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第9話 行方

「キルナン、ちょっといいか」


「兄上・・何でしょうか」


 つい先ほどリエンと別れたキルナンは、兄のアークに呼び止められた。


「父上に聞いたよ。お前、あの兵団の女と結婚する気でいるようだが考え直せ。政略結婚をしろというわけではないが、王族の評判を落とすような結婚はするな」


「私は、リエンとの結婚が負のものとは思っておりません」


 キルナンは、自分の手首に巻いた白布に触れる。リエンの無事を祈り、リエンと同じように自分にも巻いたのだ。


「ですが、父上や兄上が迷惑と捉えるようであれば、父上に相談後、結婚した後に彼女とこの城を出るようにします」


「お前本気なのか?なぜ、そこまであの女に固執する?」


「そういう兄上も、リエンに随分と関心があるように見えますが。先ほども、私と彼女の話をその石像の影から盗み聞きしていたではないですか」


「相変わらず、気配察知能力は長けてるな」


 キルナンは剣の腕前こそ兄アークには敵わないが、状況把握や危険な気配を察知する能力など戦闘分野においてはアークを遥かに凌ぐ才能をもっていた。


「私は、私の好きな女性と結婚します。兄上も、そろそろ特定の女性を決めてはいかがですか」


 キルナンはアークに背を向けて去ろうとしたとき、キルナンの腕から白布がハラリと落ちた。


「なんだ、怪我でもしたのか」


 兄アークに尋ねられるも、キルナンは嫌な予感がしてリエンの跡を追おうと城の出口の方角へと引き返す。


「おい、どこへ行くんだ。これから隣国のシャール公爵家が挨拶にくるだろ」


「挨拶・・それは建前で、自分の娘を王子である私達へ紹介して、あわよくば結婚へと取り付けたいだけでしょう。私は興味がありません」


「あの女がそんなにいいのか。無事に戻ってくるかも分からないだろう?戦闘力の下がった兵団で、猫魔獣にどうやって立ち向かう。彼女が首だけになっても愛せるのか?」


「兄さん!!!」


 キルナンはアークの胸ぐらに掴み掛かると、アークを掴む手が怒りに震える。

 だが、何も動じない兄アークを見てキルナンはバッと力任せに兄を突き放す。


「キルナン、行くぞ。この城にいる限りは、公務は責任を持って行え」


 怒りに震えるキルナンを置いて、アークは先に歩き出す。


「あの女がそんなに好きか・・。だが、残念だったなキルナン・・私は興味をもったことは最後まで突き詰めないと気がすまないタイプでね」


 アークはクックッと静かに笑う。リエンのことを考えると気分が高揚し、全身の血がドクドクと脈打つのを感じた。


「私が君を手に入れるよ、リエン」


 アークはうすら笑いを浮かべ、国王のいる間へと入っていく。



 ◇◇◇


「これで最後か」


 リーゼルは剣先についた血を落とすように小さく振ると、持っていたハンカチで剣を拭う。


 リーゼル班とリエン班は、リエンと約束していた合流地点に向かっていた途中、偶然にも猫魔獣と遭遇し戦闘となっていた。


 だが、途中でなぜか猫魔獣が無数の他の魔獣を呼び寄せ戦線離脱してしまい、リーゼル達はそれらの魔獣の討伐にあたることとなり、猫魔獣は見失っていた。


「ちっ。奴が他の魔獣を呼び寄せられるとはな」


 リーゼルは怪我した団員達を見る。数人は軽い怪我で済んでいるが、他はかなり重症でリエンから預かった班は1人行方が分からなくなっている。


「どうするか・・」


 無傷のリーゼルはこのまま猫魔獣を捜索したかったが、この現状で全員を連れ動き回るのは危険過ぎる。


「仕方ねぇ・・全員一時撤退する。動ける者は、怪我をしている者を助けながら移動しろ。いくぞ」


 リエンのことが気がかりだったが、まだこちらに向かっていない可能性を願いながら、リーゼルは残る団員を連れて森林地帯を抜けるべく移動していく。



 ◇◇◇


「それで、キルナン様は何がお好きなのでしょうか」


 シャール公爵の挨拶後に、令嬢であるミアとお茶をすることになったキルナンは、テーブルを挟み座っているも顔はミアの方を向いておらずどこか遠くを見つめていた。


「キルナン様・・?」


「すみません、何かおっしゃりましたか」


「はい、お好きなものは何ですかとお聞きしました」


「好きなものですか・・」


 こんな会話は、今までに何十回としてきた。

