おしごと
「え…………」
「ワタシは職業柄、嘘を見抜けると言いましたね。加えてワタシは、隠し事も見抜けるんですよ」
小細工は通じない、と暗に伝える。
レイは気付いていた。奏音の言葉に混じる、僅かな震えに。
彼女はなにか隠している――奏音が『義妹にならないか』と言った瞬間から、それを察していた。
まさか気づかれるとは思っていなかったのか、奏音が目を見張る。
それから気まずそうな顔で白状する。
「ええ……その通りよ。本当に頼みたいことは、別にあるわ」
「――正直に話してください。でなければ義妹の件は了承できません」
どこまでも冷たい声でレイは言い放つ。
レイは気付いていた。奏音が元の世界から来たレイとの関係を切りたくないと思っていることに。
その上で、この発言をした。
――嘘を吐くなら信用しない。
そういうことなのだ。
奏音はその言葉に、わかりやすく焦った表情を浮かべた。
「わ、わかったわ! 正直に話すから……」
途端にレイは表情を緩めて、優しげな眼差しを向ける。
「はい。お願いします」
――飴と鞭。
ホッと胸を撫で下ろす奏音は、そのことに気づいていない。レイを引き留めることばかりが頭を占めているのだろう。
レイは小首を傾げて、奏音を促す。
「実は――わたしの代わりに悪役令嬢をやってほしいの」
レイが目を細める。微笑んだまま奏音に「どういうことですか?」と問う。
奏音はバツが悪そうに顔を背ける。
「ホセコイには、唯一バッドエンドがあるわ。それが――日本の金融危機」
ああ、とレイは声を上げる。
攻略対象がお金持ちなのは、それをバッドエンドにするためだったか。
その金融危機が訪れると、日本は確実に破滅する。たくさんの人が飢え、餓死死体が大量に生まれることとなるだろう。
それを防ぐためには、ヒロインと攻略対象の恋の成就が必要不可欠。ヒロインとその婚約者が、愛の力で危機を乗り越えるのだ。
そしてその恋の成就には――悪役令嬢の破滅が必要だったのだ。
奏音はヒロインを虐めたくはなかった。だがこのままでは、いずれ日本中が戦慄する危機が訪れる――まさに板挟み。
そこにレイが現れた。元の世界を知る、自分と同じ世界の住人。唯一自分を理解してくれるであろう少女。
彼女にとっては、まさに希望の光だったのだろう。
奏音は、自分の代わりにレイを悪役令嬢にすることにした。
全てを語った奏音は、絶望したように顔を俯ける。
こんなこと、絶対に了承してもらえない。そうなれば、自分が破滅しなければならない――そのことに恐怖する。
だからこそ、上から降ってきた言葉に心底驚いた。
「いいですよ」
あっけらかんとした声に、思わずその白い瞳を見つめる。
嘘や冗談を言っている様子はなく、本気で破滅を受け入れると言っていた。
『本当にいいのか』とか、『破滅が怖くないのか』とか。
色々言いたいのに、何も出てこない。
レイは奏音の表情に、可笑しそうに笑う。
「そのためにはまず、ワタシの自己紹介でもしましょうか。といっても、名はすでに名乗りましたが」
本当に代わりに破滅してくれるのか、と奏音は顔を輝かせる。
もちろん罪悪感はある。自分が頼んだことなのだから、彼女が破滅した後は、精一杯支援するつもりだ。
だがその罪悪感以上に、安堵が勝っていた。
記憶が蘇ってから、ずっと感じていた不安と恐怖。
いつか破滅しなければならない事実に怯えて、友人のひとりも作れなかった幼少期。
将来冷たい視線を投げてくることを考えると、両親すら信じられず、一時期は人間不信に陥った。
それがついに、救われた。
よかった――と奏音は内心で呟く。
「ワタシは、政府直属詐欺組織【LIAR】所属、詐欺師の〈零〉です」
一瞬、理解できなかった。
今この少女は、なんと言っただろうか。
詐欺師とは、つまり彼女は、今までいろんな人を騙して生きてきたということなのか?
人の弱みや善良な心につけ込んで、金を捲き上げる――犯罪者?
つい先ほど自分の希望になった少女が、人を陥れる詐欺師だった――そんなこと、理解したくなかった。
呆然と目を見開く奏音。
そんな彼女を嘲笑うかのように、レイは可愛らしい笑みを浮かべる。
それがまるで――願いの代わりに魂を刈り取る、邪悪のようで。
「ウソツキのワタシを信じて、日本の危機を託してくれますか? ――奏音お姉様」
悪魔が目の前で笑っている。
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