第1話 犀犬(さいけん)の治療
この物語は、拙者の妄想と数学の未解決問題の解決に収束するはずなのですが、ストーリーの進みに自信がないので、ここで、こうやって宣言しておきたいと思います。物語は常に脱線しまくっております。
あらすじが長くなるのが不本意であり、また章の区切りもいいので、上の文章をここにおきたいと思います。
第1話 犀犬の治療
ノージとザリは、第5の刻点に向かっていた。ザリは、途中で別れて、他の人材を探しに行くようだが、シベルの師として少し寂しいのだろう。
「界主様も厳しい試練を課すものだな」
「確かに」
「俺たちだって、あそこで出会う生物全部と闘っていたら、命がいくつあっても足りはしない」
「だからこそ“逃げることに専念せよ”なのだよ」
「俺は、あそこに3人送ったが、1人も帰ってきやしない」
「私は、6人送って、6人共帰ってきたぞ」
「全部、同伴だろ」
「そして、4人は不合格。“推薦は認められません”だってさ」
「当たり前だろ」
早速というか、シベルがドジを踏んでしまった。多種生物圏の中の道なき道、その中でも比較的歩き易いと思われる獣道を進んでいたパーティであったが、シベルが崖の下へと転がって行ってしまったのである。トラに様子を見に行かせると、まァ、生きてはいるようだが、無事というわけではないようだ。皆が崖の下へと辿り着くと、シベルは悶絶していて、足には大きな傷を負っているようである。胡蝶は初級の書を取り出し、治癒の印を探していたが、悪態をつくことも忘れていなかった。
「ノロいとは思っていたけど、トロくもあるのね」
しかし、この悪態は悶絶しているシベルの耳には届かず、無駄なものとなった。
「あったわよ。治癒の印」
しかし、見つけた印は、傷口を縫うという、おそろしく旧い治療法であった。免疫の増加の印も書には記されていたが、胡蝶にはその説明が理解できなかったようなのだ。シベルを今、動かすことは、危険だと判断し、パーティはこの崖下で一夜を明かすこととなってしまった。
翌朝、シベルの様子を窺うと、足の傷口は塞がったようだが、高熱を発している。これ以上如何ともし難いパーティが途方に暮れている時、どこからともなく獣の鳴き声が聞こえて来、それが地中の中からだと察するにはそれほど時間は必要としなかった。胡蝶は、この圏に入った時から、獣の気配に敏感となり、その害意のある無しを嗅ぎ分けられるようになっていて、害意無き獣とは、意思の疎通がとれることを感じていた。
「この子たちに害意は無いわ。ちょっと、話しかけて見るね」
「ワンワン、どうしなすった。おや、これはいかん」
目の前に現われた獣は番いの犬で、犀犬と呼ばれていると名乗り、シベルの傷を治療し始めているようだった。
やがて、シベルの足は無傷となったが、その術式が気になる胡蝶は犀犬に尋ねていた。
「ねェ、どうやったの」
犀犬の術式は、印によるものではなく、胡蝶にとっては未知のものであったが、犀犬にもその術式を説明することはできなかった。
動態記憶能力を持つ胡蝶は、その映像を巻き戻して観察し、己のその時の感覚と合わせて、印への変換を試みていた。
「わかったような、わからないような。そうだ。シベル、また崖の上から落ちてきてよ」
胡蝶は、シベルを被験者としたいようだが、さすがにシベルにそこまでの気力は蘇っていない。胡蝶が「仕方がないか」と諦めかけた時、犀犬が「同行しましょうか」と申し出てきた。渡りに舟とは、このことで、胡蝶は喜んで迎え入れた。
かくして、8人となったパーティは先を目指すこととなったのである。正確に言うと、3人と4匹、それに1基というのだろうか。
この圏で最初に出会ったのが犀犬だというのは、一重に胡蝶の運のよさだが、犀犬の同行を拒まなかったのも幸運をもたらすはずだ。その事を胡蝶は知らず、また、その事を説明することは何者にもできはしない。
その時、一人の老婆が胡蝶のことに気付いていた。
「面白いものが、ここにやってきたものじゃ。一万年振りかのう。いや、もっとか、最近記憶に自信がなくてな」
そう独り言を言う老婆は、果たしてボケているのだろうか。




