第4話 再びのあの世界
第4話 再びのあの世界
最初の任務は、再びあの世界に行くことであり“そこの情報を得よ”というものであった。界主らの真意はわからないが、ここでは胡蝶を通して、あの世界に興味を持ったということにしておきたい。
境界を越えると、当然のことであるが、この世界はあの世界となり、あの世界はこの世界となっていた。そこに現われたのはシロの父親であって、導かれた胡蝶らは麒麟の棲み処へと移動し、シロの母親によって歓待された。実は、父親は“キ”といい、母親は“リン”という名で、麒麟の中では極ありふれた名であった。
胡蝶は、れっきとしたスパイなのであるが、それを本人も周りの者たちも気付いていなく、宴もたけなわとなっていたが、これは本来なら麒麟の棲み処に立ち入る事の許されない龍生九子らが続々と集まって来ていたためである。
シベルは“リン”からシロの様子はどうだと聞かれるのだが、まだそれほど時が経っているわけでもなく、曖昧な返答しか出来なかった。
ケルンはというと、蚩尤との再会を喜び、捕縄の改良を自慢していた。
「どうだい?この捕縄は“蚩尤鋼”の最新合金なのさ。竹のようにしなやかで、蚩尤のように頑丈。引っ張りにも強く、衝撃にも強い。それに噛み切りにも十分な強度を持っている。蠱雕が噛みついたら、歯がボロボロになると思うよ」
「ん~、素晴らしい!作り方を教えてくれ。ちょっと捕まえたい奴がいるんだ」
などと、会話が弾んでいた。
胡蝶は、この場にいるのはちょっと気まずいと片隅に身を寄せる犀犬の元に駆け寄った。
「お前らがちゃんと術を教えてくれないから、わたしの首から上が無くなるところだったんだぞ!」
犀犬には何のことやらわからなかったが、言い掛かりをつけられているということはわかった。しかし、事実としての結果とその原因を考えれば、胡蝶にはやはり犀犬のせいとなってしまうのであった。
「もう一度、わたしに“生成”の術を施してくれ。それで万事解決する」
やはり犀犬にはなんのことやらわからなかったが、要求されていることは、さほど難しくなく“生成”の術を胡蝶に施すのであった。
「なるほど。なるほど。やはり生の術は臨場感があっていいわ。こうね…。そうか…」といいつつ胡蝶は術を会得して行くのであった。
この様を茫然と眺めるノージは(任務と少し違う)と違和感を持つのであったが、この状況で口を挟めるものではない。その時、遅ればせながらとあの老婆がやってきた。(なるほど老婆だ。老婆の中の老婆だ)と思うノージであったが、老婆はどうも面白くないようだ。そのわけはというと、出掛けに爺に捉まったためだったが、その爺の話が長かった。(早く引退すればよいものを)と思う老婆であったが、その願いは既に叶えられていて、爺は隠居の身であった。隠居の身でありながら、話が長かったのである。
老婆は、胡蝶に「“三苗“のところに行ってみるか」と話しかけたのだが、三苗は四罪の1つであり詳しいことはわからない。三苗は犀犬を遥かに上回る薬性酵素の生成術を知っていて、その一部を胡蝶に伝授したのであった。
老婆は、シベルにも近づき「まだ“智の極め”は育っていないようじゃな」と呟き、ツボの1つに軽く触れた。やがて、お開きとなるのだが、老婆は胡蝶に“この世界への出入り御免”の允許を与え「これで、いかなる地からでもこの世界への移動は瞬間で行われる」と呪文のように囁いた。




