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乱象  作者: 酒井順
第1章 象界師
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第10話 考の刻印(1)

第10話 考の刻印(1)


 ノージの影響で目的地を刻点と呼ぶようになった二人は、第2の刻点に向かう途中に本の地図のページを開いて見た。すると、老婆と出会った地点から第1の刻点に赤い線が結ばれていた。赤い線は刻点を通った証となるのだが、未だ二人にとって意味は無い。


 道中の休憩となると胡蝶は、トラに無理難題を注文していた。

「空を飛べ。分身しろ!」

「無理だよ、胡蝶。個体にはできることと、できないことがある」

「個体?」

 ノージは胡蝶に説明したが、いくら言葉を変えても伝わらない。

(もしかして、胡蝶ならこれができるかな?)

 ノージは、直接胡蝶の精神に働きかけた。

-聞こえる?-

-聞こえないけど、聞こえる-

 ノージは確認すると、伝えたいことをイメージとして送った。

「わかる。わかる。こういうこと?」

 胡蝶はノージに個体の意味をイメージとして送ってきた。

「そうだよ」

(やはり、胡蝶は感性型なのだ。勘のよさはここからくるのか)

 この時から、ノージの胡蝶への伝達手段はイメージとなった。


 だが、レベルをおとしたとはいえ、胡蝶のトラへの無理難題は続いた。そうしている中に、トラも無理難題に嫌気がさしたのか、突然消えてしまった。胡蝶はただ“戻れ”と言っただけなのに。

-ねェ、ノージ。トラが消えちゃった-

-消えたけど、トラは胡蝶の意識下に戻っただけだよ。“出ろ”と言って見て御覧-

 トラが元に戻って一安心したが、胡蝶の無理難題は続く。

「小さくなれ」

「無理だよ、こ…」

 ノージが言い終わるかの時にトラは子猫のように小さくなった。

(何故だ。ありえない)

 この事実を知ったら、ノージの驚きは数倍にも膨らんだだろう。それは、トラの目にした映像が胡蝶の映像となっていたことだった。

-ねェ、ノージ。トラが戻らない-

-それはね、トラにかけた印を解除していないからだよ。解除の印を教えよう-

-ほんとだ。戻った-

 その頃、ケルンは依然として黙々とメカの改造に余念がなかった。


 第2の刻点に着き、ノージの言うことには“早速、印を刻め”ということだった。

「ここ、準備はいらないの?」

「そう、まず試して御覧」

「は~い」

 胡蝶が印を結ぶと、ケルンもトラも結界の中へと消えて行った。どうやらここはチームで克服する刻印のようだ。

(第1の刻点は一瞬で克服したようだが、ここはどのくらいかかるかな?まずは問題を知らないと考えることも、悩むこともできない)


 胡蝶が結界の中に入ると、目の前に1つの扉があり、そこには『考えよ。そして、悩め』とあった。そのメッセージは文字と共にイメージとしても送られてきて、文字に不自由な胡蝶にとっては幸いなことだった。


 扉を開けると、そこに問1があった。

『1から999まで足し算をせよ』

「何よこれ!自慢じゃないけど、わたし計算は苦手なんだから。しかも、制限時間1分ですって」

「任せて」

 自信たっぷりに言い放ったケルンは、自分の胸に呟いていた。

「1から999まで足し算できる?」

 答えは一瞬で返ってきた。その答えを言うと、何処からともなく『ファイナル・アンサー?』と聞こえてきて「ファイナル・アンサー」と答えた。『次に進みなさい』

 どうやら1問目はクリアできたようだが、不思議そうにしているのは、胡蝶だった。

「何したの?」

「僕の話相手だよ。最近胡蝶が僕の相手をしてくれないからメカの改造で話相手を作ったんだ」

 ケルンの話相手は、ニューロコンピュータの原型とも言えるもので、自己学習を行うものだった。今ではケルンの頭脳を遥かに上回り、未だ進化を続けているようだった。


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