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道化師は正義を嗤う  作者: サツキ
クラウン・クラウンのお仕事は?
5/7

ヒーローは遅れてやって来る

 「さてと、追い詰めたぜ。おとなしく捕まってくれると手間が省けて楽なんだが、さすがにそうはいかないよな?」


 目の前には逃げた男たちが身構えている。なんとか封じていたドアを破られる前に追い付けたのはいいが、人数に違和感を覚える。確か逃げた人数は12人。しかし今、目の前にいる人数は何度数えても1人足りない。途中で足止めに来たりはしなかったので、どこかに隠れて隙をうかがっているのだろうか。



 「たった2人、しかも片方は女だと!?こんな奴らに部下たちはやられたっていうのか!?」


 わなわなと怒りに震えているのか、いかにも小物然とした小太りの男が指差してくる。どうもその中年男の顔に見覚えがある気がする。どこで見たんだったか……?



 「あ、思い出した。あんた軍のお偉いさんだな。階級は覚えてないけどなんかの機会に見たことがある」


 「なっ、そこまで知られてしまったからにはますます生かして帰す訳にはいかん!お前たち、構えろ!」


 ほんとセリフまで小物っぽくてなんだか笑えてくる。軍でそれなりの地位まで上り詰めたんだから、もうちょっと落ち着いててもいいもんだと思うんだが、軍人でも平和ボケってのはあるものなんだろうか?



 「レイスさん、この状況はちょっと不味いんじゃないですか?」


 「心配すんなって。仕込みは済んでる」


 不安そうに聞いてくるティアを背に隠して射線から庇う。



 「おうおう、血気盛んなのはいいが……頭上には気を付けたほうがいいぞ?」


 「なに!?」


 慌てて頭上を確認する者、何かされる前に撃ってしまえと反応は様々だがすべて遅い。シングルアクションで作動する設置型の捕縛結界が起動し、魔力で編まれた鎖が地面から生えて男たちを雁字搦めに縛り上げた。



 「なっなんだこれは!?」


 「捕縛結界さ。全部の出入り口に同じものをあらかじめ設置しておいたんだよ。1人も逃さないためにな」


 「くそっ、こんなところで終われるか!」


 「はいはい、何かいい言い訳でも考えとけよ。ドラグーンの横流しなんて、重罪にも程があるぞ。しかし取引相手のそちらさんはずいぶんと余裕だな?」


 白髪の混じった髪をオールバックにまとめた壮年の男は終始無言のまま、こちらを観察するような視線を向けているのが少し気になる。さらに気になる点があるとすれば、情報にあった猟兵イェーガーが上官の危機に未だ姿を見せないことそのものがおかしい。もし、誰かの命令があるまで待機しているとすれば、その相手とはいったい誰だ?



 「君の顔に、わたしも見覚えがある」


 「へ~~、裏組織の人間に顔見知りを作った覚えはないんだけど、どこかで会ったか?」


 ようやく口を開いた壮年の男の顔に焦りの色は見えず、どこか余裕すら感じさせる。その余裕がどこからくるものなのか、それを推察する前に男の放った一言は俺の思考を止めるのに十分な破壊力を秘めていた。



 「ああ、よく知っているよ。ゴースト・カーニバルの団長さん?」


 「なっ!?」


 「レイスさん!!」


 半ば放心状態になっていた俺は体当たり気味に背中を押され、足がもつれて転びそうになったがなんとか持ち直す。と、同時に背後で剣を打ち合う音が響いた。



 「ティア!」


 「くっ、強い!!」


 「邪魔だ」


 振り返って見たときには助けに入る間もなくティアの剣が上に打ち上げられ、無防備に晒された腹部に襲撃した男の蹴りが突き刺さる。どれほどの衝撃があったのか、10メートルは離れた木箱まで弧を描くように宙を飛んで叩きつけられてズルズルと崩れ落ちて座り込み、気を失っているのかぐったりとして動く気配が感じられない。



 「てめぇ、よくも……!!」


 「戦場で気を抜く方が悪い」


 勢いに任せて斬りかかり、鍔迫り合いになる。自分の身長よりも頭一つ分ほど大きい男に対してこの体勢は不味い。相手はそのまま体重を乗せてくるのに対して、自分は自然と耐えるような形となって動きが制限されてしまう。



