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3/8

かくしごと

 原作の西園寺奏音は、ものすごい性悪だったらしい。

 親の権力でイケメン上級令息を婚約者にして、そのくせ似たような上級や中級のイケメン令息を取り巻きにしてやりたい放題。典型的な悪役令嬢だ。


 そんな彼女は、主人公の愛衣を酷く虐める。

 それはもう、そこまでしなくてもいいだろう、というくらい虐め抜く。

 靴を汚したり、貧乏人と罵ったり、泥水を無理矢理飲ませたり――挙句には「椿屋愛衣に虐められた!」と嘘をついて陥れようとする。

 しかしその嘘はすぐに露見。これを切っ掛けに今までの悪事を全て断罪される。

 愛衣は奏音の生家に慰謝料として大金を支払われ、父親の会社を立て直す。

 さらに、嘘が露見した奏音が愛衣を口悪く罵るシーンがあるのだが、そこで言った、


「何を言われても、私はくじけません!」


 というセリフで、その時点で一番好感度が高い攻略対象が愛衣に堕ちる。断罪後、愛衣はその攻略対象と婚約。


 一方奏音は生家と縁を切られ、以前の愛衣よりも貧しい生活を送って……精神を病んで愛衣を殺そうとする。

 それを婚約者になった攻略対象が守って、奏音は一生刑務所で生きることとなる。

 守られることで婚約者と愛を確かめた愛衣は、愛する人とキスを交わしてハッピーエンド。




 ――というストーリーだ。



「でもわたしは星凛学園には入らずに、イタリアの大学に留学する予定よ。ヒロインを虐めたくはないしね」

「……ん? 大学? ……奏音さん、何歳ですか?」

「十五よ。別に大学なんて、勉強さえすればいくらでも飛び級できるじゃない」

「……なるほど」


 レイは『この人何気に天才なんだ』と思いながら頷いた。

 長く語って喉が渇いたのか、紅茶を一口飲む奏音。

 本来行くはずの星凛学園ではなくイタリアに留学するということは、つまり原作を捻じ曲げることが可能ということだ。

 そしておそらく、奏音が言いたいのは――



「貴方はきっと、わたしが前世いた世界から来たのね」



 腑に落ちる。

 おそらくそれは正しい。先ほどレイが感じた“おんなじ”というのは、出身の世界が同じ、ということだったのだろう。

 レイはおそらく、“転移トリップ”というヤツなのだろう。何がきっかけかはわからないが。

 そういうことでしたか、と呟くと、奏音が驚いたように目を見張る。


「アナタ……信じてほしいとは言ったけれど、どうしてそんなに……」

「あ、ああ、えっと」


 レイは微笑みを浮かべる。


「職業柄、嘘を見抜いたりするのは得意なんです」


 レイは、発汗や瞬きの回数、瞳の揺らぎなどから嘘を見抜く技術を習得している。

 それは全て、―――(⬛︎ ⬛︎ ⬛︎)として生きていくために得たものだ。

 奏音の言葉に嘘はなかった。だからこそレイは、彼女の非現実的な話を信じたのだ。

 奏音は「そう……」と呟いて顎に手をやる。


「高い身体能力、物怖じしない度胸、頭の回転も速くて、更には嘘を見抜ける技術……期待以上だわ」

「? あの、奏音さん?」


 なにやらブツブツと呟いている彼女に、レイは訝しんだ声を上げた時、奏音はパッと顔を上げた。

 爛々と目を輝かせながら言う。




「アナタ、わたしの義妹いもうとにならない?」




 ()()()()


 レイは首を傾げる。


「いもうと……?」

「この世界はアナタが元いた世界ではない。そして帰る方法もおそらくないわ」


 “帰れない”という事実に「え……」と絶句するレイ。

 奏音は真剣な顔で語りかける。


「だったら、事情を知っているわたしの元にいるのが、一番安全じゃないかしら」


 正しいな、とレイは思った。

 困惑している表情を浮かべたまま、脳内で冷静に考える。


(彼女の義妹になるのは、了承した方がいいだろうな。同郷のよしみで衣食住を約束してくれるのであれば、この世界でも生きていけるだろうし――でも)


 レイは唐突に表情を消す。内が読めない無の表情で奏音を見つめる。

 彼女は、突然雰囲気が変わったレイに困惑していた。


「ねえ、奏音さん」


 冷たい声だった。




「なにを企んでいるの?」

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