二人の日々(5)
朝は大変だったが、ピーノが色々と旅の支度をしたお蔭もあり、滞りなく旅に出れた。
アサバルまでは二日掛かるが、馬車であれば夜通し走るので明朝には着く。ただ馬車代が高いのが玉に瑕だが。
(ピーノは無駄遣いが嫌いな癖に、こういう出費は反対しないんだよなぁ…。)
横の二人の寝姿を見ながら、ふと思う。
(あとこの子もな…)
生まれたばかりの雷竜のヒナの頭を撫でる。孵化の瞬間を目の当たりにする事が出来れば、親と認識する。私もぎりぎり起こされて、3人ともに親と認識した様だ。雷竜は草食だから、さほど育てにくくはない。ただ孵化以外の方法で懐く事はないので、持っている事自体レアではある。
(頑張って育てるんだぞー…って、大丈夫かねぇ)
心でサーシャへ応援の言葉を思いながら、そっと頭を撫でるのだった。
やっとアサバルに着く。
ここは漁村だ。しかし最近ずっと時化が続いて、漁に行くことすら出来ないでいた。市場も生魚は全くなく、殆どが干し魚のみ取り扱う店が並ぶ。
「生魚はないが、美味しい一夜干しがあるよ~。寄ってきな~!!」
朝の市場らしく、大声で客引きしている。
「…んと、こっちだよ…。」
少し眠そうにサーシャが道案内をする。しっかりしている様に見えても、やはり子供だなと改めて思う。
(緊張の糸が切れたのか…。恐らくうちらに会うまでは宿どころか、飯すらまともに食べてなかったに違いない。)
ふうと軽く溜息をつきながら、サーシャの後ろに続く。ピーノは少し心配顔だ。
「そんなに心配しなさんな。きっとサーシャのお母さんも無事さ。」
ピーノを抱きしめながら、ニア自身にも言い聞かせるつもりで呟いた。
「そうさ。きっと大丈夫だ…!」
「ただいま!おかあさん!」
家に飛び込んで行くサーシャを見て、ピーノと顔を見合わせる。私もだが笑顔に溢れている。
(ああ、家族っていいな。)
「…お帰り。…ゴホッゴホッ。客人かい?」
「…うん。栄養のある物食べて、病気治そう?」
サーシャが見上げながら言う。
「ああ、そうだね。ゴホッ…すみません、この子が我儘言ってすみません。」
「お気になさらずに。まぁ料理は私ではなく、このピーノが作る訳ですが。」
「(*^_^*)」
「ピーノは喋れませんが、料理の腕は間違いありません。台所を借りてもいいですか?」
「…ええ。ただかなり狭くて、小さなかまどがあるだけですけれど…。」
ピーノが笑顔で頷く。
「大丈夫です。私たちは旅芸人です。狭い台所に慣れてますから。」
腕を捲り上げながら、ピーノが台所に向かう。
「さぁ料理はピーノに任せて、果物や野菜でも採り行きたい所だな。あるか?」
「うん!近くにヤシの木もあるから、ヤシの実を採りに行こう。」
サーシャと海岸近くに生えているヤシの木までゆっくり歩いていく。
「ピーノの腕は間違いないから、安心しろ。」
「うん、ありがと。最近は食べるのも辛そうだったから。心配なんだ…。」
「…病名はわからないのか?」
サーシャはコクリと頷く。
「そうか…。まずは暫くしっかり食べさせる事だ。あとここの村長に会って話がしたい。」
「どうして?」
「まず、病名を知りたい。この村の規模では医者がいないんじゃないか?」
「うん、そうだよ。この村には医者がいない。そして母さんに近づく人はいない。もうダメだって…。」
サーシャはぐっと堪えながら、さらに言葉を続ける。
「最近は僕に近づく人もいないんだ。感染るのが怖いって…さ。…でも僕には分かるよ!感染る様な事はないって!」
ニアはサーシャの小さな体を抱き寄せる。
「ああ、心配するな…。まずはしっかり体を休める事だ…!」