第8話 鉄の街(3)
第8話 鉄の街(3)
この世界は、100万を超す社会集団で構成されていた。小さい集団は100人にも満たず、大きくとも10万人を越える集団は希だった。その社会集団の中で、界所による監視地域に指定される集団がいくつも存在し、その中でも特定監視地域に指定される箇所は、100以上にも及び、界所では人手不足となっていた。
特定監視地域は“危険”“未知”“特別”に区分されていて“鉄の街”は“特別”監視地域となっていた。“特別”監視地域は、SAとの関係が明らかな地域、あるいは疑われる地域となっていたが、場合によっては“緊急特別地域”に格上げされる可能性もあった。
カンリル中視率いる大隊には、象界師十人、印師十四人、一般兵三十人が所属していた。そこに胡蝶の特命小隊が配属されたのである。印師とは、象界師見習い、あるいは象界師としての適性が認められなかった者たちだが、印を結ぶことはできた。一般兵とは、印を結ぶことができない者たちである。
“鉄の街”は、大きく分けて2つの階層から成り立っていて、1つは支配者層であり、1つは被支配者層であった。被支配者層の全ては、ケルンと同じ姿の身体の構成で“鉄体人”と呼ばれていたが、そこに意思の存在の有無が問われていた。即ち、この大隊の受けている指令の1つが意思の有無にあったことになるが、ケルンの出現が俄かに意思の存在を促すものとなっていたのである。シュレンの云う“それは自分で何とかしろ”は、ケルンに対し冷たいとも言えたが、シュレンはそこに何か起こることを期待していたのかもしれない。
この街には、立ち入り禁止区域や建造物がいくつかあったが、その1つが、鉄体人製造工場であった。ケルンはそこで生産され、別の施設で教育を受け、育ったことになる。その工場で、3人の諜報員が行方不明となっていて、その諜報員の全ての下肢がネコ科に属すものであった。そもそも、諜報員の半数以上の下肢がネコ科であることを考えると、それは偶然なのかもしれないが、なにやらひっかかるものがある。
その鉄体人製造工場の警備はと言うと、百人を超す鉄体人の警備兵と、巨大な警備システムから成っていた。カイロが、その警備システムに忍び込むと、諜報員が行方不明となった理由が明らかとなった。警備システムは、工場の床面から鉄体人の身長までは、それほど厳しい警戒網は敷いていなく、その上部に強力な警戒網を敷いていたのだった。つまり、諜報員はネコ科の本能として跳躍をし、警戒網に引っ掛かったものと推測される。
カンリル中視は「間違いない。奴らなら、きっと跳ぶ」と言い、さらに「胡蝶は便利な下僕を持っているな」と続けた。
しかし、カイロは「下僕ではありません。わたしは、ニューロコンピュータで、意思あるものです」と口答えした。カイロは何処で覚えたのか“意思”という表現をしたが、カイロが意思を持っているのか誰も知らない。
「こいつは口答えもするのか?軍法会議にでもかけてやるか」と、少し殺気立ったカンリル中視であったが、胡蝶がすかさず「便利なのなら未だいるわよ」と言い、トラを放った。トラは子猫となり、工場に向かったのだが、その前に「絶対に、跳ねてはいけないわよ」と胡蝶から厳しい注意を受けている。
かくして、工場内は、くまなく映像化された。トラの映像が胡蝶のものとなり、胡蝶の映像がイメージとしてカイロに転送され、カイロはそれをデジタル化し、液晶画面に映したのであった。カンリル中視は、いとも簡単に工場内の映像を手にいれたのだが「本官の今までの苦労は何だったのだ」と嘆くことも忘れていなかった。カンリル中視のいいところは、ここで胡蝶に対し嫉妬心を持たないことで、持ってしまうと、この物語のストーリーがややこしいものになったはずである。