 「そらどうした?反撃してこないのか?」


 挑発してくるように言ってくる男の顔には獰猛な笑みが浮かび、それはまるで獲物を前にした肉食動物のようだ。



 「お前が情報にあった猟兵イェーガーか。てっきりあっちの小物っぽいおっさんの部下かとも思ったが、どうやら違うようだな?」


 「だったらどうだと言うんだ?」


 「マフィアと軍高官との汚職事件って訳じゃない。どちらかと言うと元軍人と現役の人間が繋がりを利用して武器の横流しを受けている。旧式とは言えドラグーンまで持ち出して何を企んでやがる?」


 「それをオレがしゃべるとでも?」


 「ああ、それもそうだな!!」


 鍔迫り合いになっていた剣から力を抜いて受け流す。鞘の代わりに刃の上を滑らせることで摩擦が生まれ、居合切りと同じ要領で剣速を加速させる。



 「ぐっ、あぁぁぁあっ!!!!」


 頭から真っ二つにするつもりで剣を振り抜いたが、惜しくもギリギリでかわされて左腕を切り落とすだけに止まる。男は左腕を押さえて後ずさり、追撃をかけようと思ったが男の背後にティアがいることに気付いて足を止める。



 「はぁっはぁっはぁっ……、動くなよ。蹴りだけでもオレはこいつを殺せるぞ」


 「ああ、はいはい。わかったよ。おとなしくするさ」


 剣を捨て、両手を挙げて降参のポーズを取る。そうしているうちに男の左腕からの出血が収まっていき、傷口が塞がったのか右手を離して剣を改めて握り直す。相変わらず猟兵イェーガーの回復力、いや再生力には本当に呆れるばかりだ。

 まあ、自分も人のことを言えた義理ではないが、猟兵イェーガーケモノの遺伝子を体内に取り込んだ改造人間みたいなもので、その生命力は尋常じゃない。そしてさらにはもっと厄介な能力があいつらにはある。



 「さあ、うちのボスを解放してもらおうか?」


 「イヤだと言ったら?」


 「この女が死んでも?」


 ティアの首元に剣の切っ先が押し当てられ、少し切ったのか一滴ひとしずくの血が流れ落ちる。


 「そいつも死ぬ覚悟があってここに来た……なんて言いたいところだが、ほんとかどうかは分からんからな。いいだろう。人質交換といこうじゃないか?」


 「取引できる立場にあると思っているのか?」


 「お前こそ、飼い主がどうなってもいいのか?」


 脅しをかけるつもりで拘束している鎖の戒めを強くする。締め付けられた男たちは苦痛にうめき声を上げ、さらに何人かは足の骨を砕いて本気であることを示す。



 「わかった、ならばこうしよう。先にお前が半数を解放しろそれを確認したらオレはこの女から距離を取る。その後に残りを解放するというのはどうだ?」


 「それでいい。じゃあ先ずは俺からだな」


 ただのパフォーマンスではあるが指を鳴らし、当然だがボス2人を除いた手下たちから足を砕いた者を優先に6人を解放する。余計な邪魔をされないよう、念には念を入れてマシンガンを砕いて用心しておくことを忘れない。



 「さて、言われた通り解放したぞ。今度はそっちの番だ」


 「オレが離れたら、すぐに残りも解放してもらうぞ」


 「心配するなよ、俺は約束を反故にするつもりはない」


 お互いにジリジリと円を描くように移動し、男がティアから十分に離れたのを確認してから結界を自壊させてティアの元に駆け寄る。



 「ティア!ティア!おい、しっかりしろ!」


 男たちの方向に顔を向けて警戒はそのままに、ティアの容態を診る。肩に置いた手から軽く魔力を流し込み、ダメージの具合を探る。幸い内臓までダメージは届いていないところを診るに、戦闘服に耐物理障壁の魔術でも仕込んであったのだろう。だが、それでも腹部と背中を襲った衝撃、さらには頭を木箱に打ち付けたせいで脳震盪でも起こして気絶といったところか。頭を打っているということは相当にヤバい状態と言わざるを得ない。



 「んぅ……レイ、スさん?」


 「気付いたか?少しだけそこでじっとしていてくれ。すぐにあいつらを片付けて、病院に連れて行ってやるから」


 「すみません、足手まといになってしまって」


 「バカ言うな。助けられたのは俺の方だよ。だからお前はもう、休んでていい」


 「何やら不穏な言葉が聞こえたが、この状況でまだ勝てるつもりでいるのかな?」


 ティアに応急処置の回復魔術を起動させたカードを握らせ、自分はティアを守るように立ち上がる。



 「ああ、そうだよ。生きて帰れると思うな。お前ら1人残らず駆逐してやる」


 「よく言った。その言葉、後悔させてやる。ボス、限定解除の許可を」


 壮年の男に向かって言っていることから、この猟兵イェーガーのボスがあの男であることが確定した。そして限定解除という言葉。さすがにこれはヤバい。これであいつ1人ならまだ何とかなるが……。



