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熱い思いを受け取って

作者: めいふぁん

「君を殺して僕も死ぬ!!」



白いもちもちとした頬を真っ赤に染め、くりくりとした可愛らしい瞳から大粒の涙を流し、ふわふわの色素の薄い髪を振り乱して私の胸に縋りつき叫ぶこの男。



「うざい。超うざい。ちょっと、鼻水すりつけるのやめてくれる?」


それに返す私の声は自分でもそこまで冷たくすることはあるまいと突っ込んでしまいそうなほど、冷淡に響いた。


いや、突き飛ばしたり殴ったり蹴ったり暴力に訴えていないだけこいつには十分優しくしていると即座に頭の中で切り替えたが。


私こと上木由鶴(女・14歳)にすがりつくこの男、イヅル・ジェファーソン(男・14歳)は私が他の異性と話をする度にこう言って鼻水と涙を豪快に垂れ流す。


もう何百何千と繰り返されてきた行為だけに、もう表情すら動かない。



「あんな、あんな芋みたいなやつと口をきくだなんて!!信じられないよ、僕というものがありながら、こんなにも美しい僕というものがありながら、あんな芋と!!その口は僕とおしゃべりしたりキスしたりあんなことやこんなことをする口でしょう!?」



「黙れ変態。そして今すぐ鈴木くんに謝れ。そもそも私が誰と話そうがあんたには関係ないし、あんたとキスしたこともないし、これからもするつもりないから」


ばっさりと切る。


しかしやつもなかなか手ごわい。


「もう、照れてるの?5歳のときに約束したじゃないか、一生僕はユヅルのもの、ユヅルは一生僕のものって。お互いがいればいいんだから、他のやつと仲良くする必要なんてまったくない!照れ隠しに他の男と口きいたり笑い合ったり触れ合ったりだなんて、本当に悪い子なんだから!」


めっと上目遣いに怒って見せるこいつをぶん殴りたくなると同時に、5歳の頃の自分を怒鳴りつけたい。


目を覚ませ!!お前の横にいるのは可愛いお人形さんじゃない!!ただの変態だ!!






5歳・・・それは現実と想像が脳内で入り乱れる魔の年齢と言ってもいい。

この頃私は可愛いぬいぐるみ、可愛い服、可愛い髪飾り、可愛い小物・・・と、可愛いものに囲まれるのが大好きで、そんなものに囲まれている自分って可愛い、と将来を危ぶみたくなるほどいっちゃってる思考の5歳児であった。


そんな時に出会ったのがやつだ。



「イヅル・ジェファーソンです」


照れ照れとはにかみながら母親の後ろからぴょこりと顔を出し、挨拶をする天使のごとき可愛い男の子。

ふわふわくりんくりんの髪はまだ日に透けると金髪に見え、目は春の空のごとき柔らかなブルーをしていた。

白くてふかふかしていそうな頬は薄く色付き、きらきらとこちらを見つめている。


こんなにも可愛いものがこの世にあったのかとどでかい衝撃を受けた私は、もう他の物を放り出す勢いでやつにはまっていった。


可愛いふわふわの髪を櫛で丁寧に梳かし、ふかふかのほっぺに自分の頬を擦り付け、挨拶だと称してお返しに頬にキスをしてくるやつににこにこと笑みを返した。


そんな日が続いていたころ、やつは私に悪魔のごとく囁いた。


「ねえ、ユヅルちゃんはぼくがすき?」


「もちろん、イヅルくんはかわいいもん。だいすき!!」


「ぼくとずっといっしょにいたい?ユヅルちゃんだけのぼくにしたい?」


「うん、ずっとイヅルくんのかみをとかしたり、おにんぎょうさんごっこしたりしたい!」


「じゃぁ、ぼくをユヅルちゃんのものにしていいよ」


「ほんとう!?」


「うん。でもね、そのかわり・・・」


「なぁに?」


「ユヅルちゃんも、ぼくのものになってくれる?」


「うん!!もちろんいいよ!だってイヅルくんをわたしのものにしていいんでしょ?」


「うん、ありがとう。これでぼくたち、ぼくたちだけのものだね。いっしょういっしょにいようね」


「うん!イヅルくんだーいすき!」


「ぼくも、ユヅルちゃんだーいすき!」




そこからは推して知るべし、だ。


小学校に進み、最初のころはまだよかった。


私の世界は狭いし、やつさえいればそれでよかった。


だがしかし、学年が上がれば上がるほど・・・心体共に成長するわけで。

イヅルは少女とも少年ともとれる危うい魅力を身につけ、私はお花畑から脱却し自分は至って普通の、平凡な子どもであると言うことに気がついた。


そうなるとこの可愛い天使のようなやつが女の子である自分よりも百倍可愛いのにいつも隣にいて比べられるのがいやだとか。

用を足す間トイレの前でずっと待っていられるだとか。

ずっと張り付いているせいか、いつまでたっても他の友達ができないだとか。

いつしか必要以上にべたついてくるやつが鬱陶しくなり、邪険に扱うようになった。


そうすると今度はやつも暴挙に出始めた。


私が他の子と話したり、少しでも交流を深めようとする度に冒頭の台詞を叫ぶようになったのだ。


最初は焦った。


そんなこと言わないで、私が悪かったから死んじゃだめだと泣き縋った。


自分のせいで誰かが死ぬなんて考えられなかった。


しかしそれも1日何度も、何年間も繰り返されれば慣れる。


そしてやつが私を殺す気も、自分が死ぬ気もさらさらないことだって、わかる。


あぁ、うざい。本当にいなくなっちゃえよ。


おいどさくさにまぎれて抱きついたまま胸を揉むなよ。


あまつさえ頬ずりなんぞ・・・そのお綺麗な顔に青タンこしらえてさしあげましょうか?


なんでこんなことになっちゃったかな?


「ねえユヅルちゃん、僕がどれだけ君を好きか、わかってる?」


変態がそんなことを聞いてくる。


もうお前のそれは好きとかそんな次元じゃないことだけはわかってるよ。


「もうわかってると思うけど・・・」


そこで言葉を切って、さらりと髪を耳にかける。

無駄にお綺麗な顔と太陽の光を反射し輝く髪に、見えないはずの薔薇の花びらが舞い散っているエフェクトが見える。



「この迸る思いを受け取ってくれるまで、そして僕に同じ思いを返してくれるまで・・・


僕は君に最上級の愛を叫ぶ!!」


おい、それってまさかあれのことか。




「君を殺して僕も死ぬ!死んでも一緒だよ☆」




私が返す言葉は決まっている。




「そういうとこが、いやもう存在事態がうざい」


お前と一緒になんていられるか!!!






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