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走れジョン。お前が行かなきゃ誰がやる‼︎――元死刑囚の異世界逆転戦記  作者: イチジク浣腸


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2/2

竜人と醒めた勇者

「で、条件は」

 翌朝、謁見の間。

 高い天井の下、ジョンは玉座の前に立っていた。隣にはフランク。昨日と同じ顔で、なぜか腕まで組んでいる。場違いだが、本人は気にしていないらしい。

 国王が口を開く。

「条件は一つ。魔王を討て。期限は一年だ」

「...一年ですか」

「それ以上は待てん。北方の海は荒れている。港も、街道も、不安が広がっている。魔王の勢力は止まらん」

 ジョンは一礼した。

「装備と路銀について、伺ってもよろしいでしょうか」

「最低限は用意する。ただし――騎士団はつけん。貴様を信用していない」


 少しの間。


「承知しました」


 王の眉がわずかに動く。

「強がりではないのか」


「違います」

 ジョンは一礼する。

「陛下のご判断は理解しております。そのうえで申し上げます。守られて戦うつもりはありません。自分の責任でやります」


 沈黙。


 やがて王は息をついた。

「……扱いづらい。だが、貴様の剣は信じている。行け」

「ジョン・ラックランド」

「は」


 ---


 廊下に出る。

「今の、ちょっと良かったですよ」

「うるさい」

「俺ならもう少し引き出しましたけどね」

「やってからいうんだな。お前は何もしてないだろ」

 支給は馬二頭、路銀、簡素な鎧と剣。

 贅沢は言えない。

「で」

 ジョンが横目で見る。

「魔王の居場所、本当に知ってるのか」

 フランクは笑う。

「さあ」

「……お前な」

「まあ、とりあえず行きましょう!思い立ったが吉日とも言いますし。とりあえずで旅してれば情報も寄ってきますよ」

「根拠は」

「俺の運がそう言ってます」

 自身ありげにフランクは即答した。


 ---


 三日後、最初の街に入った。

 宿屋の前で、言い争う声が聞こえる。

「銀貨十枚だ!」

 主人が女の財布から銀貨を掴み取る。

「昨日は七枚と言っていた」

 落ち着いた女の声。

 ジョンが目を向ける。

 銀色の髪。旅装束。整った顔立ち。

 そして、縦に裂けた瞳。

 ――竜人。

「何だと? 竜目のくせに文句言うな!」

 主人が吐き捨てる。

 女は感情を見せない。

「私も...人間だ。対等に扱ってほしい。それだけだ」

 気づけば、ジョンは間に入っていた。

「...やめてやれ」

「あんたに関係ないだろ!」

「あるさ」

 ジョンは宿の看板を一瞥する。

「俺はここに泊まるつもりだった。だがやめる。

 それに、客を選んで値を変える宿だと、街で広めたっていい」

 主人の顔色が変わる。

 ジョンはそれ以上何も言わない。

 数秒の沈黙。

 舌打ちとともに、銀貨が差し出される。

 女が受け取る。

 主人は奥へ引っ込んだ。

 女がジョンを見る。

「……なぜ助けた」

「別に助けてない。筋が通らなかったから言っただけだ」

 わずかに視線が和らぐ。

「竜人が嫌いではないのか」

「別に」

 横からフランクが顔を出す。

「一人旅ですか? よかったらご一緒に。俺たち魔王討伐をするため、旅の途中で」

「おいフランク」

「だって、こんな美人を仲間にできたら縁起良さそうじゃないですか。勝利の女神ですよ」

 女の眉がかすかに動く。

「魔王討伐……」

「暇ならどうです?」

 ジョンが睨む。

 女は少し考え、

「私も目的のため、旅をしている。目的地に着くまでなら同行しても構わない。それだけだ」

「名前は」

「……ローザ」

「ジョンだ」

「ああ」

 フランクがにやりと笑う。

「いいですね」

「「うるさい」」

 見事に声が重なった。


 ---


 翌朝、街を出た。森に入ってしばらくしたところで、フランクが急に手綱を引いた。

「止まってください」

「どうした」

「……なんか、嫌な感じがして」

冗談を言う顔ではなかった。ジョンは無言で剣に手をかける。風が止み、木々の奥で枝が軋んだ。

出てきたのは四体。灰色の巨体に黄色い目、人より二回りは大きい。オーガだ。

「まずいですね」

「わかってる」

一体目が腕を振り下ろす。踏み込み、懐に入り、斬る。刃は深く入ったが倒れない。二体目が横から突っ込んでくる。受け止めた腕が痺れた。背後に三体目の気配。舌打ちする。

視界の端で、ローザが一体を受け止めている。剣筋は正確だが、力で押されている。フランクは馬の後ろにしゃがみ込み、本気で震えていた。

四体目が正面から迫る。間に合わない。

そのとき、光が落ちた。

森の上から青白い光が差し込む。あり得ない角度の光に、オーガたちがひるむ。空中で光が形を取った。少女の輪郭だが、人とはどこか違う。輪郭が淡く揺れている。

『ジョン・ラックランド』

声が胸の奥に直接響いた。空気が張りつめ、オーガもローザも動きを止める。

『私はラピス。この世界の均衡を守る精霊。あなたを見ていました』

「……何者だ」

『説明は後です。まずは生き延びなさい』

光が剣に流れ込む。熱でも冷たさでもない。ただ力が満ちる感覚。

『使いなさい』

考えるより早く踏み込んだ。体が軽い。一体目を斬り伏せ、続けて二体目も倒す。三体目の首を断つと、最後の一体だけが残った。ジョンと目が合い、次の瞬間、森の奥へ逃げていく。しかし、深追いはしなかった。

静寂が戻る。風が吹き、葉が揺れた。剣の光がゆっくりと消える。

「ラピス、と言ったな」

『ええ』

「俺に何の用だ」

わずかな沈黙のあと、声が返る。

『長い話になります。今夜、また話しましょう』

光は霧のように薄れ、消えた。森に夕日が差し込む。

フランクがそろそろと立ち上がる。

「……今の、なんですか」

「俺が聞きたい」

ローザが隣に来る。その瞳がわずかに揺れていた。

「……強くなったな」

「ああ」

「あの光のせいか」

「たぶんな」

ローザは何もない空を見上げる。

「...不思議な旅になりそうだ」

ジョンは剣を鞘に収めた。

「始まったばかりだけどな」

ローザの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。

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