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こうりゃくたいしょーそのにとさんとよん

 続いて二人目の攻略対象、南川みなみかわ幽雅ゆうが

 ヒロインのクラスメイト兼、日本四大財閥の序列三位、南川財閥の御曹司……の、従兄弟いとこ。残念ながら御曹司ではなかった。

 瞳は儚さを孕むアメシスト。ファンの間では『甘くて儚い雰囲気がいい!』と人気。


 顔立ちは一言で言うと、『THE 病弱美少年』。

 病的なまでに白い肌、どこか熱に浮かされたような瞳。線の細さも相まってか、どこか浮世離れした儚い美しさ。


 生まれつき病弱で身体が弱い彼は、触れたら壊れそうとかそういうレベルじゃなかった。

 走れないのはもちろんなこと、十分以上歩くとバタッと倒れる。そう、バタッと。なんの前触れもなく。

 学校に行くなんて夢のまた夢。毎日ご飯を食べて寝る生活を繰り返すのみ。触れたらバタッと倒れます。そう、バタッと。

 性格は穏やかで控えめ。そして何より自己肯定感が底辺。



『いつも僕なんかのために手紙を届けてくれてありがとう、椿屋さん』

『嬉しいけど、毎日来なくてもいいんだよ。ほら、友だちと遊ぶとか……え? 僕が友だち? ……うん、嬉しいよ。ありがとう』



 ちなみにこの『……うん、嬉しいよ』は、『……(ああ僕のために、そんな思ってもないことを言ってくれるなんて)うん、嬉しいよ』である。ゲーム一の鈍感ボーイだった。

 毎日お見舞いをしても「まさか僕を好きになるなんてないない」と片付けてしまう激鈍ポンコツ。手作りお菓子(めっちゃ凝ってる)を渡されても「僕なんかを元気付けるために、やりたくもないことを……!」と解釈する激鈍ポンコツ。いい加減気付けやこのヤロウ。


 このままだとヒロインへの好感度は少しずつ上がっていくが、比例して自分への好感度はドンドン下がっていく。そして最後には飛び降り自殺する。いやだこんな結末。


 それを避けるためには、毎日毎日お見舞いに行って、そこで幽雅を褒めちぎるしかない。

 とにかく褒めまくって褒めまくって褒めまくって……次第に自己肯定感を上げた幽雅が健康になって学校に来たところからが本番。それまでの印象を覆す勢いでヒロインをデロデロに甘やかす。


 そもそも幽雅が病弱だった一番の原因が、その自己肯定感の低さだったのだ。

 心が弱れば、身体も弱る――を体現していた。

 しかしヒロインの必死の努力のおかげで、なんとか彼は健康な肉体を手に入れる。

 それからはもう攻める攻める。砂糖吐くレベルで攻める。



『椿屋さんのこと、愛衣って呼んでもいいかな? ……ふふ、ありがとう、愛衣』

『おはよう愛衣。今日も可愛いね。ずぅっと見ていられるなぁ』

『愛衣、これから帰るの? じゃあ送ってあげる。愛衣は僕の、大事な女の子だからね』



 とにかくあっっっまい。しかも信じられないことにこれら全て無自覚の甘さ。ゆえにストップが効かない。

 彼の周囲は何をしているのかというと、『坊っちゃまが元気に……! 椿屋さんのおかげです。いいですよ坊っちゃま、もっと攻めちゃってください! きゃー!』状態で、ストッパーどころかみんな幽雅の味方。彼のルートに入ったならば、大人しく愛を受け入れるしかない。

 時間はかかるが一番好感度の上げやすい攻略対象だった。チョロいとも言う。





 三人目の攻略対、甲崎こうざき秋羅あきら

 医療に力を入れている、上階級の家柄の令息。ヒロインとは同級生。

 瞳は情熱のルビー。爽やかな顔つきで高身長。暖かな太陽の光を詰め込んだような赤髪が特徴的な青年だ。

 優しくて明る性格で、クラスの――いや、学園中の人気者。

 ヒロインとの関わりは、虐めの現場に遭遇したのが最初。

 人気のない空き教室で、茶色く濁った液体を無理矢理飲まされそうになっていたヒロインを発見。すぐさま割って入る。



『君たち、何してるの? それ、泥水だよね。その子を離しなよ!』

『あら、甲崎さんじゃない。何を怒っているのかしら? わたくしたちはただ、遊んでいるだけよ?』

『君は……たしか、西園寺家の……っ』

『ええ。西園寺奏音よ。……はぁ。早く消えてくださる? 四大財閥ですらないような人間が、気安く話しかけないでちょうだい。――興が逸れたわ。行きましょう』



 出ました悪役令嬢。いつにも増して苛烈な反応ですね。

 家柄的に本格的に反発できない秋羅は、それ以来陰ながらヒロインを気にかけるようになる。表立って動けば家が危ないため、慕ってくれるクラスメイトたちに頭を下げて協力を願い、裏で支えるのだ。



