八章 satan arrive~3~
たしかに倒したと思ったのだ。今までの悪霊たちなら砂のように体が崩れてこちらの勝利で終りだったのに。
<こいつの体を使ってお前らを試させてもらった>
散っていく吉田の体は地面に零れ落ち、光る粒だけが上空へと登って行く。それらがみるみるうちにつくちだしたのが、声の主―魔王だった。
「そういうことか・・・」
さすがは魔王だ、とひそかに歯ぎしりする。
つまり燈麻たちは、魔王の封印を解いてしまったようなものだ。
『試すって・・・どういうことだ?』
青白く輝く、周囲の建物を軽く超すような巨大な魔王を見上げて雅が問う。
<私に戦いを挑む資格があるか、と思ってな。挑む資格はある。だが、―勝つ資格はない>
「―お前の意見など聞いてないっ!!」
左手を振り上げ、鎌を出現させた。
「我が求めるのは力、宇宙を荒らす彼を滅ぼす力。世界を、森羅万象を司る神の持つ輝きよ、ここへ!!」
<ふん、光の勇者の呪術か・・・。ならこちらもいかせてもらおう>
光に包まれ、足元に複雑な魔法陣をうかびあがらせた燈麻を見下して魔王が呟く。そして、空の彼方を見つめるような仕草をした途端。
ザアアアアァ・・・
「!!」
『なんだっ・・・』
建物が次々に消え、真っ暗になる。いや、消えたんじゃない。闇に飲まれていったのだ。折角集めた、対処できないほどのパワーもその力が薄まったのを感じる。―これでは、何も見えない。
<どうだっ>
その闇の中で、魔王は攻撃をしてくる。
ドゴォンッシュッ
「く・・・はっ」
―これじゃ・・・避けるので精一杯
<さっきまではお前とほぼ同じ状況で戦ったから、私の殻を破ることができたが・・・今の私に勝てると思うか?>
ぞくっ・・・
燈麻の中で寒気がした。
<ブラック・エメラルド>
何かが髪の毛を掠るのがわかった。
「!?」
はっきりとはわからないが、それは少し大きいつららのようなものに思える。
ヒュッヒュン・・・
空気や音で動きを読み取り、なんとかかわしていく。
<私の勝利は・・・見えているというのに>
そのときだった。
『燈麻っ、聞こえるか!?』
「雅!?」
『魔王には聞こえないように話している。もう少し・・・』
―もう少し?何がだ?
「みや―」
ドゴオンッ
<何、気を抜いている?>
「うっ・・・」
ふらふらと立ち上がる燈麻は、危うく武器を取り落しそうになる。
ぱぁぁっ
―・・・?何か・・・光が・・・
いつのまにか闇は消え、いつもどおりの光があって、そこには雅が自慢げな顔で立っていた。
<なっ・・・>
『勇者の側近、なめんなよ。俺は本の中でずっと魔力溜め込まれて爆発しそうなんだよ』
誇らしげに、挑発するかのように言う雅。
燈麻の魔法陣による力も、そのパワーを取り戻す。
<ちっ・・・仕方がない、本気をだそう>
「こいよ―・・・」
冷たい汗が、首筋を伝う。目を閉じ、両手を開いた。足元で光っていた魔法陣が、燈麻の髪を、服をなびかせながら徐々に宙に浮いていき、その模様を複雑にさせていく。
青い、パチパチと音をたてた光が燈麻を包む。手をかざし、力を解放した。
「フルムーン―・・・」
<聞こえなかったか?>
燈麻の言葉を遮り、
<本気を出すといったんだ>
「っ――!!?」
突然、魔王が動き出す。闇の突風が燈麻を襲い、その上から壊れた建物やコンクリートの塊が燈麻に襲い掛かってきた。
『!!燈麻!!危ない!!』
今まで聞いたことの無いような、雅の声が聞こえた。同時に、雅が目の前に飛び込んでくる。
しかし。
ガッ・・・・・・
「っがは・・・・・・」
何がおきたのか、わからなかった。口の中に血の味がし、思わず吐き出す。腹に、痛みさえ感じられないほどの衝撃が響き、胃が、体が掻き出されるようだった。
目の前に、振り向き、顔を歪ませて何かを叫ぶ雅がいる。自分の身に何がおきたのかさえわからないまま、燈麻の意識はそこで途絶えた。