第2話 プレ試験
第2話 プレ試験
「この第5の刻点は、プレ試験となる。プレ試験は、個人戦と団体戦に分かれており、個人戦には胡蝶とシベルが出場する。団体戦にはケルンも出場できる。そして、その結果によって推薦状が発行されることになる。ついでに、評価も降されることになる」
こう高らかに宣言したノージであった。
胡蝶が結界の中に入ると、プレ試験官が「まずは、印の型の覚えている全部を披露しなさい。複合技は、得意なものを披露しなさい。尚、高次の印ほど評価は高くなります」と告げた。
「冗談じゃないわよ。いくつ披露しろって?200も披露してたら疲れるじゃない!」そう言い放った胡蝶であったが、それは認められず、胡蝶は印の型を忘れたことにして、50くらいの印の型を披露した。複合技の印の1つは、ノージの勧めに従って“虚空”の印で結界を作ることにした。
『“位相”“n1”“n2”“n3”“虚空”』
これは、実数部をゼロとし省いたもので、あまり強固な結界とは言えないのだが、5次の印であることは確かである。5次の印は、4次の印の複合によって発効されることが多く、印の手順が長くなる。この胡蝶の発効した印は、5つの印の組み合わせで、5次の印の最短手順となり、プレ試験官はそれなりの評価を与えるはずである。胡蝶は、5次の印が限界で、6次以上の印を発効できなかったが、このプレ試験の最低ラインは5次とされ、まずは推薦状の切符を手にしたようなものであった。
『“象徴”“そこ”』
この印は無効となった。胡蝶とすれば“そこ”とは、プレ試験官を指していて、その首根っこを捕まえたかったのだ。しかし、プレ試験官は実在する人ではなくシステムであったため、無効となった次第である。
「とっておきがあるわ」
『“ロード”“メモリ1番地”“生成”』
すると、キノコが胡蝶の手元に現われた。このキノコは、あの世界で採取したものであり、メモリ1番地には、そのキノコの遺伝子情報が収まっている。その遺伝子情報をロードし“生成”で発現・成長させたものであった。
“ビーッ、ビーッ、ビーッ”そう警告音が鳴ったように胡蝶は感じたが、それは現実としての警告であり、それも最高レベルのものであった。
「その印は、禁忌である可能性があります。照会中…照会中…」
暫く立って、結果がでたようであるが、その印とは“生成”の印のことであろうか?
「その印は、失われた印、あるいは封印された印に酷似しています。界主様直々に尋問されるようです。それまで、このパーティは拘束されます」
「えっ何?捕まるの?また牢屋?」
胡蝶はプレ試験の結界から出ることができず、ケルンもシベルも囚われて、このまま界主の元へと送られるようである。
事の顛末を承知するノージであったが、それでも自責の念を拭えなく、ただ「気付いてやれなかった」と思うばかりであった。このノージが界所に至るのは、どんなに急いでも3日後である。胡蝶は直ぐにでも界主と会うことになるだろう。界所の付近で上級印の発効は許されておらず、発効したものは、反逆罪となる決まりとなっていた。つまり、印を用いた移動は制限されるということであり、ノージの移動手段も制限されていたのだった。
その頃、結界の中では次の警戒音が鳴り響いていた。
「新種のゲノム発見!何者かが、余所から持ち込んだものと思われます」
何者かとは、胡蝶のことであるのは明白だが、この警告、警戒システムは知らないのだろうか?
罪なるものが1つ増え、争点は胡蝶が何処から印を持ち込み、何処からキノコである新種のゲノムを持ち込んだかになりそうである。