『ごめんね、愛衣。ちゃんと君を守ってやれなくて』

『ジャージを切り刻まれた……? ……わかった。とりあえず俺のを着ていて? 新しいジャージは俺が買うからね』



 この優しさにゲーマーたちは涙腺崩壊。一時は人気投票一位に輝いたキャラである。


 しかしそんな彼にも闇はあった。秋羅の両親は、彼に無関心だったのだ。

 顔を見ても視線一つ寄越さない。育児も教育も使用人任せ。何年も家に帰ってこないくせに、手紙も電話も何もない。

 彼が周囲に優しくするのは、『そうしたら愛してくれるかも』という動機ゆえだった。

 ヒロインはその境遇に涙を流し、秋羅を深く愛することで彼の傷を癒す。

 ちなみにこのルートのバッドエンドは、甲崎家の没落。秋羅は路頭に迷って攫われる。ヒロインはそのことに精神を病んで、一生を部屋で終える引きこもりとなる。





 そして四人目、早乙女さおとめ永遠とわ

 永遠はいわゆる『俺様男子』。

 態度は横柄、勝気な発言と行動が目立つ、カリスマ性に溢れた美青年。

 瞳はレモンクオーツのような黄色。活力に満ち溢れるエネルギッシュな輝きが、そのカリスマの大元と言えるだろう。

 家は結構大きいが、四大財閥ほどではない。


 そんな彼とヒロインの最初の出会いは、特定の選択肢を選択して行くことのできる、幼少期の夏祭り。

 そこで偶然出会ったふたりは、親が探しに来るまで自主的に迷子となる。

 永遠の秘密の穴場スポットで花火を見上げて、祭もお開きという頃にひとつ約束をする。



『おまえがどこにいても、おれがぜったい見つけてやるよ』

『そのときは、おまえはおれのおよめさんになれ! いいな!』



 この時からすでに俺様な態度が滲む永遠くん。

 しかしその時ばかりは顔を真っ赤にし、目をうるうるさせていたというのだから笑い物。


 そしてヒロインはこの約束をすっかり忘れて学園に入学。一応夏祭りのことは覚えているのだが、約束と永遠のことだけをまるっと忘却していた。

 永遠はその事実に顎が落ちるほど絶句した。羞恥を忍んで言ったプロポーズは、なんと相手の忘却という予想外の敵によって遠い彼方に放られた。

 そこから永遠は、あの手この手でヒロインを落とそうとする。



『おい、何やってんだよ。お前はこの俺と帰るんだ』

『は? こんな高いネックレス貰えない? うるせぇよ。いいから毎日付けろ。レモンクオーツごときで一々喚くな』

『夏祭り行くぞ。拒否権はねぇ。……ぜったい、思い出させてやる』



 なんと健気なことでしょうか皆様。俺様男子が頑張っている姿に胸を打たれたファンは多かった。『わたしもレモンクオーツのネックレスが欲しい!』と、店のレモンクオーツアクセが消える現象まで起きた。


 バッドエンドはヒロインの記憶喪失。

 夏祭りに行って神社前の階段から落ち、頭を打って気絶。起きたら記憶が消えていて、自分のことすらわからない状態。

 ヒロインから忘れられることをもはやトラウマレベルで植え付けられている永遠は、あまりのショックに、毎日思い出の花火を見た場所に通って、ヒロインが帰ってくるのを待ち続ける――――





「ここまで聞いてどう思ったかしらレイ」

「バッドエンドが全部ヤバいです」


 語り終えた奏音に問われると、無表情で即答したレイ。

 飛び降り自殺にお家の没落&精神病んで引きこもりに記憶喪失……まあ間違ってはいない。


「バッドエンドは本当にバッドエンドなのよね……しかもこのゲーム、やたらと高精度でね。少しでも選択肢を間違ったら即アウト。具体的に言うと選択肢ひとつでバッドエンドへ直行よ」

「詰みじゃないですか」


 最悪のお便りに死んだ魚の目で切り返すレイ。

 一時はファンたちから『バッドエンドルートが多すぎてハッピーエンドに辿り着けない! ほんとはハッピーエンドなんてないんじゃないの!?』という苦情が殺到したほどだと聞くと「詰みです! 詰み!」と強く主張する。

 奏音は苦笑しながら言う。


「大丈夫よ。だってここは現実だもの。ゲームのように、セリフひとつで人が死んだり不幸になったりしないわ」

「………………ならいいですけどねぇ」


 釈然としない気持ちのまま、レイはサクリとマカロンに舌鼓を打った。

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