一章 night moon
一章 night moon
「ぎゃああっ」
とある子供は泣きじゃくれていた。
その時イライラしていたその子のお母さんは
「っっ・・・うるさい!」
持っていた包丁を振り回した。子どもに当てるつもりは無かったが、目のあたりに掠ってしまった。掠っただけとはいえ、まだ子供だ。目のあたりから血が出てきた。
「っうーーーっ・・・!!」
声にならない叫びをあげた子供に気づいたその父は部屋に入ってきた。
「なに・・・してるん・・・だ?」
そう言って父親は子供を抱きかかえ、病院へ駆けた。
****
急いだおかげで傷は残ったが、子どもは無事だった。だがその数日後、父親は交通事故で死んでしまった。
―そんな人生をおくったその子供のものがたり・・・―
彼の名は、夜月燈麻。あれから十年が経ち、彼は中学一年生になっていた。
部活はバスケ部、得意教科は保健体育と数学。しかしそれといって頭がいいわけでもなく、見た目も中の上程度だろう。趣味は読書。毎日毎日、昼休みになると図書室に通い、始業ぎりぎりまで本を読むのが彼の日課だった。そして、一人で日々を過ごすのも彼の毎日だった。
言うなれば、彼には友達がいない。
今までに、燈麻はたくさんの人に出会ってきた。その中には、燈麻に声をかけてきた奴もいる。しかし燈麻の暗さに我慢できずに、気が付けば燈麻の隣に人はいなくなっていたそれは彼の性格のせいもあり、そして左目に掛かる眼帯のせいもあるだろう。
しかし彼はこれでいいと思っている。他人といると、面倒なことばかりだ。最後に他人としゃべったのは、いつだったろう。燈麻は窓の外に浮かぶ白い雲を見上げる。
―「またな、燈麻。また会おうな」
―「・・・ああ、また。絶対会おう」
手を振りながら、目をそらし、背を向ける。燈麻のたった一人の友人は、今どうしているんだろう。
―ああ・・・『また』、とか言っときながら会ってないじゃないか
最後に話した、小学校の卒業式。大して前でもないのに、それすらも燈麻の記憶からは消えかけていた。
図書室へ向かう廊下を歩きながら、久しぶりに友人の顔を思い浮かべる。あいつは、僕のことを覚えているだろうか。
図書室の扉を開き、設置された本棚の間を縫うようにして進んでいく。ここの中学校の図書室は、近隣住民にも開放しているため異様に広いが、燈麻は既にほとんど―いや、下手をすれば全ての本を読み終えていた。
―ここの本棚も・・・全部読んだ。ここも―ここも。
一つ一つ、背表紙も軽く確認しながら進んでいく。様々な宗教の信者が書いた教本が並ぶ棚の前で、燈麻はふと立ち止まる。
―なんだ、これ
分厚く、高価そうな背表紙の中に、同じく分厚い、しかし闇のように黒い背表紙の本が置かれている。
―見たことないな
棚からぬきだし、表紙の文字を見る。
―darkness a ruler―
金色の文字で、そう書かれていた。
―闇の・・・支配者?
あやしいなと思いつつ燈麻は一ページ目を開いてみた。
その途端、目を見開く。
そこには、あの日―約束した友人が・・・―雅が・・・本の中にいた。
「・・・っ!!」
思わず声に出してしまいそうだった。本の中の雅は目を瞑って、じっとしている。どちらかというと眠っているように見える。なんだと思いつつ少しつついてみた。
するとその雅が・・・・・・
「・・・う・・・っん?」
起きた。
「ぁあ!!燈麻ーお久ー」
しゃべった。・・・すべてのことに驚きながら、
「雅は・・・なんでここにいる?」
「・・・信じてもらえないかもしれないけど・・・俺は魔王に封印されてしまったんだ・・・」
次々と出てくるファンタジーな言葉に目が回る。が、
「僕に何か・・・出来ないかな・・・」
「燈麻・・・?」
あの日から今まで会っていなかった雅とこんな再会をするとは思っていなかった。
―封印・・・か・・・―
「封印を解けばいいんだろ?」
「・・・ああ。だけど、そのためには魔王を倒さなきゃ・・・」
「雅は戦って封印された・・・つまり・・・―僕が戦えばいいんじゃないか?」
自分でも驚いた。考えより先に口が動いていた。
僕は―・・・ただ単に・・・
雅を助けたかった。
と思っていると自分の理性が現実を引き出してきた。
戦う?・・・どうやって・・・
僕の心を読んだ雅は
「とりあえず次のページ開いてみな。実を言うと・・・俺は興味で開いちゃったからこんなことになったんだけどね(笑)」
雅って図書室くるのかと思いつつ、深呼吸をして―
ページを捲った。
急に地面が消えた。落下。燈麻の意識が薄れて消えかかった。途端に地面が復活したとともに意識が戻ってきた。
「どこだ・・・?ここ・・・?」
立ち上がり、周りを見回す。
そこは何もない、闇の中だった。しかしどこからか吹き込んでくる爽やかな風が燈麻の黒髪を揺らしている。木々の葉の擦れる音も聞こえてきた。
―どっからか外に出れるのか・・・?
