五章 enemy’s heart
五章 enemy’s heart
空には不気味な鳴き声を上げながら鳥が飛び交い、校庭に黒い影を落としている。静かに揺れる木々を通して吹いてくる風が二人の髪を逆立て、過ぎて行った。
「―雅」
『・・・ん?』
彼らは今、校庭のど真ん中にただ佇んでいた。
「魔王って本当にここに来るのか?」
『お、おれの時はそうだったぞ。四人目と戦った後、気づいたらそこに魔王が・・・』
「っ・・・じゃあなんで来ないんだよ」
燈麻はものすごく機嫌が悪かった。
雅曰く、彼の悪霊との戦いが終わった後、ふと見ると魔王となった同級生が立っていたそうだ。魔王は相当強いようで、それまで楽に敵を倒してきた雅は一瞬で封じられてしまったらしい。
こちらから近づくのも危険なので待っていようということになったのだが、魔王が現れる気配は全くなかった。
―・・・まさかまだ悪霊と戦えっていうんじゃないよな・・・
その時だった。
『!!燈麻、あれ!!』
「何・・・」
雅が指さす方を見ると、そこには一人の男が立っていた。
―・・・あれは・・・
「か・・・上沢先生」
『せっ・・・!?今度は先生かよ・・・』
―戦いづらいな
心臓の鼓動が早まるのを感じる。首の後ろを、冷たい汗がつつっと伝った。
先生がこちらをじっと見つめ、口を開く。
<・・・夜月・・・前が、挑戦者なのか>
「はい。・・・先生に恨みは無いですが、俺は先生を消します。―そうしなければいけないんで」
ゆっくりと、槍を出す。
「シャイニ―」
<待て>
足に力をこめ、上沢先生に向かっていこうと思った時、突然体が動かなくなった。
「な・・・・・・」
『今度は拘束魔法かよ・・・勝ち目が・・・』
<誤解しないでほしい。俺は魔王じゃない>
『!?』
「!!!」
驚き、目を丸くする。
「―・・・どちらにしても同じです。俺は先生を倒してこの世界を・・・」
<それも誤解だ。俺は、魔王やそれの悪霊に操られた生徒たちと同じ考えなど持っていない>
「え?」
『どういうことだ?』
燈麻の体を縛っていた見えない鎖が解かれ、体が自由になる。
そして、異変は起きた。
「!?先生!?」
上沢先生の体が、指先から少しずつ砂のように崩れ落ちていく。
「どうして・・・」
<俺は、お前たちの味方だ。この世界を闇に支配されるなどたまったものではない。本当は魔王の元へお前たちを近づけないために此処にいたのだが、俺にその気はない>
『俺らに、先に行けというのか』
雅が、険しい表情で問う。
もう体が半分ほどしか残っていない先生は、それでもほほ笑んだ。
<ああ。行け。俺には何もできないが・・・この世界を救うんだ、夜月。―行くんだ、戦うんだ>
「っ・・・・・・ああ」
しっかりとした答えに、先生は満足したようだった。
<それじゃあな。―生きて帰ってこいよ、大事な生徒だからな>
サラ・・・
ついに、先生の体が消えた。燈麻は固く拳を握る。
―自分たちのために身を滅ぼした先生の意志を、俺が継ぐんだ。
『―なんかよくわかんないけど・・・感謝だな。あんな感じの先生なのか?』
「・・・全然。いつも大雑把だし、面倒くさがりだし、こんな俺の事なんか正直・・・見てないかと思った」
『お、そんなことないみたいだぞ?そうだ、むこうの世界に戻ったら俺、同じクラスになるよ』
「!?そんなことできるのか?」
『ああ。できるできる』
雅と過ごす時間は、こんな状況でも楽しい。だから、早く現実の世界に戻ってゆっくり話したかった。
「・・・だったら、さっさと終わらせちゃおうか」
そう言い、槍を強く握り直す。
『ああ。ほら、やっと』
険しい目つきで、それでもニヤリと笑いながら雅が燈麻のうしろを指さした。彼の背後の欅が不気味に揺れた。ゆっくりと振り向く。
そこには―・・・
『魔王様も、お出ましだ』




