数年前の二人
溜まってきたので、とりあえず序章だけ排出します。
珍しく怖くもないケチャップもないプロローグ。
白い壁に設えられた時計が、音を立てながら時を刻んでいる。静寂に包まれた教室の中には、机といすがそれぞれ二つずつあるだけだった。特別学習室と呼ばれるここは中等部でも高等部でも滅多に使われることがなく、長らくこの状態で放置されている。
そんな教室の中で、トニーは待ち人の気配を探っていた。コチコチという時計の針の耳障りな音を聞きながら、足音が聞こえてくるのを待つ。
待った時間自体はそんなに長くなかったが、あまりに何もないので一時間や二時間待ったような錯覚に陥りかけた――ちょうどその時。教室の引き戸が、けたたましい音を立てて開かれた。トニーははっとして顔を上げる。
彼の視線の先には、少年がいた。やや長い髪に切れ長の目、鼻梁高い顔立ちはさながら舞台俳優のようだった。トニーの親友と呼ぶべきその少年は、彼の姿を見つけるやいなや、深々とため息をついた。それで大凡の結果が予想できてしまったが、一応もたれていた窓枠から体を起こすと問いかける。
「……どうだった? ジャック」
この問いを受けて、ジャックと呼ばれた少年はゆるゆると首を振った。
「だめだったよ。彼は別のグループを自ら立ち上げるの一点張りでね。誘いにも聞く耳を持たなかった。まったく別の人間を探して勧誘するしかないだろう」
「そっか。あいつも頑固だね」
予想通りの答えを聞いたトニーは、先程のジャックと同じように息を吐く。
彼らは今、「グループ」を立ち上げようとしているところだった。これはいわゆる同好会のようなもので、中等部の二年生頃に思い立った人が立ちあげ、同じ趣味を持ったメンバーを募って放課後などに活動している。二人が立ちあげようとしているグループもまた、ジャックの趣味が活動内容にふんだんに盛り込まれるものであった。
「彼なら良い団員になってくれると思ったんだがな」
「仕方ないよ。前からおまえをライバル視している奴だもん。そう簡単に下ってくれるわけがない」
先程までジャックが誘おうとしていた相手は、彼と嗜好が同じな同学年の少年だった。だが、彼はつねに頂点に立ちたがるきらいがあった。それゆえに、普段からその強い個性と明るさで輪の中心にいるジャックに対し、敵愾心を抱いていたのだ。彼は気付いていなかっただろうが、いつもそばにいたトニーは、その並々ならぬ敵意のこもった視線をいつも警戒していた。
(そして、今になってその亀裂が表面化してきた……と)
トニーは再び窓枠にもたれかかる。息を吐き出しながら、灰色の天井を仰いだ。
(将来、グループ同士の抗争に発展、なんてことにならなきゃいいけど)
これは別段珍しい話ではない。活動内容が酷似しているグループ同士で時として明確な対立が起こり、学院内で争うことは、二、三年に一度の周期で起こっている。
そして彼のこの危惧は、奇しくも約二年越しで現実のものとなるのだった。
「くぅ……! このクレメンツ怪奇現象調査団の最初の関門が、仲間集めとは!」
そんな心配をよそに嘆くジャックを見て、トニーは、
「その名前――なんかダサいし長いから変えた方がいいんじゃない?」
容赦ない言葉を浴びせるのだった。