第3話 界主と3賢人
第3話 界主と3賢人
通称“界所”、正式名称を“明界依象合同所”という。象に依って界を明らかにする者たちの集まる依り合い所という意味であるが、なにしろ、2千年前の名付けのセンスのない者がつけた名称であるから、ほとんどの加盟者はそう呼ばない。
しかし、この界所の理念は開設当時と変わりなく『自然は、その掟を尊重し、人は、その個の意思を尊重する』であった。この理念は、苛烈で、自然の掟 “弱肉強食”を真理とし“自然淘汰”や“自然連環”を認めていた。その中の人道とは、その個の意思の実現に最大の努力をするということであり、一方的な支配を認めていなかったのである。
この界所への加盟、脱退は自由であったが、ただ一つ、この界所を通して会得した印を乱用する者は、抹殺と言う形で処罰される運命にあった。
この界所を構成する組織の構成は、筆頭に界主をおき、それを補佐する者“3賢人”が最高指導者となり、その配下として諸々の機関が存在した。この組織の命令規律は軍隊にも似ていて、酷く厳格でもあったのだが、唯一意思の発令という形で、上官への反論が許されていた。
2千年もの間、この意思の発令の議論は続けられていたのだが、それは“覚悟の意思”を最高の発令とし、代償を払う者の特権と言われた。
界主の元に出頭する形となった胡蝶らであったが、それは裁きに似ていて最悪の場合も予想された。
「その方は、胡蝶であるな」界主から淡々とした裁きの開始が告げられた。
「そうよ、いえ、そうです」胡蝶は幾分緊張しているようだった。
「無期禁固に処する。但し、当局の調査が済むまでの仮処分となる」
無期禁固は、思想犯や政治犯に降される最も重い刑罰であり、無期懲役よりも重い刑罰とされている。胡蝶とケルン、シベルは別々の牢に隔離され、それは窓の無い酷く暗い独居房であった。唯一の救いは、これが仮処分であったことだが、胡蝶は不満である。
(なによ!ただキノコを出しただけじゃない!あのキノコはね、みんなの血と汗と涙、笑いの結晶なのよ)
血と汗と涙は嘘であるが、笑いは事実であった。つまり、あの世界では罪にならないことでも、この世界では罪に問われることもあり得るということである。
何日経過したのか胡蝶にはわからなくなっていた時、再び界主の元に連行された。これは仮処分ではなく、本処分が言い渡されることが予測されたが、胡蝶はこのことを知らない。
「最終処分を言い渡す」界主の鈴のような声が響き渡った。
「当局の調査によれば、件のキノコは“遺伝子導入”や“遺伝子組換え”にあたらず、無害とは断じられぬものの、本所の理念他いかなる法にも抵触せず、無罪とする。また、禁忌の印と疑われた印は、失われた印であり、これも無罪とする」
(だからいったじゃない。あれは…)そう思っていた最中の胡蝶であったが、判決は続いていた。
「但し、その乱用を禁ず。また、胡蝶を象界師准正に任じ、シベルを准助、ケルンを准尉に任ず。加えて、胡蝶のパーティをシュレン付きの特命小隊とし、ノージをその目付とする。以上」
あっけにとられていた胡蝶であったが、そこにノージがいることを知り、再びノージと共に旅する運命であることに喜んだ。
象界師准正とは、正式な階位である象界師正の見習いということであり、象界師を名乗れるのは胡蝶一人だけだった。准助は、象界師を助ける印を発効できる者の見習いで、准尉は、印を発効できない武官の見習いということであった。ちなみに、ノージの階位は象界師中視であり、胡蝶の5階級上となる。
シュレンは、3賢人の一人で、感性の者、想念を操る者と呼ばれていた。そのシュレン付きの特命小隊とは、一体どのような任務なのであろうか。