 「許可しよう。良き闘争をするがいい」


 「はっ、了解です。いくぞお前ら!」


 「あ~~、マジかよ?さすがにこれはヤバいなんてもんじゃないな」


 目の前の大柄な男だけならまだしも、さらにその後ろにいた4人も猟兵イェーガーだったらしい。犬のような唸り声を出したかと思うと、体をぶるっと震わせて異常が現れる。男たちは体格から変わったように筋肉が盛り上がり、一回り大きくなったように感じさせる。黒服のスーツが裂け、ほとんど短パンだけのような格好になる。さらけ出された上半身には黒い体毛が覆い、指も長く伸びて凶器と言っても差支えなくないくらいに爪も鋭くとがっている。そして極めつけは男たちの顔。口が伸びて鋭い犬歯が覗き、その顔はまるで狼そのもの。通称狼男ウェアウルフと言われる男たちがそこにはいた。



 「覚悟しろ。八つ裂きにしてやる」


 「切り落とした腕まで再生しているとか、ほんと化け物染みた奴らだな」


 小太りの男の部下たちは異形と化した男たちに怯えているのか、ジリジリと後退して2人を護衛するように固まっていく。これで向かってくるのは5人。人数的な不利はさることながら、ティアを護衛しながらとなるとさすがに厳しい。



 「これは俺もちょっとは本気を出さないと無理だな」


 胸元にかけたエメラルドグリーンに輝く宝石を加工して作ったような十字架を握りしめ、ありったけの魔力を注ぎ込んでネックレスの鎖ごと引きちぎって叫ぶ。



 「いくぞ、サウザンド・ブレイズ!」


 十字架が手の中で一瞬光り、それが収まるころには2メートル近い棒になる。それを構え、一斉に飛びかかってきた手下の4人を迎え撃とうとした瞬間、天井を突き破って何かが飛来し、目の前に着地した何者かが4人の狼男ウェアウルフを一刀のもとに斬り伏せた。



 「くっ、いったい何が起こった!?」


 叫んだのは誰か、それすら判然としない状況で砂煙をまとって突然現れた何者かは目にも止まらないスピードで男たちの間を駆け抜けて行く。2人のボスは剣の腹で殴って気絶させ、残りは一刀のもとに切り捨てられる。そして残ったリーダー格の狼男ウェアウルフをすれ違い様に切り裂こうとしたが、それを寸でのところで防がれてしまった。



 「てめぇ、何者ーーっ!?」


 ギリギリと剣を交差し、ようやく突然乱入してきた人物が止まったことで姿を観察することができた。乱入してきた人物は白銀に輝く騎士甲冑きしかっちゅうを身に着け、その手には見事な装飾が施された両手剣が握られている。誰かの危機ピンチ颯爽さっそうと現れ窮地から救う、そんなまるで物語の英雄ヒーローみたいなことをやってのけたあいつを俺は知っている。



 「なっなんでこんなところに13英雄の1人が現れるんだよ!?」


 「誰かがピンチの時にはすぐに駆けつけて助ける。それが正義の味方ヒーローの役割だろう?そんなことも知らないのか?」


 兜のせいで表情はうかがえないが、心底なんでそんなこともわからないのか?と不思議がっていることを感じさせる。余裕の態度を崩そうともしない彼の背丈は165㎝ほどで自分よりも小柄なのに、自分の二回りも大きい相手に全く引けも取らず、逆に押し返そうとしている。



 「くそっ、ふざけんじゃねぇ!!」


 膠着こうちゃく状態に痺れを切らした狼男ウェアウルフが無理やり剣を弾き返して距離を取り、自分の中の恐れを払拭ふっしょくするように雄叫びを上げる。大きく剣を振りかぶって突撃してくる狼男ウェアウルフを冷静に迎え撃とうとしている白銀の騎士。



