇所が明滅し、胡蝶はそれが現在地であることを覚った。次の印を結ぶと別の箇所が点灯し、道案内をしているようだった。

「ケルン、これが次の目的地よ」

 後に知ることになるが、元本の表題は「Hello World」とされていた。地図の本の表題は「来れるものなら来てみなさい」とされていた。


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