そう思い、闇の中を歩いていく。しかし、光は全く見えてこなかった。
―ここが、本の中?
『ここは、本と現実の間の世界だ』
突然、どこからか雅の声が聞こえる。
「間の―・・・世界?」
『そうだよ。だから俺が本の世界に飛ばしてやる。歯ぁ食い縛ってろよ』
その言葉に燈麻が反応する間もなく、突然風が吹きつけてきた。
「っ!!?」
その風は一瞬で終わり、ふと何か光を感じて足元を見る。燈麻は、はっと目を開いた。
「―なんだよこれ」
『魔法陣だよ。それでお前を本の世界に飛ばしてやるよ。だから、歯、食い縛ってろって言ったんだ。―行くぞ?』
「は―」
疑問を口に出そうとするが、またすぐに突風が吹きつけてきた。それはなかなか収まらず、そのうち立ってもいられなくなった。
「――――っ!!!」
無意識のうちに歯を食い縛り、地面に膝をついて目を瞑る。
―うわ・・・!?
その時、目を瞑っていても眩むほどの青白い光が燈麻の周りを包み込んだ。
―っ・・・・・・
光は突風とともにやがて去って行き、あとには高い耳鳴りだけが尾を引いた。
―終わったのか?
ゆっくりと、目を開いた。
「ここ・・・図書室・・・?」
燈麻が立っているのは、たしかに学校の図書室だった。
―本の中じゃないのか?
燈麻は周囲を見回す。そして、すぐに異変に気が付いた。
図書室には人ひとりいなかった。外からは不気味な風の音が聞こえてくる。
燈麻は鳥肌が立つのを感じる。それが恐怖によるものなのか、興奮によるものなのか。
「ここが・・・本の中」
ふと窓の方を向くと、グラウンドに・・・見覚えがある―・・・同じクラスの楠木勇人が佇んでいた。
教室にいるときとまったく違うオーラを纏って・・・
手には、武器か・・・?長い棒の両端に槍が付いている。
『まだこの世界に・・・!?―いや・・・』
雅は何かぶつぶつと呟く。僕は楠木を眺めながら雅の話を聞いた。よく解らないがあれは魔王が司る悪霊が憑りついたらしい。つまり倒さなければならない。
『悪霊を倒すと黒い宝石が手に入る。ある程度集めたら強力な武器がGETできるんだっ!』
「ちょ・・・ちょい待ちっ!」
『なに?』
「ぼ、僕の武器は?あとバスケ部だからってあんな長い槍が躱せるわけないだろっ?」
『あー・・・あっ』
雅は自分のポケットから水晶玉のようなものを取り出して僕の前にかざして、
『ちょっと我慢してくれッ!』
すると水晶玉が浮いて一気に粉々になった。
「・・・えぇっ!?」
それが目の前でピカッと光り、瞬間的に目を閉じた。
『目を開けて眼帯を取ってくれぃっ!』
・・・確かに目の傷のあたりに妙な違和感を感じる。燈麻はスッと眼帯を取る。
「・・・目・・・が・・・」
傷ついた方の目が軽々と開いた。いつもなら少し痛むはずだったが・・・
『今、燈麻の傷に魔力を与えた。目が両方使えないと戦うのが困難だろうし、この魔力には武器を召喚できる力が入っている。』
「・・・召喚・・・?」
『まぁ、とりあえずやってみよーよ!えーと傷の方・・・左手を横に上げて』
燈麻は半信半疑で左手を上げた。
『目を閉じて左手に神経集中!』
「くっ・・・」
ポウッ・・・ガチャッシュッ
「・・・?」
