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その婚約破棄今すぐここでお願いします!

掲載日:2026/09/29

「エルメラルダ、お前との婚約を破棄する!」


バカ王子が夜会の場で何か叫びだしましたわ。

怒りの形相のバカ王子の隣には、間抜け面をこれでもかと醜くしたご令嬢が一人寄り添っています。


「お前は国のために祈らなければならぬところを義務をしばしば放任した挙げ句、俺の愛しいジョセフィーヌに嫌がらせまでしたな! 言い逃れは無駄だ、証人は揃っている!」


バカ王子の取り巻きのバカ息子とバカ娘達あわせて4人のことですわね。

最後まで全員名前が覚えられなかったわ。


宰相のオルランドから冷たい空気を感じるけれど、絶対に邪魔しないと約束してもらったから我慢してもらわないと。

相当怒っているわね、まさか本当に国王夫妻のいない間に婚約破棄騒動を起こすとは思わなかったのでしょう。

でもこれで彼も腹を括らざるを得なくなったはず。


「おい、なんとか言え!」


バカ王子、血管が額に浮き出ていますわね。


「かしこまりました。

ご来場の皆様が証人です、私エルメラルダは、婚約者である王子(名前が思い出せないわね)から謂れのない誹謗中傷を受けた挙げ句、御本人の不貞を真実の愛にするために婚約破棄を申し渡され受け入れました。

これを間違いなく承認してくださる方は拍手をお願い致します」


後ろの方から拍手が聞こえてきましたわ。

どうせ話を良く聞いてないポルト男爵令嬢あたりでしょう。

拍手は瞬く間に広がって、「義務を放棄し愛人を苛めた」エルメラルダではなく、「誹謗中傷を受け不貞された」エルメラルダとして婚約破棄が認められましたわね。


バカ王子が怒鳴り出す前に次に進みましょう。


「皆様わたくし達の婚約破棄を満場一致で承認してくれましたわ、おめでとうございます」


出来るだけにこやかな笑顔で話しかけると、王子の隣のバカ令嬢が「いやぁ、こわーい」と言って醜い顔を更に醜くさせながら王子の陰に隠れた。


バカ王子はここで文句を言ったら婚約破棄がスムーズに進まないことに気づいたのか、抗議はありません。


「ふん、お前はこの国の次期王である俺の名前も覚えられないのか、1度も呼ばれたことがないぞ。

そんなだからバカなのだ」


そうですね、事実ですのでスルーしますわね。


「では、改めまして私と王子の婚約の証であるこの指輪を外して頂きとうございます」


私は王子の前に進み出て左手を差し出しましたわ。


「バカかお前は、そんなものは自分で外せるだろうが」

「お忘れかと思いますが、この指輪は王子が婚約の時にわたくしの指にはめたもの、であればあなたが外すのが道理です」


「チッ」


バカは舌打ちすると私の指から指輪を抜き取りました。

触られた時に鳥肌が立ちましたがこのくらい我慢よ!


「では、私も王子の指輪を頂きます」


王子は嫌そうに私に左手を差し出しました。


やっとこの時が!


緊張で全身から血の気が引くようです。

震える手を押さえてそっと指輪を抜き取ります。


「今この場で私とエルメラルダの婚約は破棄された! 皆のもの祝福を!」


王子が勝ち誇ったようにそう言うと、会場中が沸き上がりましがもうわたくしには関係ありません!


「やったわ、ついにやった!」


嬉しさのあまり大声が出てしまいました。

でもどうしようもありません。


私はキツイ舞踏靴を脱ぎ捨てると裸足で会場を跳び跳ねながら駆け巡りました。

皆様びっくりされてますわね、でも関係ありません。


「やった、やった、やったのよ!」


嬉しさのあまり三音しか発音できません。


「おま……え…………」


私を怒鳴ろうとした王子の声が尻すぼみになりましたわ。

きっと私の容貌が変わり始めたのですね。

嬉しさのあまりあまり大広間をかけめぐる私の周りに小さな風がうずまき、花びらが散り始めましたもの。


アップにした髪がほどけて、力を抑えつけられていたせいで茶色くなっていた髪色が元の大好きな銀髪に変わったのが見えます。

髪が風になびくこの自由な感じ!

なんて久しぶりなんでしょう!!


「おまえ……その姿は……」


バカ王子は今度は震え声で聞いてきます。

冥土の土産にもう1度説明しておいてあげましょうね。


「あら王子、お忘れですの? わたしは精霊王の娘、あなが私にはめていた指輪は私の力を封じ、あなたがたの奴隷にするための呪物ですのよ。呪いをかけたあなた自身に外してもらわなければならなかったのです」


そう、そしてバカ王子の指輪も必要でした。


「もうこれで私は自由です、あなた方のために働く必要はありません!

