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乱象  作者: 酒井順
第2章 中国神話
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第6話 鉄壁のケルン

第6話 鉄壁のケルン


 蚩尤の合金談義は続いていた。それに興味を示すのはケルンだけで、胡蝶は不貞腐れていた。

「出番がないわ」


 蚩尤の合金談義が終わり、一息ついた時、胡蝶は躊躇いもなく言った。

「終わったんでしょ。先を急ぐわよ」

 しかし、話を終わらせなかったのはケルンで、ケルンは自分の身体を蚩尤の話す合金で再構築したいと思っていた。ここからは、カイロも話に加わって、どうすれば再構築が可能かという話題になった。面白くないのは胡蝶一人となり、胡蝶は蚩尤の兄弟を実験台とすることを思いついた。


 ケルンは、蚩尤の示す合金を“蚩尤鋼”と名付けたが、それは幾種類か在った。「これが最も硬いぞ」と言う蚩尤の勧めに従って、身体の全部をそれにしたいと思ったが「硬いだけでは身体を構築できない」と言うカイロの意見も採用して、身体の表面だけをそれにすることにした。さらに細部を煮詰めてみたが「それを全部実現することはできない」と言うカイロの強硬な反対に会って、いくつかの“蚩尤鋼”のサンプルだけを貰い受けることになった。ケルンの身体の制御は、進化を続けるニューロコンピュータであるカイロなので、ケルンは自分の身体とはいえ、カイロを尊重しなければならないのだ。しかし、蚩尤の譲らないものは武器だったが、これは兵器の専門家としては当然のことかもしれない。それでも「矛にしろ」と言う蚩尤を宥めて、両刃の剣を右手に装着した。これで、身体を覆う装甲と剣が揃って鉄壁そうなケルンとなったが、ケルンの身体は未だ発展途上であり、先が楽しみとなった。


 少し離れたところで、奇怪な笑い声があがったのは、その時だった。

「キノコだ。キノコが生えたぞ」

笑い声は、蚩尤の兄弟からのもので、その原因は胡蝶の実験にあった。確かに、配列は胡蝶と異なったが、蚩尤の兄弟もDNAを持っていて、その機序は同じもののようだった。あれこれと実験し、試した結果がキノコとなったのだが、胡蝶はその結果に不満だった。

「“発現”の印の結果がキノコじゃつまんないわ。酵素薬を探していたのに」

 しかし、ここは蚩尤の兄弟が喜んでくれたことに満足しておくところかもしれない。


――― アミノ酸を順序よく並べるところから、タンパク質の合成は始まる。並べてから完成するまでは、四次構造の立体化や修飾などの過程を経るようだが、ここでは、並びにだけ注目したい。その並びは遺伝子に記述してあり、人体の最小の並びの記述は、インスリンと言われている。インスリンは51個のアミノ酸の並びで記述されていて、51個のアミノ酸から並びの通りを数えてみると、実に20の51乗通りとなる。ここまでは重複順列によって明らかだが、依りに依ったのか?その通りの1通りだけが、インスリン遺伝子として組み込まれている。では、残りの並びの通りがタンパク質として機能しないと断言できるかというと、それは出来ない相談である。もしかしたらその通りの中に有益な高分子化合物が含まれているかもしれない。しかし、それを実験によって調べることは不可能だとは断言できる。なにしろ、20の51乗通り=(2の後に66個のゼロが続く数字)もあるのだから、考えるのも嫌になる実験だ。さらに衝撃なのは51乗とは最小のケースであり、230個のアミノ酸の並びでは、20の230乗通り=(2の後に299個のゼロが続く数字)となる。それ以上のアミノ酸の並びの通り数を計算すると、エクセルも嫌になったようで、エラーを返してくる。しつこくも再度言うが、人体の遺伝子にはその中から有益なものが選び出されて記述されている。残念ながら、選び出したのが、奇跡か意図かわかるはずもない。そして、選び出された通りだけが有益であるとは断言できない。つまり、人体に組み込まれている遺伝子情報以外に有益な未知の高分子化合物は存在するかもしれない。いや、存在するはずだと思う。―――


 さて、シベルは“円の観”と“球の護”を会得したようで、老婆から取り敢えずの合格点を貰った。さらにシベルは老婆から“智の極め”も教わったが、これは直ぐには物にならないようだ。シベルがいつ“智の守護者”となるのか分からないが、とにかく取り敢えず、胡蝶らと合流することになった。


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