 女性と会うたびに聞かれるこの質問と会話に飽き飽きしたキルナンは、答えることすら嫌だった。


 それよりも、数時間前に別れたリエンのことが心配で、早くこの場を終えたかった。


「キルナン様・・答えたくないようでしたら構いませんので・・」


「あぁ・・私は女性との会話が上手くないので退屈でしょう。兄のアークを呼びましょう、兄上でしたらミア嬢のことを喜ばせられるでしょうから」


「いえっ、そんな必要はございません・・!私はキルナン様が・・いいのです・・」


(またか・・)


 キルナンは幾度となくこういった場面を経験してきたことで、こういうことは早めに断りを入れた方が後々面倒くさくならないことも分かっていた。


「申し訳ありませんが、私には既に心に決めた女性がおります。なので、私といても時間の無駄かと。失礼します」


 キルナンは無表情で立ち上がると、ミアが慌ててキルナンの腕を掴む。


「あ・・あのっ・・もう少しこの場にいていただけませんか・・」


「ですから、先ほど申した通り私は、」


「行かれては困るんです・・!」


「困る・・?」


 焦った表情をしたミアの目は、どこか恐怖の色がうつっていた。

 キルナンはすぐに現状の異変に気付いた。


「この場へは、誰かに命じられて来たのですか」


 キルナンの質問に俯くミアを見て、キルナンは不安で心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


「何か知っているのなら、教えてください」


 俯いたまま黙り込むミアの両肩を掴むキルナンは、焦りと緊張で喉が乾く。


「・・アーク様に・・キルナン様をここに留めておくように言われました・・」


「兄上に?!理由は・・理由は何か言っていましたか!?」


「誰かと会わなければならないと・・そう言われました・・」


「・・っ!!」


「キルナン様・・!!」


 キルナンは声をあげるミアを見ることなく、国王のいる間へと急ぐ。

 扉をノックもせず勢いよく開け、中にズカズカと入っていく。


「キルナン、お客様がいるのに失礼だぞ。どういうつもりだ」


 父である国王に咎められるも、キルナンは気にせず国王の前までいく。


「兄上はどこに行ったのですか?」


 シャール公爵と歓談中である国王は、初めて見るキルナンの猛烈な怒りの表情に驚くも、表情には出さなかった。


「私も詳しくは聞いておらん。だが、注文していたものができたので、それを見に行くと、1人馬に乗って出かけたらしい」


「どこへ行ったのですか」


「それは私も分からん。護衛もつけずに行ったと聞いておる。まったく、自分の身分も考えず勝手な行動に困ったものだ・・」


 男にはそうやって親に隠れて行動したい時期がありますからね、などとシャール公爵が国王に同調しごますりをしている。


「私も外に出てきます」


「ならぬ。ミア嬢はどうしたのだ。一緒にいたのではないか。まさか、1人置いてきたわけではあるまいな」


「お茶でしたらもう済みました。彼女も後ほどこちらに戻るでしょう」


「キルナン、こちらのシャール公爵は、我が国への物資や物流の支援を申し出て下さっておる。話に聞くと、ミア嬢はまだ決まったお相手はいないらしい。まだ結婚前の2人だ、ミア嬢とこれを機に仲を深めるといいだろう」


「何をおっしゃられているのですか・・!私は、先日父上にお伝えしたはずです!私はリエンと・・」


「先ほど来ていたが、まだ国王である私に正式に紹介も挨拶もしておらぬ者のことなど、遊びの範疇であろう」


「それは、彼女が今やるべきことを終えてからにしたいと希望したからで・・!」


「身分が下の者が上の者を平気で待たせる、そういう考えの者は私は好かぬ」


「父上・・!約束が違います!」


「ミア嬢に庭園でも案内しなさい。話は終わりだ」


 これ以上くらいついても無駄だと分かり、キルナンは悔しさを馴染ませたまま広間を出る。

 出たすぐのところに、ミアが立っていた。

 怯えたような顔をしている。


「あっ・・あの、盗み聞きするつもりはなかったのです・・」


「庭園に行くので着いてきてください」


 冷たい声でそう伝えたキルナンは、先に歩き出し、その後を慌ててミアが後を追った。

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