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乱象  作者: 酒井順
第2章 中国神話
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第10話 声音

第10話 声音


――― 光や音、電磁波などは波動としての性質を持ち、その波動の性質は、周期、振幅、波形の3つで表される。波動は2つの型に分類され、1つは波動そのものの速度と、方向を持つ直進型であり、1つは方向を持たず、速度のみの波紋型である。また、異なる波動の合成は波の性質と状態によって加算され増幅や減衰、波形の変形を行う。

 音楽は、リズム(律動)・メロディー(旋律)・ハーモニー(和声)の3つから構成されると言われているが、波動と直接関係があるのはハーモニーだけである。ハーモニーは、複数の波動の集まりであり、やがては1つの波動へと合成されるが、その合成への過程においてさまざまな音となる。音楽のほとんどが波紋型であるが、周囲の環境により、壁などにぶつかり、直進型へと変じ反響となる。その結果、音楽は常に楽譜通りのハーモニーとならず、多くの態を見せることとなる。

 波動は、関数a=u(t)により表せ、tは時間、aはその時間の振幅を示す。波動の合成は、複数の波動の関数の同時刻の振幅の合算の結果となる。また、関数uは波形を示すことが多い。

 印の発効は、この波動によく似ていて、特に照準の射程に関係する。印の効力が最も発揮されるのは振幅の最高値のところであるから、象界師は己の波動の性質を知り、射程を求めなければならぬ。

 また、波動は性質や持続性を波動の源(光源、音源など)に依存するため、印もまた象界師の能力に依存することとなる。 ―――


 心和む美しいメロディーとハーモニーが胡蝶らを包みこみ、軽快なリズムにのって足並みは軽やかとなっていたが、害意無きその音源へと歩む胡蝶らの目の前にそれらは現われた。


 囚牛しゅうぎゅうは、月琴を奏で、蒲牢ほろうは、その演出を反響によって行っていた。囚牛も蒲牢も龍生九子の一角である。


 先に和を乱したのは、蒲牢であった。胡蝶らに警戒したのか反響による演出を止めた蒲牢は、ところかまわずと、囚牛の奏でる月琴の音を反響させた。聞くに堪えない音楽は、胡蝶をイライラへと導こうとしたが、そこにケルンが割って入った。ケルンは、よかれと思って唄ったのだが、それが囚牛をもイラつかせた。ケルンは酷いとも呼べない音痴だったのだ。囚牛の奏でる音楽は、超音波へと変じ、ケルンを襲ったかのように見えた。しかし、ケルンの装甲はその超音波を跳ね返し、その超音波は胡蝶へと向かった。胡蝶といえども超音波が見えるはずもなく、羽根が僅かだがザクリと切れた。

「なにするのよ!」

 何が起こったのか胡蝶は知らなかったが、取り敢えず、危険だと思ったらしい。この頃シベルの判断力も人並みとなり、その判断は“球の護”の印を結ぶことに繋がった。超音波もこの結界には歯が立たず、一先ずホッとした一行であった。


「わたしの歌声を聴かせてやるわ!」

ケルンとシベルに嫌な予感が襲ったが、さにあらず胡蝶の声音は澄んだソプラノで、ケルンとシベルに胡蝶が天使に見えたのは、あながち錯覚ではなかったのだろう。囚牛も蒲牢もその声音に聴き惚れているようだった。胡蝶の歌が止むと、拍手が鳴り響き、アンコールの合唱が起こる始末であった。拍手も合唱も蒲牢の演出で、そこには二人しかいなかったが、あたかも大勢の観客に囲まれているようだった。

「素晴らしい」

「ブラボー」

口々に言う囚牛と蒲牢は、胡蝶のファン第1号と第2号になってしまった。


 後に胡蝶の声音とここでの経験が役に立つのだが、この場所ではお披露目まで。


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