二人の日々(2)
最近の定番となりつつあるのが、夕飯後にはピーノに文字を教える事。お蔭でピーノがここまでどういう経緯であんな所にいたかもが分かった。以前いたお屋敷ではひどい扱いであまりいい話はなかったが、ピーノがお姉さんを探している事が知りえたのは良かったと思っている。まずは自分の情報だけではなくピーノのお姉さんの情報も集めているが、なかなか難しい。
「ああそれは人参だな。…で、それは玉葱。…いやそれ覚えなくていいから。」
“だめ。玉ねぎも食べなくちゃ。カレーには必須でしょ?”
「まっまぁそうだけど、大嫌い!!玉葱は!!」
「ヽ(^。^)ノ」
(くそう…料理の腕だけは抜群だからなぁ。)
こればっかりはしょうがないとは思いつつ、完全に尻にひかれている事実を再確認するしかないニアだった。
旅芸人だけでは食繋げても、如何せん路銀が足りない。暇を見つけては剣士の仕事がないか店に顔を出す。剣士の仕事と言えばギルド“グリッド”が一番だ。ラシアナから逃げてから暫くはグリッドへの登録を躊躇した。何故なら赤服の奴らの待ち伏せがあるのではと疑っていたからだ。暫くは婆様からの端金で凌げたが、半年も経たないうちに貧窮し、何かで稼ぐしかなくなった。恐々登録してみたがニア自体偽名だったらしく、待ち伏せという不安は杞憂に終わったが…。どの街でも大概グリッドの支店はある。有名ギルドっていうのは伊達じゃない訳だ。因みに仕事の受託方法は、登録された印の銀指輪さえ見せればOKだ。キャリアや過去の仕事内容によって銀指輪のデザインと数が違う。私は2銀指輪で一つは石付き(オレ)だ。普通は一つ目が全くの初心者、二つ目を得るのに約一年。後はどんどん倍年数掛かるとされている。石付銀指輪はモンスターを倒す仕事の出来る剣士に半年程でなった事が分かる。流石に全てのモンスターを相手に出来ないが、唯のお使いよりはお金もいいし、さらに上の剣士への道も開ける。本来ならもっと強いモンスターを相手にしたいのは山々だが、ピーノに余計な心配を掛けたくないので、1銀指輪で受託出来るお使いに毛が生えた程度の仕事のみしている。次は二年掛かる所を一年以内であるレベル以上のモンスターをやっつけて、素材さえ持ち帰れば石付銀指輪が貰える。あと半年以内だから、ピーノの様子を見定めてから考えようかと思っている。ここの所落ち着いて来ているから、そんな先でもない気がする。
「やぁ!元気かい?今日も1銀指輪の仕事で身入りのいい奴が希望だ。」
受付のおばあさんのメガネの下からギロリと睨みながら、台帳に唾を付けながら捲っていく。
「昨日もそうだが、あんた2銀指輪のグリッターなのにただのお使いがいいのかい?」
「…まぁ他の仕事もあるし、まずは食えればいい。今はさ。」
「もったいないねぇ。今日は2銀指輪で5千ゴダの仕事があるがね。」
「2銀指輪でも破格の報酬じゃないか。普通3千ゴダでもいい方だっていうのにかい?」
「ああ…仕事自体はそんなに難しくはない。何せパンの実を採りに行くだけだからね。1千ゴダ報酬仕事だよ、昨日までは。」
「大物が近くにいるのか?」
「そう大物が近くで子育て中でね。しかも数もまとめて欲しいから、運び主やラクダの守りも仕事になるね。」
「むむむ。その大物モンスターの情報はあるのか?」
「雌雷竜だよ。しかも子育て中だから桜色だ。確かに危険ではある。しかしお前さんからすると、ギルドテストのモンスターの一つだから行きたいだろう?」
そう。桜雌雷竜の逆鱗を持って帰れば、石付銀指輪が貰える。確かに二度おいしい。
「うーむ。」
「まぁあんたでなくでも、こっちは誰でもいい、仕事さえこなしてくれればさ!今すぐ決めておくれ!」
(オイシイ仕事にゃ違いないんだが…。しかもそろそろ次の街に行きたいしねぇ…。)
意を決して言う。
「この仕事もらえるかい?」