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6話 メールが届いた結果?

 私は今日も、第八開発室に詰めていました。


「うーん……やっぱりここの処理は重いですね……」

 画面と睨めっこしながら、私は唸ります。派手なエフェクトを盛り込んだ技を使用すると、数十ミリ秒間、操作を受け付けなくなってしまうのです。つまりは処理落ちでした。

 最近は、何だか不調な気がします。自宅でのプログラミングでも事故りましたし、会社でのプログラミングでも処理落ちという性能限界にぶつかっています。今までが順調すぎたのかもしれませんけれど。


 自宅で起きた事故の事実は、みったんと相談した結果、公表しないことに決めました。今、公表すれば、話題が広まりつつあるVRに影が差すことは間違いありません。それだけは避けたいのです。

 プログラムの本当にコアな部分については公表せず、私が握ってますからね。ああいった現象が他の研究機関で起こることはないでしょう。あれはコアな部分を弄ったために起きた事故ですから、いくらでも無かったことに出来ます。これからの開発には慎重を期する必要があることは、間違いありませんが。


「さてさて、これ以上エフェクトを削るか、処理の軽量化を計るか……うーん、どちらにしても難儀です」


 コンコン。


 うんうんと唸っていれば、ドアをノックする音が聞こえました。私は、はーいと返事をし、積んであった厚い紙の束を抱えてドアの方へと向かいます。そこに立っていたのは、金髪碧眼の青年でした。イケメンです。イケメンです。大事なことなので二回言いました。


「川西さん、資料取りに来ました」

「ええ、ありがとうございます」

 彼――ノアは私のお手伝いです。みったんにお願いした翌日、私の元に派遣されました。

 この会社のお偉いさんの甥らしく、社会勉強のためにバイトをなさっているそうです。外国人だー、イケメンだー、すげー日本語ぺらぺらー、という物珍しさも過去のこと。今ではすっかり使い倒しています。


「こちらの束は、フォーマットが崩れてないか全部チェックしてください。で、こっちは付箋の通りに配ってきて下さい」

「はい、判りました」

 にこり、と彼が微笑みました。イケメンスマイル、超癒されます。この微笑みだけで二十余年のいじめとか、こちらに向けられてきた明らかな嘲笑とか、全て洗い流せる気がします。イケメンって、とってもお得ですね畜生!

 私が笑っても誰も癒されないでしょう。世の中顔です、顔。あとは金。


「じゃあ宜しくお願いしますね」

 彼は紙の束を軽々と持ち、軽い会釈を返して部屋を出て行きました。

 何となく目が癒された私は、機嫌を良くしてデスクに戻ります。


 そんな時、メールが届きました。

 メーラーを開いてみると、見覚えのないアドレスからでした。重要フラグは立っているようですが、タイトルは無題です。


「……何でしょう、このメール?」

 私のアドレスを知っているのは、社内でも数少ない人間だけのはずなのですが。

 一応、ウィルスチェックをかけてから、メール本文を開いてみます。


『譛郁除縺ァ縺吶?ゅo縺代≠縺」縺ヲ縲√ヰ繝シ繝√Ε繝ォ繝ェ繧「繝ェ繝?ぅ荳也阜縺ョ荳ュ縺ォ髢峨§霎シ繧√i繧後※縺励∪縺」縺溘h縺?〒縺吶?りェー縺九%縺ョ繝。繝シ繝ォ繧定ヲ九※縺?◆繧峨?∝勧縺代※縺上□縺輔>縲』

 本文は、見事に文字化けしていました。

 メールのヘッダ情報を見てみますが、どうやら送信元のメールアドレスは偽装されているようで、規則性のない文字列が並んでいます。


「たぶん、イタズラですかね?」

 そう呟きながらメールを削除しようと思いましたが、何故だかそれは躊躇われました。

 イタズラと断じるのは簡単なのですが、何かが引っかかります。


「……一応、プライベートの方に転送しておきますか」

 家に帰ってから、じっくりと検分してみましょう。

 今はとりあえず、処理落ち対策に注力しなくては。




 本日の仕事を終え自宅に帰ってきた私は、いつも通りにPCの電源をつけました。ファンの回る音と共に、OSが立ち上がるのを横目に見ながら、ベッドに身を投げ出しました。枕に頭を埋め、はー、と大きな溜息を吐きます。

 処理落ちを直せないまま帰ってきてしまったので、どうももやもやとしていました。進捗に遅れがあるわけではないのですが、思うように進まないと不完全燃焼気味できまりが悪いです。


「うーん、どうしたらいいでしょうかねえ」

 ごろんと寝返りを打って、天井を見上げながら呟きました。せめて今週中にはかたをつけたいところですが。


「……とりあえず、今は考えるのをやめましょう。明日考えれば良いことです」

 起き上がり、PCに向かうことにしました。文字化けのメールが気になっていたのです。

 しかし、PCはまだ起動中でした。


「あれ、ずいぶん起動が遅いですね……?」

 首を傾げます。ウィルスに侵入されたか、ハードに問題でも出たのでしょうか。だとしたら、あまり良くない事態ですね。泣きっ面に蜂。落ち込み気味だった気分が、さらに落ち込みます。

 待つことしばし。ようやく起動が完了します。


「少しハードを見てみましょうか」

 軽くPCの調子を見てみることにしました。


「あれ……HDDハードディスクの容量が、ほとんど残ってないじゃないですか」

 つい先日までは余裕が残っていたはずですが。何故いきなりこのような状態に? 私は驚きながら、PCの中を走査していきます。すると、Cドライブの下に、やけに巨大なサイズのファイルがありました。しかし、心当たりはありません。


「……見慣れないファイルがありますね。なんでしょう、これ」

 ウィルスにしてはサイズがでかすぎます。30ギガを超えたウィルスとか、ウィルスとして失格です。


「どうしましょう、これ」

 扱いに困っていると、不意にPCから音声が聞こえてきました。突然の事態に、びくっと肩が跳ね上がります。


『……ガガ……って……の……しまった……です……たら……ザザッ……い』

 掠れ、ノイズがかかった音声に、まさか心霊現象かと恐怖と驚きで心臓が跳ね回ります。一体何が起きているのか判りません。普通に恐怖体験です。ウィルスだと思った方がまだ気分的に楽です。


「なんですかこれ……」

『……すけ……』

 ぷつんと。画面が、唐突にブラックアウトしました。ひい、と喉の奥から悲鳴が漏れてしまいます。

 怖い。感想はそれだけでした。


「……みったんのところで寝かせてもらいましょう」

 これ以上一人でいるのは、精神的にきついものがありました。

 PCの電源も落ちてしまいましたし、原因の究明は後日、明るいうちにすることにします。問題の先延ばしと言わないでください。だって怖いんですもの。


 その日はみったんと一緒の部屋で眠るのでした。



 メールが届いた結果?⇒心霊体験アンビリーバボー。調査は後日に延期。

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