表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乱象  作者: 酒井順
第2章 中国神話
30/42

第13話 意思

第13話 意思


 “椒図の症状は軽くなったと思う”と胡蝶は、上機嫌であったが、それがキノコのせいとあらば尚更であろう。更なる向学心に燃える胡蝶の上層思考には、ただキノコだけがあった。


「キノコか?」

突然、頭の中に降って湧いたような声が鳴り響いた。それは懐かしくもあり「ノージ?」と聞き返す胡蝶の想いは、飛び上がらんばかりだっただろうが、その声の主は、まるで見知らぬ者で、見事に裏切られてしまった。ところが、次の声が「胡蝶かな?」と聞こえたことにより、相手が自分を知っている事を覚ったのである。


 声の主は、龍生九子の中の一つの望天吼(朝天吼、ボウテンコウ)で、彼は意思の伝達に長けていた。意思の伝達能力の高い望天吼は、概ね人に好かれて、話上手と言われていたが、彼の欠点は、見張りをする習性で時折煙たがられていた。見張りはするが、追いかけまわす事などせず“動かぬストーカー”と呼ばれることもあった。彼は、いわゆる読心術と伝心術、つまりは、テレパシー(精神感応)を得手としていた。


 望天吼は、その能力を悪用せず、特に守秘義務はキチッとしていて“動かぬ紳士”とも呼ばれ、常は相手から漏れる強い意思と感情を拾い上げることにのみ専念していた。その気になれば、相手の深層心理まで辿りつけるのだが“それは相手に失礼だ“と思う望天吼だったのだ。


 その望天吼は、動かずとも他の龍生九子と会話ができ、情報通となっていたため、胡蝶のことを知るようになったのだ。胡蝶の評判は、甚だよく“一度は会ってみたいものだ”と思っていた時、折よくそばを通ったので声をかける次第となったのだ。それが意思と呼べたのかわからないが、胡蝶から漏れ出るものは“キノコ”しかなく、それで「キノコか?」と尋ねてしまうハメになってしまった。


 胡蝶のテレパシーの能力はというとお粗末で、会話は媒介となる相手の能力に依存し、伝達はただ感情爆発による一方的な感情の押し付けだった。その押しつけに依り迷惑を被った者が、傍に最低2人はいる。それはケルンとシベルであるが、ケルンはテレパシーと縁遠く、シベルには習得の可能性があるのかもしれなかった。


 この話の流れから行くと、胡蝶とシベルは望天吼からテレパシーの極意を学ぶことになるのであろうが、それはご明察というものである。


 胡蝶はここで学んだテレパシーと持ち前の歌声が相まって、胡蝶を代表する能力となって行くのであるが、それは後のことである。シベルはというと、相変わらずトロくさく、ようやく、胡蝶、ケルンと会話ができるようになった。むしろ、シベルの随獣である麒麟の幼生が上手で、教わらなくとも、身に着いていたようである。シベルと麒麟の幼生とは、元々一心同体のようなもので、テレパシーを使わずとも、意思の疎通は円滑だったので、ここでの学びはほとんど関係しない。尚、麒麟の幼生には未だ名が無い。


 驚いたのは望天吼で、そこに麒麟の幼生がいることにも気が付かず、ましてやそれの心を窺うことは、思いもよらなかった。麒麟の成体は、この世界で望天吼の3ランク上位の生き物で、望天吼がお目見えしたのは数回しかなく、雲の上の人のようなものである。


 胡蝶には基準と呼べるものがないのか、望天吼でさえできなかったカイロとのテレパシーによる会話を行った。胡蝶は「これで、カイロの一方的な講釈を聞かなくとも済む」と思っていた。ここでの出来事の詳細を書く日がくるのかわからないが、取り敢えず、こんなところであったとしたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