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走れジョン。お前が行かなきゃ誰がやる‼︎――元死刑囚の異世界逆転戦記  作者: イチジク浣腸


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1/5

青空の処刑台

 最悪だ。

 処刑台の上で、ジョン・ラックランドは静かに空を見上げていた。

 王都の上空は雲ひとつの濁りさえない快晴。港から吹き上げる潮風が、石畳の広場を抜けて頬を撫でる。

 皮肉だな。

 北方の要塞港が陥ち、王国の交易船が足止めを食らっているというのに、王都の空だけは穏やかで落ち着きを感じられる。国の行末など、関係ないと言わんばかりに。

 広場は群衆で埋まっている。

 商人、職人、軍人、貴族の従者。公開処刑は娯楽であり、絶対的な王権の誇示でもある。

 高台には玉座が設えられ、国王が座していた。

 左右には数名の重臣。だが誰も口を挟まない。

 この世界では、最終的に決めるのは王だ。

「ジョン・ラックランド」

 処刑官が王璽の押された布告状を広げる。

「汝は第三王子殿下を謀殺した罪により、本日ここに極刑に処す」

 ざわめき。

 ジョンは瞬き一つしない。

 王子とは共に戦地に立った。

 北方戦線で、魔族の砲撃に晒されながらも退かなかった勇気ある男だ。

 あの人を、俺が...俺が殺すはずがない。

 だが証拠は揃えられた。

 状況も整えられた。

 魔王軍に要塞港を奪われ、鉄と穀物の流通が止まり、国内は非常に不安定だ。

 王国に今必要なのは“安定”であって、真実は後回しらしい。

「異議あれば今のうちに申し述べよ。...あるならな」

 ジョンは黙っていた。

 異議は法廷で述べ尽くした。

 これ以上は王の威信を揺るがすだけだ。

 王子の名をこれ以上汚す気はない。

 処刑官が合図の手を上げる。

 その瞬間。

「その処刑、待ったぁあぁー」

 間の抜けた声が広場を引き裂いた。

 兵が一斉に銃を構え、撃鉄を起こす音が重なった。

 人混みを押しのけて現れたのは、よれよれのローブ姿の若い男だった。ひょろりとした軟弱そうな体つき。しかし場違いなほど堂々と勇ましく笑っていた。

「止まれ!」

 王の側近の衛兵が一歩踏み出し、銃剣を喉元に突きつけた。

 それでも男は止まらない。銃剣の刃先が喉を浅く裂き、血が一筋流れた。

 正気じゃない、とジョンは思う。

「国王陛下に、王国の損失を止める話があります」

「無礼者!」

「お怒りはもっともです。ただ、首を刎ねるのは話を聞いてからでも遅くはないでしょう?」

 男は高台の王をまっすぐ見上げる。

 王は冷ややかに命じた。

「其奴の首を刎ねろ」

 兵が踏み出す。

 男は声を張らない。静かに言った。

「北方の要塞港を奪った魔王――その居場所を知っています」

 静寂。

 今度は、本当の沈黙だった。

 北方の要塞港を占拠し、砲台から王国船を沈め、交易路を断つ存在。

 その中枢である魔王の所在は、王国が最も欲している情報だ。

 王の眉がわずかに動く。

「……申してみよ」

 男は小さく首を振る。

「成約後に」

 どよめきが起こる。

「信用は相互のものです、陛下。先に差し出せば、私は用済み。価値があるのは、“まだ話していない今”です」

 一拍置く。

「王国にとって損な話はしません。むしろ、得しかない」

 大胆。だが理屈は通っている

「条件とは」

 男は処刑台を指した。

「彼を使いたい」

 ジョンは男を見る。

「元王国一の騎士。北方戦線で要塞外縁を単騎で突破した、伝説になる筈だった男でしょう。彼を魔王討伐に送り込む。成功すれば王国の悲願達成。失敗して死ねば処刑と同じって考えれば...陛下に損はない」

 命を、軽々しく計算式に入れる発言。

 ジョンは内心で苦く笑う。

 だが——悪くない。

 死ぬなら、何かを守るために死にたい。

 王はしばし沈黙した。

 重臣が何か囁く。だが王は手で制した。

「……よかろう」

 広場がどよめく。

「ジョン・ラックランド。汝に最後の機会を与える。魔王を討て。それが罪への答えとなる」

 縄が解かれる。

 血が巡る。

 ジョンは処刑台を降り、男の隣に立つ。

 小声で問う。

「なぜだ、なぜ」

 男は前を向いたまま答える。

「処刑場に王国一の騎士がいたんです。使わない手はないでしょう」

「やはり、俺を利用する気か」

「それはお互い様でしょう?」

 男が初めてこちらを見る。軽薄な笑み。だが奥は読めない。

「俺はフランク。よろしく。元・死刑囚の騎士さん」

 ジョンは一瞬だけ空を見上げる。

 王子の顔が浮かぶ。

 ——まだ終わっていない。

「はぁ……ジョンでいい」

「ジョンさん」

「さんはいらん」

 フランクが肩をすくめる。

「じゃあジョン」

 こいつとやっていけるかは分からない。

 だが処刑台よりはずっといいな。

 さきほどまで憎く思えた青空が、今はただ広く、自由で美しくさえ感じられた。

 北から吹く風が、わずかに潮の匂いを運んできた。

 戦場は...そちらにある。

ここまで読んでくださってありがとうございます‼︎

ジョン・ラックランドという名前、もしかしたらどこかで聞いたことがあるかもしれません。元ネタはあります。でも正直に言うと、借りたのは名前と異名だけです。

歴史上の人物像をなぞるつもりはありませんし、本作のジョンとはほとんど関係ありません。

むしろ、どこかネガティブな印象もあるその名前を、「失う側」ではなく「取り返す側」にしたかった。それだけです。

この物語のジョンは、誰かに評価を決められる男ではなく、自分で意味を作っていく男にしたいと思っています。

これからどう転ぶかは、作者の私にもまだ分かりませんが、よければもう少し付き合ってやってください。

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