スレイも返してもらいましたし、これで失礼いたしますわ」


そう言って私はバカ王子から取り返した指輪に口づけをしました。

スレイ、私の愛しいあなた……。


指輪から細い煙がたなびいたかと思うと、あっという間に銀色の鱗に包まれた美しい竜の体が私の体を一周し、銀髪の美しい人間の男の姿になって私の隣に降り立ちました。


「スレイ、やっとあなたを助けられたわ!」

「エルメラルダ! すまない、君に辛い思いをさせてしまって……。

こいつらは今すぐ消し去ろう」


「ヒィッ」


睨まれたバカ王子は失禁したようです。

やはり次期国王なんて無理ですわね。


「いいのよ、この人達には後でイックとロスにご挨拶に行ってもらおうと思っているの。

それにこんな環境でもオルランドは精一杯私を支え、出来るだけ無理がないようにしてくれたわ」

「ああ、それは俺も見ていた」


そう、オルランドはバカ王子が私に押し付けてきた書類仕事のうち最低限のものだけを残してあとは自分で引き受けてくれたし、祈りの準備も本来は王家がするところをバカ共が何もしないから代わりに手配してくれ、食事が干からびたパンとスープ皿に入った水なのを知って改善してくれました。

私ができるだけ快適に過ごせるように骨を折ってくれたのは、バカ国王でもバカ王子でもなく、オルランドでした。

そして私が婚約破棄できるように、あのバカ令嬢を王子にそれとなく斡旋してくれたのです。


「オルランドは私の恩人、だから今は何もしないわ。それがオルランドへのお礼よ」


オルランドは片膝をついて私に挨拶をしました。

「エルメラルダ様、この国で理不尽な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。

この罪は私が命を賭して償います」

「助けてくれてありがとう、そして今後のこと期待してるわ。

それと王子、私、バカの名前って覚えられませんの。

お名前を呼んであげることができなくてごめんなさいね」


にっこりほほえみかけると、バカ王子ははくはくと口だけを金魚の様に動かしていましたわ。


「さあスレイ、行きましょう」


私は広間で一番大きいバルコニーの窓を開け放ち、スレイは再び竜の姿になりました。

夜空には満点の星が美しく輝いています。


「それでは皆様ごきげんよう、新しく生まれ変わるトーガ国の末長い繁栄を願っているわ!」


私は美しいスレイに跨がりました。

スレイは尻尾で床を一打ち(大理石の床が一瞬で砕けたわね)すると飛び立ちましたわ、私たちの故郷、マレーネ国へ向かって。




帰国して一年後、私の元にオルランドから長い手紙が届きました。

バカ王子はバカ令嬢と結婚したけれど、二人とも毎晩悪夢にうなされ(これは悪夢の精霊、イックとロスが私への"おもてなし"のお礼に伺った話ね)やがて精神に異常をきたし死んでしまったこと、跡継ぎのいなくなったトーガ国をどうするかで内紛となりかけたが、結局前国王をオルランドが討ち、新たな国王となったこと、そして戴冠式があるのでスレイと出席して欲しいということでしたわ。


思ったよりもことがスムーズに進んだので、私ったら小躍りしてしまいましたわよ!


「嬉しそうだね、エルメラルダ」

スレイが私の髪を一房取って口づけながら言います。

「オルランドが新国王になったので、戴冠式に来て欲しいと」

「フフッ。今度はトーガ国とうまくやっていけそうだね」

「もちろん、そのつもりでしょ? マレーネ国次期国王様?」

「もちろんさ。不愉快なことは色々あったが、あの前国王とぼんくら息子のせいで国民のせいではないしな」


3年前、雷の息子に言いがかりをつけられ争ってしまい、大怪我を負ったスレイはトーガ国の森に落ちてしまいました。

トーガ国は人間の国、竜などいないため、地元の無知な人間が動けないスレイを捕まえて国王に献上してしまったのです。

問題はここからで、トーガ国の前国王はスレイが何者かは分かっていました。

にも関わらず、呪いの指輪にスレイを閉じ込めて私を呼び出したのです。

そしておとなしくあのバカ息子の婚約者になるように脅してきました。

精霊の娘がいると国が豊かになるからです。

私も呪いの指輪をはめさせられ、力を使えなくさせられました。

スレイを助けることもできません。


精霊から受ける恩恵というのは、精霊が相手に好意があれば発動するのですが、あんな仕打ちを受けてトーガ国王やバカ王子を好きになれるわけがありません。

国王が期待したような恩恵は受けられず、日々役立たず呼ばわりされました。


そんな時、何かと気にかけてくれたオルランドから誠実さを感じ取った私は、彼にクーデターを持ちかけたのです。

オルランドはその時の国王にも次期国王のバカにも怒っていました。そして失望していました。

だから私は言ったのです、私を助けてくれたら、お礼にあなたが王になるのを手伝ってあげると。


はじめオルランドは私の申し出を一蹴しました。

しかし真夏の豪雨でオルランドの出身地が町ごと流されたにもかかわらず、何の手も打たずに享楽にふける国王を見て、国王を排する気持ちは固まったのです。

ただ、最後まで自分が王になることにためらいはあった様ですが、ほとんどの貴族からも国王より信頼を得ていましたし、いつも国民について考えている彼ほど為政者として有能な人材も稀でしょう。


次に会うのは彼が国王、そして私達はマレーネ国王太子夫妻としてになりますわ。

これから両国にどんな関係が築かれるのか、楽しみでなりません。


とりあえず私は、彼の戴冠式にはマレーネ国とトーガ国を結ぶ大きな虹を出すつもりでいます。

10/14 誤字を修正しました。


☆ ☆ ☆

思ったよりも沢山の方にご覧いただいているようでありがとうございます。

ポイントやリアクション頂けたら嬉しいです (感想ならなおさら!)

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