第14話 痛恨の街
第14話 痛恨の街
この街でケルンは捕まった。破壊されたはずのケルンの製造番号が、生きていたという当局にとっては、失態にも近い不手際だったからだ。そのケルンは脱獄し、当局は、ケルンをお尋ね者として手配しているが、未だ有力な手掛かりは無い。
胡蝶にとってもこの街は痛恨の街である。せっかく、3つ目の目的地に辿り着いたのに「戻ってやり直せ」という者がいたからだ。その痛恨の原因となったノージは、胡蝶の師として傍にいる。しかし、そうであっても胡蝶には、縁起の悪い街だった。
胡蝶はこの街を避けて通りたかったが、そうはいかないようで、地図の刻点は明らかにこの街を指していた。
「嫌な予感がするわ」
カイロは、一行の個別情報を持っていて、作戦参謀となっていたが、他に適任者がいないのだから仕方がない。尚、ノージは一行には含まれておらず、オブザーバーという立場であった。
作戦その① トラの偵察
子猫となったトラは、門を難なく擦り抜け、街の中へと消えて行った。トラは、もの珍しそうに、塀の上や街路を散歩して行くのだが、その映像は胡蝶のものとなっていた。
「ここね。ここにトラップを張りましょ」
胡蝶は手ごろな場所をみつけたようだった。
作戦その② 夜間の侵入
胡蝶とケルンは、夜の闇に紛れて街の壁を越えた。胡蝶は羽ばたき、ケルンはウインチ付きの分銅を使い、ここまで作戦は順調のようだったが、その頃、街の警備室ではケルンの製造番号に反応し、アラームが鳴っていた。
「隊長、お尋ね者が現われました」
「なに、よし捕まえろ。いや待て、二人か。それに何処に行こうとしてるんだ」
胡蝶の選んだ場所は懐かしく、確かに盲点といえば、盲点だった。檻の中で、印を結び、フラクタル・トラップを築いたところまでは、作戦の中だったのだろう。しかし、その後が続かない。
警備隊が現われて、檻に錠をおろすと、隊長は言った。
「自首するとは、殊勝な奴らよのう」
これを痛恨の極みと言わずして、何がそうだというのだろう。
「やはり、この街は縁起が悪いわ」
その頃、ノージも気付いたのだろう。
「しまった。“トラップ・イン”の印を教えるのを忘れていた」
上級印の1つとも言えるテレポートを発効すると、ノージも檻の中となった。ノージも少しは危機的状況を把握したのだろう。
“オール・イン・ワン”“そこへ”
印を発効すると、警備隊の全てがフラクタル・トラップの中へと囚われた。
「ねェ、どうやったの?」
「後で」
そう言っている間に、トラが散歩から帰ってきて、錠をいじっていたのだが、なんと器用な爪なのだろうか。錠は外れて、皆自由の身となった。ノージは胡蝶に“トラップ・イン”の印を教えて、適当な場所に移動を始めた。“トラップ・イン”は、胡蝶の視界に入る全ての人をトラップへと導く印である。移動の最中に見つけた兵を“トラップ・イン”を使ってトラップへと導く胡蝶は楽しそうであった。
「これ、これよね。これでこそトラップよね」
“トラップ・イン”の長所は、場所指定がいらず、象界師の張った最新のトラップへと対象者を導くことだ。
「この場所は仕方がない。慌ただし過ぎる」
そう言ったノージは第3の刻点の結界を解除して、胡蝶に一丁の短刀を手渡した。一行が街を出て暫く行くと、ノージは「これがトラップ解除の印だよ」と胡蝶に告げて、痛恨の街には平和が訪れた。しかし、ケルンは相変わらずお尋ね者であり、カイロは「なんと言ってもデータ不足が響いた」とこちらは、さほど痛恨というわけでもないらしい。




