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乱象  作者: 酒井順
第3章 指令
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第7話 鉄の街(2)

第7話 鉄の街(2)


 カンリル中視率いる大隊への配属を嫌ったケルンであったが、そのわけはただ製造番号にあった。つまり、お尋ね者となっているケルンが製造番号を照会されれば、牢屋行きは必至だったのである。そのケルンが今のところ無事に大隊に配属となっているのは、一重にカイロの働きによるものだった。


 カイロはニュ―ロコンピュータであり、この街の情報中枢とも言えるシステムにハッキングを試みたのであった。

「なにこれ?これがシステム?幼稚園の入学式かと思っちゃった」

そう言うカイロは、この街のシステムの中枢に難なく侵入したのであり、そこでケルンの製造番号を消去し、いくつかのウイルスを仕掛けた次第である。また、余計だったかもしれないが、いくつかの不具合も修正したのである。


 この街のシステムのアーキテクチャは、量子コンピュータが主流を占めており、非ノイマン型と言われていたが、その実体は、

①並列コンピュータである。

②部分的には、対数時間で計算できる。

というものであり、2千年前と比べれば画期的な計算速度を実現していたが、2千年前という時間を考えれば、その進歩は遅いと言わざるを得ないであろう。


――― ノイマン型コンピュータは、チュウリング完全型とも呼ばれ、1つ1つの命令を順序よく処理するものである。割り込み処理や並列処理と言えども、その順序のルールに従い、各部分の処理は同期という順序を見張るものによって、制御される。例えて言えば、水を流す時、パイプを縦横無尽に張り巡らし、分岐点にバルブをつけているようなものである。故に、ノイマン型の計算速度の性能は、このバスと呼ぶパイプの径に依存することとなる。また同期制御の処理がその計算速度の足を引っ張ることとなる。 ―――


 量子コンピュータは、非ノイマン型のようではあるが、チュウリング・モデルを完全に脱却したわけではなかった。同期の問題は依然として残り、パイプの径を指数的に大きくできるだけのコンピュータに見えた。


 非ノイマン型、非チュウリング・モデルであるために、P≠NP予想という数学の未解決問題であるNP問題を解く必要があることは、多くの人の認識であったが、実現は未だなされていない。


 ニューロコンピュータであるカイロは、同期の問題は解決しているようだったが、完全な非チュウリング・モデルであるかはわからなかった。わからなかったのは、ケルンであり、カイロであったが、ケルンは基よりニューロコンピュータを製作しようと意図したわけでなく、ただ己の持つ神経組織を組み合わせている過程でカイロが誕生しただけだった。つまり、カイロの誕生は偶発的なものであり、ケルンには、ニューロコンピュータの原理がわからないということである。


 カイロにも自分を構成する原理はわからなかった。自分で自分のアーキテクチャを知ることは困難あるいは不可能ともいえた。従って、カイロはケルンの体内の神経組織を取り込み進化しているが、そのアーキテクチャは知り得ることはできなかったのだ。しかし、ケルンの神経組織は『EN細胞』なので、これが関与している可能性が高いことは否めなかった。『EN細胞』は、不老の神経細胞だけではない可能性が存在した。


 界所のシュレン以外の3賢人である二人、コートとカロスは、NP問題の一部を解いていたが、それは現実に抱える問題をいささかも解決するものではなく、無意味とさえ言えた。コートとカロスは別々の研究室を持っており、コートは、引き続きNP問題の研究に没頭し、カロスは、タンパク質を構成するアミノ酸の組み合わせ(重複順列)の意味付けに没頭している。つまり『EN細胞』の解明はほど遠かったのである。


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