小さな争い(1)
(まずは村長を探す事だな…。)
サーシャはピーノに任せ、単独で村長を探す事にした。
悲しい事だが、大体病人は村八分になる。小さな村には医者はまずいない。しかも特殊能力者は能力や体の作りも様々な為、病名が分からず終いな事も多い。特殊能力というと聞こえがいいが、ただ人間以外のDNAが混じっているだけだ。組み合わせによっては役立つ能力もあるが、ピーノの様に声が綺麗などと一見役立たない能力が殆どだ。婆様の昔話によれば、特殊能力者が子供を産むとほぼDNA異常者になるという。そしてその子らは長くは生きないそうだ。恐らくは人口爆発を恐れたのではないかと…。本当に人間とは愚かだとも思うが、特殊能力者は細々と生きるしかない。サーシャも恐らく親子ではない。よく村で見かける親子も殆どが仮初めの家族だ。人間支え合わなければ生きていけないものだと、つくづく思う。
(しかもあのサーシャのお母さんは植物系に思える。種によっては20年も生きてはいれないかもな…。)
特殊能力者には系統と種がある。
ピーノの場合は鳥類系オウム種になる。これが同じ鳥類系のコンドル種だと、割に寿命も長く体も丈夫だ。きっとサーシャのお母さんは植物系の草本種の何れかだろう。寿命が短命の種のひとつだ。そして植物系は罹病しやすいのが特徴だ。水と明かりがあれば少々食べなくとも大丈夫だが、この星ではその明かりを得る事がどんなに難しい事か…。
(村の人々も短命を承知の上で、手出し無用と思っているのだろう。)
時化だからだろうか、よそ者はあまりいない。正直サーシャを連れた瞬間から、誰も近寄らない。もうサーシャの親と接触済みなのはばれているのだろう。植物系の病気は同系統にとっては感染り易い。サーシャは恐らく植物系ではないから感染らないのだろう。村人もしくは村長が植物系だと下手すれば逢ってもくれなくなる。
(一番いいのは植物系でない奴と接触できるといいんだがな…。)
キョロキョロと見回すと時化にも拘らず、漁網の手入れをしている者がいる。かなりガタイがいい男だ。
「今忙しいか?」
「手入れしてるんだ、忙しいに決まってるだろが!…いやお前さんに時化の事で当ってはいかんな。」
男は無愛想ながらも、笑い返してくれた。こちらを嫌がるそぶりも見せない。
「サーシャを知っているか?」
「ああ、ラパスの所に一緒に住む娘だろ?」
(…ラパス?母親の事か…。)
「何を聞こうとしているかはわかる。ラパスの病名だろう?」
「…ああ、そうだ。話が早くて助かる。」
「見た目からして、恐らく灰色カビ病だ。流行り病で、衰弱死も出とる。」
「じゃあ…治療方法がないとか?」
「いや別に不治の病って訳じゃない。…ただその薬を手に入れるのが難しい。」
「…どういう事だ…?えっと…。」
「俺はスシャリ。灰色カビ病に効く薬がもうねぇんだわ。」
「そんなに流行ったのか…。」
「といっても亡くなったは3人だ。だが他の植物系の村人は15人ほど感染った。そいつらの世話をしてたラパスが最後に感染っちまったのさ。流石に尽きてしまった。」
辛そうな表情でスシャリは更にこう教えてくれた。
「ここには医者はおらん。あの薬の作り方も知らんから、シラバクの医者にまたお願いするしかないのだが、如何せん金がねぇ。」
「…。」
「普通は同系統だと病気に感染るから、世話はしないもんなんだ。が、その灰色カビ病が原因で哺乳類系と植物系でちょっと諍いがあってな…。」
その後色々と詳細を聞いたが、時化も重なって全く稼げないらしい。
「若い奴らが出てしまう程仕事がなくて稼げないんだ。当然村自体も大したお金もない。日々暮らすだけで必死さ。更には村人同志で揉めている。」
「揉めてる?」
「灰色カビ病の原因が哺乳系の村人にあると思われてるんだわ。」
「実際の所はどうなんだ?」
「…まぁ疑われてる奴は判明してるが、ただそいつにも言い分もあってだな…。」
(…これでは埒が明かない…。仲間を吊し上げれないのもわかるが…。)