二人の日々(1)
かの昔この砂漠の星に住まう事になった人類がいた。
彼らは、銃などの大量破壊兵器や武器を母船に封印し、唯一持ち込んだといえるのがテラフォーミング装置と遺伝子操作装置と永久発電装置の三つである。
その星で人類は生きる為に、遺伝子を弄った人を生み続けた。純血種を守る為に奴隷という名の特殊能力者をも産み落とす事となった。
彼らはその星をダークムーンと呼んだ。
銀色の長髪の少女が毛布に包まれてうつらうつらと惰眠を貪っている。
「…も、もうそんな、そんなに出されても食えないって!…サービ…ムムム…。」
寝言を言うその少女に近づき、翡翠色の短髪の少女が体を揺らす。
「…にあ!にあ!」
さらに揺らすが起きない。短髪の少女は腕まくりをしてから、長髪の少女へ体ごとダイブする。
「あぅぇ!分かった!ピーノ分かった!起きるから!」
ニアは仕方なく寝床から起き上がる。
「ご飯でも出来たのかい?」
「♪」
ピーノが嬉しそうに頷く。ピーノは言葉を喋れない。彼女の声は今や音階のみ。幼い頃少しばかり喋れた様だが、以前いた館の主にひどく虐待を受けていた様だった。何て事だろうか…折角あんなに美しい声なのに…。声や見た目からして鳥の遺伝子が恐らく混じっている。最近やっと私の名だけ言える様になったので、少しほっとしている。体の線が細く、いかにも女の子という感じのピーノ。それに比べると、剣士での生業もする私はかなり骨太で男勝りではある。…ガサツな所をピーノに怒られる事もあるが、あの子をずっと守っていけたらなと思う。
「ん、美味しいw」
ガツガツ食べながら、ピーノの頭を撫でる。最近は稼ぎが悪かったからかお肉はない。なくても大丈夫だとは言ってあるものの、肉を食べ体力を付けなければ特殊能力を発動出来ない。こっちの方が簡単に稼げるが、如何せんピーノが嫌がる。今はのんびりと旅芸人をしながら日銭を稼いでいる。そして街々で自分のルーツの手がかりを探している。
今日もピーノと組んで町の広場で日銭稼ぎだ。
ピーノのハミングに合わせる形で私の剣で舞い踊る。そんな旅芸人の様な事で、食い繋いでいる。剣の美しさをもしも気にいってくれれば、その剣を売って…と二重の構えで頑張っている。剣は私のエンドで生み出した物だ。私のエネルギーが満ち、さらに月のエネルギーを受けて生み出せる。私は子供を産んだ事はないが、それに等しい程の体力が奪われている感じがする。心配させない為にも生みの場には来ないでと言っていたが、先月見られて以来エンドを使うのをピーノが本気で嫌がる様になっちまった。まぁ剣士の仕事もあるし、稼ぐのは何とかなるだろうと高を括っているけど…この適当な感じがピーノに怒られるんだよなぁ。
「さぁ今日も日銭稼ぐぞー。さぁピーノ歌って。今日は炎が躍るような踊りをするよ!」
「(^_^)/」
ピーノは胸に手を置き、すっと息を吸う。
「♪~♯~♭~♪」
鳥の声と笛の音を合わせた様なピーノの声。一人で歌っているのに、和音の様な不思議な音色。やさしいメロディーからどんどん激しく、まさに炎が踊り狂う様なメロディーになってく。その音色に乗せた歌に、ニアの腕につけ鈴の音が重ね合わされ、不思議な音色の糸が紡ぎだされる。
(…すごく気持ち良く踊れる。前はお互いぎこちなくて、合わせるだけで精一杯だったがなぁ。)
「♪♪~♪♪♪」
「シャリリン…シャシャン~♪」
ニアの剣の舞はシャープな動きの中にも、ふわりと息を抜く一瞬がある。お客が息を飲む程の美しさ。
「♪♪~」
「シャンシャシャ…ン」
剣を持つ腕を振る度、汗が舞い上がる。
このまま二人のんびり暮らす事が出来ればと思う事もある。けれど…婆様の言葉が胸を突く。
(「お前のルーツを知るのは、茨の道だよ。そしてまだ力が足りない。シンガの修業を終えてからでないとダメだ。」ってよく言っていたな…)
事実シンガの修業はかなり大変だった。でも今では感謝の気持ちしかない。婆様とシンガと別れたあの日。謎の赤服のやつらが襲ってきた。暫くは逃げるだけで精一杯だったが、二人が生きていると信じるしかなかった。二年程過ぎ去ってからラシアナに帰ったが、やはり殺されていた。顔見知りの病院のシヒチの話だと家もかなり荒らされたらしい。そしてシヒチから受け取った赤い石の指輪…。昔一度だけ触っただけで怒られたこの指輪。私のルーツを調べるのに唯一無二のだが、知らない誰かに見せるのは危険だから首から掛けている。この指輪を見る度自分が生まれた理由が知りたい。しかし今はピーノを危険な目には遭わせたくない。迷いはあるけれど、急いてもしょうがないなと。
「♪~♯~♭~♪♪♪」
「シャラララ…シャン」
周りからパチパチと拍手が出る。この感じだと結構お金貰えたかな?ピーノも凄い笑顔だし…♪
「さぁ宿屋に帰るか?」
「(*^_^*)」