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乱象  作者: 酒井順
第3章 指令
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第6話 鉄の街(1)

第6話 鉄の街(1)


「七人だぞ、七人」


 その数は、ここ“鉄の街”で行方不明となった隊員の人数であった。この街の諜報部隊の隊長はカンリル中視で、ノージ中視の同期でもあり、同じく二千年を共にした数少なくなった古参の界所会員でもあった。この街の諜報部隊の編成は大隊クラスで、それは三中隊で構成され、今は、総勢五十四名となっている。その一割を超す隊員が行方不明となり、カンリル中視のお冠となった次第であった。


 ここ“鉄の街”の疑わしきは、その身体の構成にあり、有機体としては脳だけで、他の身体のパーツは特殊メタルとなっていた。その構成は、ケルンと全く同じと言ってよく、つまり、ケルンはここで生産されて、いくつかの運命を辿り、逃亡兵としてお尋ね者となっている。このことをケルンはシュレンに訴えたのであるが“それは自分で何とかしろ”の一言で片づけられて、今カンリル大隊と合流している。何故、合流できたのかは早急というほど大切ではないので、後回しにしたい。ここで、大切なのは“鉄の街”の疑わしき点である。


 疑わしき点ははっきりしていて、それは『EN細胞』を実用化しているということだった。『EN細胞』は“不老の神経細胞“であり、SAから供与されたものである。最初は『EN細胞』を“エバー・ナーバシス細胞”と呼んだ時代もあるようだが『EN細胞』の機序が明らかになるにつれ、焦点は“不老の神経細胞“そのものではなく、どうやってそれを作り出しているのか?体内の神経との関係はどうなっているのか?というものに変わっていた。


――― 理論的には“不老の神経細胞“を作り出すことは、案外不可能とは言えないようである。神経細胞を胚化して、細胞中の染色体の末端テロメアの長さを常に維持し、細胞内の老廃物を取り除く活性化、即ち新陳代謝の周期を速めれば可能となる。

胚化とは、細胞を胚性幹細胞はいせいかんさいぼう(ES細胞)化することである。ES細胞の例としてiPS細胞が挙げられるが、これは人工多能性幹細胞じんこうたのうせいかんさいぼうと呼ばれ、ES細胞とは異なり、人の手が加えられた所謂”遺伝子導入“の技術が用いられている。界所ではこの”遺伝子導入“を嫌っているのである。ES細胞は万能細胞とも呼ばれ、多分化機能を持っており、その細胞は心臓となることも、肝臓となることも可能であり、もちろん神経細胞ともなりえる。しかし、不老のために万能細胞であることは、あまり重要ではなく、重要なのはES細胞の細胞分裂の機序である。細胞分裂は2度行われ、1度目は自分と同じES細胞(常に維持される)と機能する細胞(老化すると捨てられる)に分裂する。2度目に機能する細胞を分裂させる。すると、元本のES細胞は常に維持され、老化することはない。

 テロメアは、染色体の末端に位置し、細胞分裂が起こると短くなっていき、ある長さになると細胞分裂ができなくなる細胞分裂の回数券のようなものだと言われている。 ―――


界所で、わからないのは“どうやって、多分化機能を持つES細胞から、脳たる神経細胞だけに分化させることができたか?”“その時、どうやって脳の神経回路網の配線を維持できたか?”であるが、これは界所の好奇心であり、理念とはあまり関係ない。


やはり、”鉄の街“の首脳部とSAとの関係が最重要項目である。


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