獄潰し ~あそこの息子さん、最強ですって~
天導時時雨:今回は小説を書いている少年。一応、さまざまな修羅場をくぐってきた少年でもある。
霜崎賢治:基本的に時雨と一緒に出てくるいわば、セットメニュー。決してメインではないが、ハンバーガーの隣にはやっぱりポテトが必要だなと思わせる人物。
霜崎亜美:確か、賢治の親戚。若干強引なところがあるが、最近の男子は少し強引な女性のほうが好みだと誰かがいっていたような気がする。
時雨「ねぇ、賢治。僕が書いた小説で主人公最強があるんだ。それで、主人公最強の面白さを世に広める方法ってないだろうか」
賢治「ふんふん、それは実に難儀な問題だね。これほど難しい話もなかなかないよ」
時雨「そうかな、どこら辺が問題なんだろ」
賢治「最強なので成長性のない主人公。成長を楽しむ人たちにとってはなんら楽しくもない存在。まぁ、最強なので絶対に勝ってしまう、先の見える展開に意外性のなさ。主人公最強のため、仲間なんて戦力外通告確定。そして、もっとも越え難い壁が『最強』という言葉」
時雨「どこにも問題点なんてないと思うんだけど」
賢治「いいや、これこそ大変さ。人によって最強という言葉は線引きされているからね。たとえば、背後からの奇襲を受けてぎりぎりで勝利………」
時雨「それはまぁ、勝ったから最強なんじゃないかな」
亜美「そんなのあたしは認めないっ」
時雨「うわ、どこから湧いたのさ」
賢治「と、まぁ、最強だからぎりぎり勝利もアウトって人もいるのさ。そんで、最強は相変わらず曖昧だったら何が最強なのかさっぱりわからない」
時雨「どういうこと」
亜美「町内最強なのか、世界で最強なのか」
賢治「出番を取らないでほしいんだけど。それに、どの程度強いのかが曖昧すぎる。常人を人差し指でなぎ倒すことが出来るのが最強なのか、息を吹きかけるだけで相手を破裂させることが最強なのかわからないものさ」
時雨「ま、まぁ、そうだけど」
亜美「もうひとつ、出会う女性すべてを落としていくというのも一種の『主人公最強』ね」
時雨「そうだろうけど、それはそれで『ハーレム』ってやつなんじゃないだろうか」
賢治「まぁ、物はいいようだよ。とある少年なんて二重の意味で『年上キラー』って異名があるぐらいなんだからさ」
時雨「…………」
亜美「逆に考えると成長性の主人公のほうがいいかもしれないわね。自己満足で時雨君は『向かうところ敵なし、竹中』を書いたみたいだけど闘いなんて主人公が最強なんだから一行で終わらせていいんじゃないのかしら。『いつものように僕は最強でしたので負けません』ってぐらいで」
時雨「それじゃあ小学生並みの文才じゃないかっ」
賢治「いんやぁ、そうでもないよ。無理に難しい文章使ったって読み手が困るだけさ。わかりやすい文章で書かないと意味がないよ。英文使って読めなかったら意味ないでしょ」
時雨「いや、まぁ、確かにそうだけど。さっきのはひどすぎだよっ」
亜美「ま、つまり主人公が最強だったら他のところで面白く書かないといけないわねぇ。この小説、学園物みたいだけど……主人公がモテモテなのはまぁ、マシとして仲間なんて必要ないでしょ」
時雨「いや、いたほうがいいでしょ。時間の短縮にもなって」
亜美「甘いわね、最強ならば遅くても十秒以内には敵を倒さないといけないわよ。主人公最強だったらそのぐらいやってのけないと駄目よっ」
賢治「無茶言いすぎかもしれないけど、それが出来ないのなら『主人公最強』から『主人公最強(自称)』って変えたほうがいいかもね」
時雨「く、ううっ、二人していじめないでくれよっ」
亜美「いっそのこと『主人公最狂』にしたらどうかしら」
賢治「毎日朝は日の光と共に電波を浴びて、テレビが消えた後の音を感知、敵がやってきたと騒ぎたてるそんな少年なんてどうだい」
時雨「嫌だよっ。もうちょっと甘く読んで『面白かった』とか言えないのっ。僕たち友達でしょ」
賢治「甘いね、友達だからこそ、厳しく意見をするんだよ。要らない慰めみたいな感想をもらって喜ぶほどぼくは子供じゃないね」
亜美「『~がよかったと思う』とか『~が悪かった』という感想をもらえたら実にいい宝物をもらったものと同じなのよ。悪いところは改善し、いい所は伸ばす。基本でしょう」
時雨「………うぐ、い、いや、確かにそうだけど。たまにはおべっか使われてもいいんじゃないかな」
賢治「何を今更………」
亜美「そこまで時雨君が軟弱だったとは思わなかったわ」
時雨「僕はただ単に王道ストーリーを書きたかっただけなのに」
亜美「………主人公最強を書いていたんでしょ」
時雨「くそうっ、今こそ主人公最強を見せるときっ。食らえ、『適当に思いついたネタ帳アタック』そして、『使い捨てのネタキックっ』」
亜美「甘いわね、その程度が主人公最強………笑わせてくれるわっ。『弱パンチ』」
時雨「ぐはっ」
賢治「な、一撃………」
亜美「そして『アピール』」
賢治「がはっ………」
亜美「………登場人物紹介で名前が一番上にあるからって主人公だと思うなんて常識にとらわれすぎたわね」
時雨「………僕、もう意見を求めないよ」
え、こんな内容薄い小説のあとがきなんて大したことはできませんよ。しかし、主人公最強って書いていて楽しいものではあるんですよ。もっとも、途中で路線変更なんてしたら大変すぎるんですけどねぇ。ああ、思い出されるけすことのできない過去たちよ………。あのアニメとか主人公が途中から最強設定の人にバトンタッチ。前作ではぼろぼろになってラスボスと共に逝ってしまったのかと思わせましたが続編では無傷。苦労のない勝利って何だか得るものない気がして仕方がないんですよ。いや、まぁ、確かに失うものが何もなければいいんですけどねぇ。時間は失われますけど、物理的なものは失われませんからそれはそれで問題ないんですけど。ゲームだって初めて三十分でラスボスなんて何だか薄っぺらいないようだったって思うもんですよ。チーターと自縛屋さんは決して相容れない存在ってわけじゃありませんがゲームのとらえ方によって変わるんでしょうね。息抜きとしてやるゲームなのか周りの友達を意識してするものなのか………他者より上に立ちたくて裏技使うなんてゲームだったら確実に敵役ですよ。まぁ、そういった敵役も楽しそうなんですけどね。最も強いもの、それこそ最強。でも、その『最強』も永久には続かないものなんですよ。上には上がいるんです。井の中の蛙も意外と『最強』かもしれませんけどね。