表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命:きみが大人になるまで  作者: 朔良 海雪
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/39

一章⑤ 盗賊団との戦い

 すっかり人がはけてしまった先でリリカが目にしたのは、昼間に訪れた銀行の変わり果てた姿。そして、それを背にするようにして立ちはだかっているカイの姿だった。


 対する人影は……六つ。


 そのうち、既に二つは石畳に伏している。恐らく先ほどの爆発で倒されたのだ。


 残る四人も含め、全員が暗闇に溶け込むような、彩度の低い服に身を包んでいる。


 手には思い思いの武器を持ち、今にも飛び掛かりそうな姿勢ではいるが、カイの魔法を目にしたのだろう、その威勢はいくらか削がれているようだった。


 リリカが物陰に身を隠すと、彼らは口々に毒づき始めた。


「く、クソ……警備なんかいねえんじゃなかったのかよ……! 話が違えぞ!」


「もう兄弟が二人もやられちまった……一旦撤退するか!?」


「ダメだ。今はこの男一人だけだが、我々が銀行を狙っていることがバレた以上、次は警備の数が増えるだろう。この男を倒してさっさと──」


「とは言ってもよ兄貴、あいつ、相当手練れっぽいぜ……」


「どれだけ腕が立っても所詮は魔法使い、接近さえすればどうにでもなるだろうが! かかれ、お前らァ!」


 一人の声を皮切りに、それ以外の三つの影がそれぞれ叫び声を上げ、一息にカイへと襲い掛かる。


 いくつもの凶器がカイに迫る。思わず悲鳴を上げそうになるが……


 カイは冷静に、杖を最も距離を詰めていた一人に向けた。


 杖先の魔法陣が強く光り輝き、光線が発射される。


 まるで質量を持ったかのような奔流は、直撃した一人の身体をくの字に折り曲げ、そのまままっすぐに背後の建物の壁に叩きつけた。


「うらぁッ!」


 だがその直後、別の一人が大鎌のような刃物を振りかぶる。あと数瞬で、それはカイの首筋に届く──!


 リリカが目を覆う直前、足元の魔法陣に光が灯ると同時に、カイは大きく飛び上がった。生身の人間ではありえないほどの跳躍。カイがいたはずの場所を鎌の一振りが空過する。予測不可能な空振りにつんのめった男の猫背に、再び光線が放たれる。石畳を砕くほどの衝撃を背中に受け、男はあっけなく気絶した。


