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ちがうとおんなじ

 東京の休日、昼の街は楽しげなざわめきで満ちていた。

 子供のはしゃぎ声や笑い声が、通りの隅々まで響いている。

 色とりどりの車がゆっくりと行き交い、路地からは香ばしいフライドポテトの匂いが漂った。

 キッチンカーの窓から身を乗り出した女性が、笑顔で冷たい飲み物を手渡す。客は「可愛い」と囁きながらスマホのシャッターを切っていた。

 昨晩から路上飲酒している男性は警察に職務質問され、それを横目に周囲は通り過ぎていく。


 なんの変哲もない、普通の光景。

 だが、それを普通とは思えない少女がいた。


「…………どこ…………?」


 幼いのか、大人びているのか。

 魅力的なのか、不気味なのか。

 一目見ただけで、そんな問いが浮かぶ少女だった。

 白髪、白い肌、白い瞳――漂白されたようなその存在は、現実の中にぽつりと浮かんでいる。

 その顔には、子供の輪郭と大人の目元が同居していた。

 幼いのに成熟していて、成熟しているのに無垢。

 まるでふたつの年齢を、無理やり一人の身体に詰め込んだような、不自然な調和。

 それでも、目が離せなかった。

 コテン、と傾げた首の角度まで、まるでアンバランスを象徴するように見えた。


「…………ゆめ…………?」


 ほんの数秒前まで、彼女は自宅のリビングで友人たちとトランプをしていた。

 確かな勝利を確信し、にやりとほくそ笑んだばかりなのに――気がつくと、知らない街角に立っていた。意味がわからない。

 目を細め、わずかに震える指でそっと頬をつねる。


「いひゃい…………」


 夢じゃなかった。もっと意味がわからない。夢でないのなら、ここはどこだというのか。

 はやく醒めろとさらに指先に力を込める。しかし痛いだけで、結局なにも起こらなかった。

 全力で抓り上げたせいで赤くなった頬を抑えながら、少女は周りを見渡す。


 並び立つ高層ビル。有名フードチェーン店。派手な装飾のカラオケ店。


 子供が親の手を引っ張りながら、甘い菓子をねだる声が聞こえる。

 交差点ではクラクションが鳴り響き、苛立つ車の群れが渋滞に巻き込まれていた。

 近くの女性は笑顔で「忘れていた」とストローを差し出し、若者たちは楽しげに写真を撮っている。

 一方で、警官に怒鳴りつける男の声が辺りに響き、周囲は嫌悪の色を隠せずに眺める。


 ありふれた光景。どこにでもあるような光景。

 だが少女の本能が、()()()が違うと告げてくる。

 ここは――自分が先ほどまでいた場所とは、何かが根本的に違うのだと。


「きゃあああああ‼︎」


 突如、鋭い悲鳴が歩道の奥から裂けるように響き渡った。心臓が跳ね上がり、反射的にそちらへ視線を向けた。

 男がいた。少女のいる方向へと走っている。ごく平凡な姿だったが、その手にはギラリと光る――銀の凶器。


 ナイフ。


 それを認識した時には、男はすでに、少女のすぐそばにいた女性に刃を向けていた。

 女性の顔が、恐怖で引き攣る。周囲にいた黒服の男たちが、焦ったような表情で彼女と男の間に割り入ろうとするが間に合わない。


 結果的には――その刃が女性に届かなかった。

 ひとりの少女が、寸前で男の腹を蹴り飛ばしたからだ。

 回転の力を加えられた鋭い蹴りは、標的を二メートル近く吹き飛ばした。男は白目を剥き、気絶する。


「え…………」


 女性が驚いたような声を出した。突然危機が去ったからなのかも知れない。

 黒服の男達が、通り魔の男を素早く取り押さえた。暴れる男を無理矢理抑えつけ、拘束器具を取り出す。

 テキパキと縛られていく男をボーッと見ていると、女性が少女の腕を掴んだ。

 振り返った少女は、直後驚愕した。


 綺麗なブロンズの髪、エメラルドのような瞳は吊り上がっていて、華やかな顔立ちの美女。驚いたような表情すら美しい。

 シンプルな装いだったが、服や装飾のひとつひとつが気品を宿している。高級品なのかもしれない、と少女は呆然としながら思った。

 だが、驚愕したのはそんな理由ではない。

 先ほどまで警報を鳴らしていた本能が、告げてくる。


「アナタは……」

「おんなじ……?」


 声を漏らしたのは同時だった。お互いを見合って目を見開く。

 おんなじだ。この人はワタシとおんなじ。()()の人たちとは違う。ワタシとおんなじ――そればかりが少女の頭を占めた。

 女性も呆然としたように少女を見つめていたが、戻ってきた黒服の男達のひとりが「奏音かのん様、お怪我はありませんか?」と声を掛けてきたことで、ハッと顔をその男に向けた。


「ええ……わたしは無事よ。彼女が助けてくれたから」


 凛、と返事をした女性は、再び少女に向き直る。


「ねえ、アナタ。お礼をしたいから、一緒に来てくれるかしら?」


 お礼をしたいというのは本当なんだろう。だがそれ以上に、もっと別の、大きくて重い期待を孕んだ理由が乗っていた。

 それを敏感に読み取った少女は、こくりと頷いた。

読んでくださって、ありがとうございます!

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