第9話 鉄の街(4)
第9話 鉄の街(4)
「うむ、そうか」
と、頷くカンリル中視であったが、そこに映っている映像は、ただ工場内の生産工程を明らかにするものであって、何か重要な手掛かりを示すものではなかった。それが胡蝶にわかったのか、わからなかったのか知る由もないが、胡蝶は「何か分かった?」とカンリル中視に問うてみた。
「いや、なにも」
そう言うカンリル中視は、悲しそうだった。
「それでは、他のシステムにも侵入します」
そう言ったカイロは、工場の全てのシステムに侵入を始めた。
「わかったことが2つあります。1つは、行方不明となった諜報員の行方です…」
後を聴かずにカンリル中視は、色めきたった。
「それはどこだ?」
「こことは別の場所の監獄に送られています。もう1つはいいのですか?」
カンリル中視にとって“もう1つは”はどうでもよく、救出を優先させる彼は、優しき隊長だったのである。
「早く、案内しろ」
その監獄は、さほど堅牢といえなかったが、ここでもトラが活躍し、監獄に潜りこんだトラは檻の錠まで開けてしまった。錠を開けるのは、トラの本能と言ってよく、これを何者も責められない。しかし、問題があった。どうやって、捕えられている諜報員を脱獄させたらいいのか、いい考えが誰にも浮かばない。ついには、カンリル中視は見栄も外聞も捨てて同期のノージ中視に頼み込んでいた。
「確かお前、テレポートの印を結べたよな?」
確かにノージはそう遠くなければ、数人を連れてテレポートができた。この監獄には行方不明となった7人が捕えられていて、無事全員救出となった次第である。このことだけで、ケルンは昇格対象となるのだが、ケルンは何もしてはいない。手柄はカイロによるものだった。
そんなことを気にせず、カイロは続けて言った。
「もう1つ言っていいですか?もう1つは、あの工場にある胚、つまり受精卵の成長したものですが、それは他の施設から持ち込まれたものです」
「ものごとには順番というものがある。では、2番目としてその施設に移動しよう」
カンリル中視は冷静な指揮官である。確かに順番は大切で、順番が運命を変えることもあるはずなのだ。しかし、カイロはその施設の場所を特定できなかった。つまり、その施設は、それだけ重要施設と思われた。
「どうやって、その灰とやらは工場に運ばれてくるのだ?」
カンリル中視の指摘は鋭いが、漢字が間違っている。灰ではなく胚である。
「忽然と運ばれるようです。おそらく瞬間転送のようなものでしょう。ノージ中視のテレポートと似ているかもしれません」
「なにっ、そんな情報は知らないぞ。界所でさえ、メカによる瞬間転送技術は持っていない。さてはそれもSAの供与技術か」
しかし、ひょんなことから瞬間転送機の在り処が判明する。それはシベルのドジからだった。シベルが何気なく触れた装置は監獄の警報ベルだった。警報ベルが鳴り響き、集まってくる警備兵に対してシベルは結界を張った。“球の護”の印である。同じく結界の印を結ぶものは、何人かいたが、シベルが一番早かった。トロい筈なのに速かった。そして、他の者の結界を封じていた。シベルの印は早いだけでなく、最も強力で、他の者の印は無効となったのであった。その時、シベルの結界に干渉するものがあった。