「ちッ、っくしょおがぁっ!」


 なおも両手に二つの短剣を構えた男が攻撃を仕掛ける。


 着地を駆るように繰り出された斬撃を、自由落下のさなかであるカイが回避する手段はない。


 ふっ、と、彼の足元にあった魔法陣が消えた。かと思えば、すぐに新しい魔法が展開され、短剣との間に割り込む。


 ガギンっ、と言う音を立て、刃物と魔法陣がぶつかり合った。


「ぎっ……防御魔法かよ……!」


 相変わらず、彼の操る光は質量を持っているかのように刃を通さない。逆手に握られたもう一つの短剣をも防ぎ切り、突進の勢いごとはじき返した。


 よろめいた男に引導を渡すように、カイは冷たい眼光と共に光線を放つ。


 至近距離で攻撃を受け、男は路地の暗闇へと押し流されていった。


「……くっ」


 兄貴、と呼ばれていた、指示を飛ばしていた男だけが取り残されている。


 仲間のやられ方を目の当たりにした彼は逃げ出そうとするが──一歩目で足をもつれさせ、どさりとその場で転倒した。


「ちっ、阻害魔法まで使いやがるのかよ……!」


「観念しろ。お前らの企みは全てわかってる」


「だろうな。じゃなきゃこんな祭りの中、銀行なんかに張ってるわけがねえ」


 男は起き上がることも諦め、地面に転がったまま身体の力を抜いた。もう抵抗する意志も逃走する気力もなさそうだ。


「カイ!」


「うえっ、リリカ?」


 安全だと判断し、リリカは物陰から飛び出すと、カイの元へと走り寄った。


「祭りを見ててって言ったじゃないか」


「ごめん。でも、さっきの騒ぎでみんな、どこかに逃げて行っちゃったよ」


「そ、そうなんだ……」


 苦笑いしつつ、カイは頭を撫でてくれた。


 気持ちの良い温もりに目を細めつつ、リリカは問う。


「それより、どうして銀行が襲われるってわかったの?」


「気づいたきっかけは、銀行の受付の人が言っていた、『銀行内の金貨の量が増えている』って言葉だよ」


「えっと、銀貨や銅貨に両替する人がたくさんいたんだっけ?」


「そうやって、銀行には町中の金貨が溜まっていった──ねえリリカ、どうせ盗むのなら、金貨がたくさん手に入るほうがいいと思わない?」


「それは……確かに」


 金貨、銀貨、銅貨。どれも大きさは同じで、材質による小さな重さ程度の違いしかない。確かに、盗むのなら金貨一択だ。


「一つの場所に貴重品が集まるのは、ある意味危険だよ。こうして盗まれてしまう危険があるのなら、特にね」


 カイは嘆息し、続ける。


「彼らは金貨を銀行に集めて根こそぎ奪い取るために、偽金貨を作って流通させたんだ。それを使うだけでも儲かるだろうけど、真の目的はそこじゃない。金貨の信用がなくなったら使えないしね。でもそれはみんなも同じ。だから銀行で銀貨や銅貨に両替する必要がある。その金貨すらも奪ってしまえば更なる利益が期待できるって寸法だ。ちょうど祭りで観光客もたくさんいるし、お金のやり取りが多くなったタイミングを狙っていたのかな」


 それに、とカイは、足元で気絶している男を杖で転がした。


 仰向けにさせられた男の懐から、小さな紋章が刻まれた徽章が音を立てて転がり落ちた。


「ちらっと見えたんだけど、これ、センチュリアって国の紋章だよね? 昨日、リリカが見せてくれた地図に描いてあったからよく覚えてるよ」


「ってことは、この人たちはセンチュリアの……!?」


「もしそうだったら、捕まった時に身分がバレちゃうよ。本当にセンチュリアの手先だったならこんなもの持ち歩かない。多分、彼らは盗みを働いたあと、この徽章を銀行のどこかに残していくつもりだったんだ。これだけ大規模な盗難、それも王国のお膝元で起きた事件となれば、シミラ王国とセンチュリアの対立が起こる──」


 カイの推理を耳にした男が舌打ちをし、その言葉が正しいことを証明する。


「こいつらの目的は金儲けと、国と国の間に混乱を作り出すこと。僕もこの紋章を見るまでは単なる窃盗事件だと思っていたけど、考えていた以上に大きな話だったみたいだ」


 すごい。受付の女性のたった一言をきっかけに、カイは国同士のいがみ合いを事前に食い止めてしまった。


 リリカの目には、まるでカイがヒーローであるかのように映っていた。


「だが、こんな小さな盗賊集団が国同士の関係を歪めたとして一体何になる? お前たちの裏には、金が手に入ると唆した誰かがいるんじゃないのか?」


「ふ……さあ、どうだかなぁ!?」


 カイが問い詰めようとした瞬間、男は懐をまさぐり、何かを引き抜いた。


 それは小さいながらも、確かに杖だった。刃のような風魔法が杖先から飛び出し、隙を突かれた二人を襲う。カイが杖を構えようとするが間に合わない。反応が追い付かない。足が動かない。


 しかしその瞬間、その場の誰も予想できなかったことが起きた。


 魔法の軌道が曲がっている。カイの直線的な魔法とは違い、僅かだが弧を描いている。


 はじめはそういう魔法なのかと思ったが、違った。


 魔法はリリカへと──いや、リリカが抱えている赤ちゃん、マオへと向かっている。彼女に吸い寄せられるように、魔法がカーブしているのだ。


 このままではマオに魔法が命中してしまう。咄嗟に身をよじるけれど、避けきれない──


 為す術もなくマオに魔法が振れたその時──


 ──すやすやと眠る小さな赤ちゃんが、その魔法をすっぽり吸い込んでしまった。


「はァ!?」


 驚きの声が上がったのも束の間、カイが反撃で放った光魔法が男の顎を強く打った。男は脳を揺らされ、身体をよろめかせると、そのまま仰向けに倒れ込んだ。


 「大丈夫、リリカ!?」


「う、うん、わたしは。でも。一体何が……?」


「……ごめん。ぼくにもわからない」


 マオはこの状況に至っても、まだ寝息を立てているだけだ。彼女の意志で何かをしたとは思えない。


 でも確かに、マオが自分を守ってくれた。


 もしかしたら、名前を付けてあげた自分のことを助けてくれたのかもしれない。


 カイが言っていた、貸し借りはいつか自分に返ってくるという話が、なんとなくリリカの頭をよぎった。


「何が何だか分からないけど、とにかく──ありがとう、マオちゃん」


 リリカが優しく抱きしめると、マオは「んふ」と吐息を漏らし、笑った気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