 「ふっ……!!」


 吐息一つ。振り下ろされる剣に合わせて自身も切り上げ、打ち合った瞬間に狼男ウェアウルフの剣が砕かれる。



 「まだまだぁっ!!」


 最後の悪あがきなのか、手刀の構えから突きを繰り出して貫かんとする腕を小柄な体を生かして掻い潜って一閃。脇腹を切り裂いて振り抜かれた剣を払って血糊を落とし、白銀の騎士は剣を鞘に納める。チンッという鞘鳴りの音ののち、狼男ウェアウルフは血の塊を吐き出し、どっと倒れてそれ以降起き上がる気配を見せない。脅威が去ったことを確認し、武器を元の十字架に戻して首にかけ直す。



 「大丈夫かい、レイス?ケガはないかい?」


 ゆっくりと歩み寄ってくる白銀の騎士は鎧を霧散させ、隠されていた素顔を覗かせる。中世的な顔立ちで幼さが拭えない童顔。薄い金色の髪はクセッ毛なのか所々跳ねている。爽やか系好青年と言っても差し支えない彼に1つだけ欠点があるとすれば、身長が低すぎることくらいか。



 「俺があいつらみたいな雑魚に遅れをとるかっての。それより連れの方がヤバいんだ。お前に借りを作るのは本意じゃないが、すまないが診てやってくれないかアーサー?」


 「ああ、任せてくれよ。こういうのも僕の得意分野だからね」


 思わず負けたくない一心で強がりを言ってしまったが、アーサーはそれに対して気付かなかった振りをして横を通り過ぎ、ティアの前に片膝をつく。



 「う、あぁ、アーサー様?」


 「あははっ、さまは出来ればやめてほしいな?気軽にアーサーでいいよ」


 「わかりました、アーサーさん」


 「うん、じゃあちょっとだけ我慢してね。すぐに治してあげるから」


 鞘に入れたままの剣をティアの前に立て、集中するように目を閉じる。何事かぶつぶつと呟き、魔力を鞘に流し込む。そうすると鞘からやわらかな光が溢れ、その光を浴びた個所からティアのケガが治癒していく。物の数分もしないうちにケガは全て治癒し、顔にも生気が戻ってきたようで少し安心した。



 「さあ、これでもう大丈夫だよ」


 「あの、ありがとうございました、アーサーさん」


 「これくらいお安い御用さ。さて、じゃあ僕はそろそろ行くよ」


 「すまないな、アーサー。そのうち俺の店にコーヒーでも飲みに来てくれ。サービスするよ」


 「それはいいや、近くまで行ったら寄らせてもらうよ。それじゃ、またね」


 バイバイと手を振り、アーサーは軽くジャンプして自身があけた天井の穴から飛び出していき、すぐにどこかへと気配が遠ざかっていく。唐突に現れてその場の危機を取り除き、見返りも求めずに颯爽と去っていく。ほんと正義の味方を体現したようなあいつを昔から好きになれないが、今日ばかりは助かったと言わざるを得ないだろう。



 「んじゃ、俺たちもさっさと帰るか。サイラスの野郎に連絡するから、もう少しここで休んでろ」


 「はい、そうさせてもらいます。さすがにケガは治りましたけど、ダメージは抜け切ってないみたいなのでまだ動くのが辛いですから」


 気怠そうにしているティアから離れ、サイラスの携帯電話にかける。数コールののちに出たサイラスに手短に状況を伝え、軍警を寄越すように言って通話を切る。通話中に気絶している2人のボスを拘束しておいたから、あとは軍警が到着するのを待ってお仕事完了だ。



 「さてと、待たせたな。結構遅くなってしまったし、ケガまでさせてしまったんだ。寮まで送ってやる」


 立つ手助けをしてやろうと右手を差し出したが、一向に掴む気配を見せないティアに訝しげな視線を送る。



 「すみません、レイスさん。できれば背を向けて屈んでもらえませんか?」


 「おい、何を考えてやがる?」


 「何って、どうせならおんぶしてもらおうと思いまして。歩くのも辛いんでお願いします」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべて抜けぬけと言うティアに呆れながら、仕方ないと思って背を向けてやる。失礼しますと言っておぶさってきたティアをしっかりと背負い、ゆっくりと立ち上がる。



 「レイスさん、変なところ触らないでくださいよ?」


 「わかったから静かにしてろ」


 もしかしたら死んでいたかもしれない状況だったのに、普段と変わらない態度を崩さないティアに安堵を覚えつつ、魔術を使って封鎖していたドアから外に出る。それから軍警が到着するまで待ち、バイクを一台借りて寮までティアを送っていって別れ、やっと長い夜が終わろうとしていた。


少しずつ1話が長くなりつつある今日この頃。また1週間後くらいには更新したいなと考えてます。

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