開店です
久しぶりに書こうとすると上手くいかないもんですね~。
とりあえず定期的に更新していくようにするので、たまに覗いてもらえれば幸いです。
特に何かが起きるわけでもない平和な朝を、俺は開店時刻まであと30分に迫った店内のカウンター席に座って新聞を読みながら過ごしていた。
店を開けるにあたっての準備はすでに終わっている。朝7時には朝食を済ませ、身支度を終えたら店内の清掃。その後は軽食に出す食材の仕込みをし、デザートのケーキなどもいつでも出せるようにしてある。
現在の時刻は9時30分、早く準備ができたからといってもこの時間では遅いくらいだろう。会社員の通勤時刻はとうに過ぎてるし、学生を相手にしようにもせいぜい暇な大学生だけ。だったら別にわざわざ早く開店する必要はない。というかメンドクサイ。所詮は自由気ままな自営業。気が乗らないことを望んでする必要はないわけだ。
「さて、今日は何か面白いことでも書いてあるんだか」
テレビ欄から一面へとひっくり返し、トップの記事を読む。見出しには終戦5年目を記念して近々式典を執り行うと、そう書かれていた。
「もうあれから5年も経つんだな……」
感傷的な気持ちになりかけたのを淹れていたコーヒーを一気飲みして紛らわす。
「さてさて、気が沈むようなニュースはいいから他に面白いニュースはないものかな?」
気分を入れ替えるように新聞のページを捲ろうとしたその時、カランカランと来客を告げるベルが音を鳴らした。
おや、と物思いに耽って開店の時間になっていたことに気づかなかったのかなと時計を見てみるが、時刻は9時45分を指している。時間までにはまだ15分も余裕がある。ならばと開店前に入ってきた客に渋面になりそうな表情を無理やり笑顔にして振り返りながら言う。
「すみません、お客さん。開店までもう少々お待ちくださいませんか?この通り、私の準備もできておりませんのでって、お前かよ。学校はどうした?」
そこにいたのはこの時間帯には場違いな高校生くらいの女の子が立っていた。整った顔立ちとポニーテールの髪型、目尻がやや吊り上っているせいか睨んでいるように見えなくもないが、それはマイナス要素にはなりえない。美人というものは何とも得だな、なんて考えながら返答を待つ。
「今日はもう終わりましたよ。実技試験だけでしたのですぐに終わりました」
「実技試験ね~」
目線を少女の顔から肩に下げている竹刀袋に移す。その中に入っているのは決して竹刀なんてものじゃなく、真剣が入っていることを思い出したくもない実体験を伴って知っている。というか、彼女の着ているアルカディア士官学校の制服から推測できないことはなかった筈だが、その時は別のことに気を取られていてそれどころじゃなかったのもあるが、とにかくもうあんな体験はしたくないものだ。笑みを浮かべた美少女に真剣を振り回されて追いかけられるなんて、どんなホラー映画だっての。
「ええ、そうなんです。あまりにも呆気なく終わってしまって少々物足りないんです。ちょっと相手してもらえませんか?」
そう言って彼女は右手に持っていた学校指定のカバンを床に置く。第一印象としてとっつき難い雰囲気のある彼女だが、カバンに付いている可愛らしい猫のキャラクターのストラップが彼女も普通の女の子であると主張しているようだ。なんてそんなどうでもいいことを考えている間に、彼女は竹刀袋から柄を引っ張り出そうとしていた。
「ちょっと待て!どうしてそうなる!?」
「いえ、だから言ってるじゃないですか。物足りなかったので……」
「ふ・ざ・け・る・な!また店の中でそんなもん振り回してみろ。給料をもっと減らしてやるからな」
「むぅ、それはちょっと困りますね」
困るとか言ってる割には足を肩幅に開き、若干腰を落として臨戦態勢を整えつつある。まさかとは思いつつ腰を少し浮かせ、いつでも動けるように両足をしっかりと床につける。
「まあ、それは終わってから考えるとしましょう」
「やっぱりか!?」
抜刀される前に彼女に近寄り、鞘から刃が出る前に柄頭を押さえる。
「ふむ、やはり止められましたか」
「アホかお前は!?」
残念そうな表情を浮かべる彼女。反対に疲れたようにため息を吐きつつ、無理やり刀を取り上げる。
「とにかく、仕事中はこんなもんは必要ないから預かっておくぞ」
「仕方ないですね。では、さっさと着替えてきますね」
「ああ、そうしてくれ」
「覗かないでくださいね?」
「誰が覗くかっての!」
ふふっと笑って店の奥のドアに消える彼女に向かっておしぼりを投げつけたが、空しくもドアに弾かれて床に落ちた。
「ああ、まったく本当にあいつの相手をしていると疲れる」
おしぼりを拾い上げて流し台に持っていって水に浸けておき、刀は食器棚の横に併設してある両開きの収納棚に放り込む。
「さてと、時間もちょうどいい頃合いだし店を開けるとしますか」
時計の針は10時まで残り5分を切っている。思いのほか彼女とのやり取りで時間を潰していたようだ。
入口の横にある姿見の鏡の前で立ち止まり、身だしなみを確認する。黒のスラックスとベスト、ウィングカラーのシャツ。紐ネクタイがずれていたのでそれを直し、椅子に掛けていたエプロンを着けて支度を済ませドアを開ける。
「んじゃ、今日ものんびり働きますかぁ~」
closeの看板を翻し、openにする。看板の下にはこの喫茶店「クラウン・クラウン」を象徴するマーク、王冠を被ったピエロの絵が少し汚れていたのでハンカチで拭ってきれいにして戻る、と同時に店の奥からメイドの恰好をした彼女が出てきた。なぜメイドの恰好なのかというと押しかけるようにしてバイトを始めた彼女に対する密かな嫌がらせのつもりだったのだが、思いのほかあのメイド服を気に入ったらしくその効果はでていない。さらにメイド服姿の彼女を見るために来る客も増え始め、この喫茶店での立場を確立しつつあるのが最近の悩みの1つだ。
「さて、レイスさん。先ずは何をしましょうか?」
「そうだな。店の中はあらかた準備は終わってるから、ティアは店の外を少し掃除してきてくれ」
「わかりました。ではいってきます」
「ああ、頼んだよ」
箒とちりとりを持って外に出て行くティアを見送り、自分はカウンターに戻って読んでいた新聞を片付ける。
今日も平穏無事に過ごせることを願いながら、寒くなってきたなか外に出て掃除をしてくれているティアの為に温かい紅茶でも淹れてあげようと湯を沸かし始めた。
気づいたら二人の名前を出すタイミングを完全に失ってしまったorz