第1話 帰還
第1話 帰還
――― 『想念が、光より速い』と、知る者があり、
『内向きに、宇宙は拡がる』と、知る者があり、
『交わりが、複雑さを織り成す』と、知る者があった。 ―――
「帰ってきたよ~。ノージ~」
「お帰り」
満面の笑みで帰還を告げる胡蝶を、満面の笑みで迎えるノージであった。
「今日はゆっくりお休み。明日は試験の前の総仕上げだからね」
幾分というより、かなり精悍な顔つきとなった胡蝶にノージはそう告げた。精悍となったのは、胡蝶だけではなく、ケルンもシベルもそうであり、これは楽しみだと思うノージであったのだ。
「試験?総仕上げ?」
胡蝶にとっては、そんなことはどうでもよく、ノージと離れた後のことを事細かに報告する胡蝶であった。
「あのね。犀犬にあってね、シベルの傷を治して貰ったの。そしたら、蠱雕に襲われて、シベルがまた怪我して、それも犀犬に治してもらったの」
(犀犬はいいとして、蠱雕に襲われてしまったのか)
「蠱雕からは無事逃げられたの?」
「それがね、蠱雕はわたしと似た名前でしょ。だからケルンに任せたら、ケルンがドジ踏んじゃって、お婆さんに助けられて、シベルが連れて行かれたの」
(事実を話しているのだろうが、相変わらず説明が下手だな。状況がよく掴めん。それにお婆さんって誰だ?)
「お婆さんって誰?」
「よくわかんない。凄く歳とった女の人だよ」
(お婆さんは大概そういう人だ)
「それで、どうしたの?」
「蜃が出たけど消えちゃったの。それからね、封豨と修蛇はシベルにとっておいたのよ」
(蜃は最高難度に属するはずだが、それが消えた?封豨と修蛇も高難度のはずだが、シベルにとっておいた?どういうことだ)
「蜃はどうして消えたの?胡蝶が逃げたから消えたように見えたの?」
「ううん、光に乗ったら消えちゃったの」
(よくわからん)
「それで」
「そしたら蚩尤が出てきて、ケルンとばかりお話するのよ。詰まんないからわたし、キノコを出しちゃった」
(蚩尤?そいつは一番の化け物に指定される超のつく最高難度だ。よく帰ってこれたな!それにキノコってなんだ?)
「蚩尤からはどうやって逃げたの?」
「ケルンとのお話を打ち切らせて逃げたの。とにかく、話が長いんだから」
これまでもだが、ここではっきりとわかった。胡蝶とノージの会話は噛み合っていないのだ。
「それからね、螭首と蚣蝮が水をかけるのよ」
ここまでくると、ノージには全くの未知の世界の話となっていた。そうと察したカイロが割って入り「わたくしが、あの世界での出来事を詳細な報告書にしています」と噛み合わない会話にピリオドを打ったが、それでも胡蝶の話は続いた。
「シロがね、両親とご対面~になったのよ。あっ、シロってこの子よ」
(確かこの子はシベルの随獣だったな)
「シロのお父さん、とっても大人で風格があるの。それでね、お父さんもお母さんも黄色で、この子は白いの。だからシロ」
(よく、わからんが)
カイロの解説が付いた。
「シロは麒麟の子で、索冥です」
(麒麟?それは伝説の獣ではないか。確かにこの子が何に似ているかという時、誰かが麒麟だと言ったのが始まりだと思ったが、まさか本当に麒麟の子だったとは。いやいや、断定するのはまだ早い。まずはカイロの報告書を読んでからだ。索冥?それもただの云い伝えじゃないか)
胡蝶は未だ話し足りなかったが、ノージとの会話はここまでとなり、明日の総仕上げのために休むこととなった。しかし、胡蝶は、キノコを出してはいじっていた。キノコを出せるということは、あの世界の遺伝子やコドンセットもこの現実世界で有効であることを意味していた。“生成”の印はこの世界でも有効で、後は“抽出”“調合”の印の会得だけとなっていた。