燈麻は目を開けて左手を見た。
『おぉっ!成功だ!さすが燈麻ァ!』
左手には楠木が持っている槍に匹敵するほどの鎌があった。すごく・・・軽い。刃はきらりと光っていて・・・。
「・・・これだと楠木自体が切れるんじゃ・・・?」
『大丈夫ッ、体全体が悪だから切れたつまり倒しただから元に戻るぜッ!』
なるほど・・・というかさっきから体が軽い。軽く飛んでみた。
『あッ・・・・・・』
ガンッ
「〜っつっ・・・」
どうやら天井に頭をぶつけたようだ。この武器は運動能力が上がるのか・・・
<?>
グラウンドの楠木がこっちを向いた。
『「あ」』
『グラウンドに逃げろ!』
「なんでだよっ!」
『ここだと挟まれるぞっ!』
「・・・っ」
僕は意味を理解し、グラウンドへ駆けた。
いつもの何倍もの速さで走っていた。
****
ザッ
<お前が次の・・・>
言うと同時に、楠木は槍を振り下ろした。
「何を―」
ビュウウウッ
「!!」
僕は飛んでいた。楠木の方から強風・・・以上の風が吹いている!!・・・とにかくここはバランスを取り直して・・・壁に立った!と思ったが重力には逆らえず、といういことで壁を蹴って楠木に向かって飛んでいく。
「っらあ!!」
鎌を振りかざす。
ガッ
楠木は無表情で受け止める。
<漆黒の熱風ッ!>
ゴウッ
「く・・・」
苦しい・・・意識が・・・
『燈麻ァー!お前なら技を使える筈だ!』
「・・・!!」
雅の一言で燈麻は意識がハッキリし、楠木の熱風から抜け出した。
「・・・やるしかないな・・・」
神経を集中させると、鎌が光り出した。
<『「!!」』>
「・・・シャイニング・ギャラクシー!!」
すると鎌から光の粒が高速で楠木に飛んで行く。
<!!>
楠木はある程度は回避していたが少しあたったようだ。
<ふっ・・・―お前もなかなかやるようだな>
楠木は空中に飛んで風を巻き起こす。
「・・・!!・・・あの隙なら・・・あの時なら!!」
強風に耐えながら楠木が風を止めるまで待った。
風が止まらない・・・・・・!?
「っとにかく!」
校舎の壁を使って上に上がっていく。
「閃光!」
ヒュッシュッ
思ったより高速で移動してきた。
<なにっ!!>
さすがにクラスメイトに攻撃するのは抵抗があったが・・・
「シャイニング―・・・トルネード!」
<ぐ・・・ぐああああ・・・>
「・・・あ・・・」
楠木がサラサラと砂のように崩れ落ちていく。
<ありがとう―>
そう聞こえたのは多分、気のせいだ。
そしてその砂は固まって結晶となった。球体の欠片のようだが・・・とともに周囲が消えていく。
「もう―慣れたっ」
燈麻は呆れながら言い、本の世界と共に崩れた。
「―ハッ」
気づくと学校の図書室に戻っていた。手にはあの本。自分が戦ったなんて今でも信じられないな・・・
「ねぇっ」
ふいに肩を叩かれた。
「―・・・!!・・・何?」
楠木だった。
「チャイム鳴ったよ!急ごっ!」
あの不気味なオーラも消え、元に戻っていた。
「あ!!うん!」
たったっ
「あのさー」
「?」
「夢の中で燈麻君が僕の事助けてくれた気がするんだけどさあ」
「っ―!!ぐぐ偶然んんだとっ、気のせせいだよっ!!」
『くっww』
雅の笑い声が聞こえた。