第13話 フラクタル・トラップ
第13話 フラクタル・トラップ
7ページ目の印を結ぼうとしていた胡蝶にノージは気付いていた。
(果たして、うまくいくかな?)
胡蝶の目は、爛々としていて、それだけでも何かを縛るようで、発効された印は、胡蝶の意思を尊重するようにフラクタル・トラップを築いていた。
(そろそろ、次の段階かな)
-7ページ目は理解できたの?-
-うん。次のページは未だだけど-
その本は7ページしかなく、次のページとは、7ページの奥の次のページのことである。
-じゃあ、3次の術者に昇格だ。おめでとう-
-そうなの。じゃあ、ありがとう-
-7ページ目がフラクタル・トラップの説明だって知っていた?-
-なんとなく、印の型からね-
-じゃあ、少し勉強しようか?-
-嫌っ、勉強嫌い、絶対嫌っ-
-少しだけだよ。それに勉強すれば、次のページがわかるかも-
-ほんと-
かくして、胡蝶の勉強タイムとなったのだが、その内容は次のようなことだった。
①フラクタル・トラップは実世界と虚世界の混合世界で、結界の基礎となる。印の型は、実部の数字と虚部の数字、それに加えて“虚空”の印となる。その3つの印の複合技ゆえ、3次となる。第1と第2の刻点の結界もこれが基礎となっているが、遥かに難解な次数で築かれている。7-2ページは、4次の技であり、3次の連携技で結界を強固にできる。
②印は“命子“のルールの中にあり、自然現象を印という言葉で実現するものである。
印の言葉は、意思により発効される。
③“命子“のルールを破る者、人道を著しく外れる者は、他の術者により抹殺される運命にあることを知るべし。
④尚、本日より、術者改め象界師と名乗る事。
-結界を張れる術者は1人前と認められたってことさ。おっと、象界師様だった-
-悪くないわね-
(胡蝶の成長がこれほど早いのは、天与の才もあるだろうが、他にもまだあるような気がする。まあ、それはよしとして、他のことも教えておいた方がいいだろうな。なにしろ、知っている事も多いけど、知らない事も多過ぎる)
この時、ノージは1つのことをすっかりと忘れていた。それは第3の刻点で明らかとなる。
-胡蝶、2ページ目はわかった?-
-うん。今2-3ページかな。これ印の型のページでしょ-
(やはり、このページの進みが早いな。そろそろ説明しておくか)
-ねェ、胡蝶は印の型をいくつ覚えた?-
-よくわかんないけど、100は越したかな-
-じゃあ、100をNとしよう。胡蝶は3次の象界師だよね。これをrとしよう。印の型の組み合わせは、Nのr乗通りとなるんだよ-
-えっ、そんなに。でも、それがいくつかわかんない-
-いくつかわかんなくてもいいんだよ。それらのほとんどの組み合わせは、意味を持たないからね。その通りの計算方法を重複順列と呼んでいるけど、これも覚えなくていいよ。大事なのは、その通りから意味のある印の複合技を見つけ出すことなんだ-
-どうやって?-
-それは経験だね。でも、ヒントはあるよ。印は、大きくわけて“説明の印”“繋ぎの印”“実効の印”の3つに別れるんだ。まあ、これも追々だね-
-は~い-
-最も大切なのは“実効の印”で、これはレベルがあって、難易度が違うんだよ-
-3ページ目に行こうか。これは照準のページだね。何ページまでいった?-
-3-3。でもね、視界とか角度とかはなんとなくわかるんだけど、射程というのがよくわからない-
-それはね。個人が持つ印の波形で決まるんだ。他にもいくつかあるけど、大事なのは、その印の波形の最大振幅が対象に当る距離で印を発効することだよ。これは胡蝶が見つけなきゃ誰も教えてくれないよ-
-4ページ目は?-
-まだ、4-1。精神力ってなによ。いくら読んでもわかんない-
-そこが難所か。精神力は印の実効の威力に直接影響するんだ。胡蝶は若いし、経験が浅いから仕方ないけど、まだ精神を制御できていないね。大事なのは集中力だよ。それより大事なのが想うことさ-
(胡蝶には、計り知れない潜在能力があると見た。後は、むらっ気をどうするかだが、経験を積むしかないだろう)
-5ページ目は総合編だね。自分で考える事。想うこと。次数について。鍛練の仕方。いろいろ書いているね。このページは自分で覚えたり、試したりするのがいいんじゃないかな-
これで、胡蝶の持つ本の説明は全て終わり、後は胡蝶の成長を見守るだけとなったはずである。




