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第3話 関係

「ねぇ、失礼だと思わない?」


 帰りの馬車の中で、リエンはまだムカムカしていた。


「初対面で、しかも女性は状況確認が苦手って完全にバカにしてる。稽古の邪魔をしたのは悪かったけど、魔獣が現れればすぐに対処するのが基本だし。私のことだけならまだしも、兵団全体が愚鈍みたいな言われ方、いくらなんでもひどすぎる」


「言わせておけばいい。俺たちは、国王に命ぜられた任務を遂行することだけを考えればいい」


 リーゼルは声を荒げることなく、淡々とリエンに話す。


「国王の命じた調査だって、数ヶ月前からもうしている。知能の高い魔獣は探してるけど、民衆の話はどれもバラバラで食い違ってるし、嘘をつく人もいて、事実がどこにあるのか分からないんだよ。リーゼルだってそう思ってるでしょ?!」


 月のもののせいか、リーゼルの落ち着き払った態度にもイライラする。


「あぁ、だが噂がたつには何か理由があるだろ。地道に見つけていくしかない」


「そうだけど、時間がかかればまたアーク王子にバカにされるわ・・。・・こんなとき、エルメルトがいてくれたらな・・」


「・・それは考えたって仕方ないことだろ」


「分かってる・・けれど、エルメルトはいつも私達を助けて引っ張っていってくれて・・。今日だってエルメルトがいたら、きっと私を」


「エルメルトはもういない。いい加減受け入れろ」


 リーゼルが、ちっと舌打ちをし横を向く。その横顔はどこか淋しそうだった。


「・・ごめん、そうだよね・・」


 2人とも無言になると、馬車がゴトゴト揺れる音だけが響いていた。


「この後またアジトで捜索の方法を練り直そうと思う。リーゼル付き合ってくれる?」


「あぁ。俺は今までお前の頼みを断ったことがあったか?」


「ない!」


 リエンはリーザルに向かって笑うと、リーゼルは照れたように顔を背ける。



 ◇◇◇


「あれ、まだ電気ついてる・・」


 アジトでの話し合いを終え家の前まできたリエンは、深夜に近い時間にも関わらず、家の電気がこうこうとついているのが気になった。


(いつもなら、もう皆んな寝ててもいい時間なのにな・・)


 そ〜っとドアを開けるリエン。


「・・ただいま〜・・」


「おかえりーー!!!」


 マハラ、ピリ、ルイが、パンパンパン!!と大きくクラッカーを鳴らす。


「な、なぁに!?」


「リエン、今日国王に会ってきたんだろ?すごいことだから皆んなで祝わなきゃって、リエンの帰りを待ってたんだよ。なー?」


 マハラはリエンの驚いた反応に満足そうだ。


「そうそう、遅いから心配してたよ。そういえば、もうご飯食べた?食べてないならまだここにあるから。温めようか?」


 ピリが食卓テーブルの上の料理を手に取り、これにする?それともこれ?と聞いてくる。


「そんな、いいのに。皆んな明日もやることあるでしょ。こんな遅くまで待っててくれなくてもいいのに」


「迷惑だった?俺たち、リエンの喜ぶ顔が見たかったんだけどな」


 ルイが拗ねたようなフリをする。


「あっ、迷惑なんかじゃないよ。ありがとう〜そうだ、せっかくだし何か食べようかな」


(本当はもう疲れてるし寝たいんだけど・・)


 本音を隠しリエンは笑って食卓の席に着く。


「ごめん、なんか無理やりな感じになっちゃって・・」


 申し訳なさそうな顔でリエンの前に温めた食事を出すピリは、人の気持ちに繊細だ。


「大丈夫、気持ちは本当に嬉しいよ」


「オレ達、リエンが喜んでくれるのが一番嬉しいんだよな〜!」


 屈託のない笑顔を見せるマハラは、天真爛漫だ。


「俺たちリエンのこと大好きだからね」


 サラッとそう言いのけるルイは、いつも自分の気持ちに正直だ。


「それで今日はどうだったの?」


「あっ・・えっと・・」


 ルイの言葉にどう返そうか、言葉に詰まる。

 初対面の王子にバカにされました、なんて3人が喜んでるこの場に水をさすようなことを言いたくない。

 どう言おうか迷っていると、微妙な空気が流れる。


「いいよ、別に言わなくても。言いたくないこともあるだろうし。何か言われたとしても、俺たち3人はリエンの味方だよ」


 ピリが優しい笑顔で、リエンの頬に触れる。


「そうそう、オレ達、リエンに助けてもらえてなければ死んでたし。リエン、何かあったらオレ達を頼ってよ?」


 リエンの手の上に、マハラが手を重ね手の甲を撫でる。


「俺たちはリエンのことが大事だから」


 ルイがリエンの髪の毛に触れ優しく撫でる。


「あ・・えっと、ごちそうさまでしたっ!後片付けは、私がやるからもう皆んな寝てっ」


 リエンは恥ずかしい気持ちを隠すように、勢いよく立ち上がり、その反動で自分に触れる3人の手を振り払う。


「え〜〜、リエンともっと一緒にいたいんだけど」


「後片付けは俺がやるから、心配しないでリエンこそ休んで」


「ちゃんとご飯食べた?俺が食べさせようか?」


 3人は、またリエンに触れようと手を伸ばしてくる。


「・・お風呂いってくるっ!!」


 リエンは逃げるように席を立ち、部屋を出る。


「はぁ〜〜〜」


 扉を閉めると、リエンは大きく息を吐く。


 リエンは職業柄、女性らしく扱われることが苦手だった。兵団という男社会で生きていくためには、男性に自分が女であることを意識させてはいけないと、リエンは過去の経験からよく知っていたからだ。

 それは、兵団の男性だけではなく、世の中全ての男性に対しても。


(胸をぺたんこにしても、女として見られちゃうんだな・・)


 真っ平らな自分の胸をさすりながら、また、ふぅとため息をつく。


 浴室に行き服を脱ぎ胸に当てていた白布を取ると、先ほどまでのぺたんこな胸からは想像もできないような豊満な胸が顕になる。


 下のパンツを脱ごうと腰あたりに手を当てたとき、サラッとした白布に触れこの布を腰に巻いてくれたキルナン王子を思い出す。


(胸元広かったな・・じゃなくてっ!これ返さなくていいとは言われたけれど、もらったままも、なんだかモヤモヤするわね)


 キルナン王子を思い出すと、一緒にアーク王子も頭に浮かんできて、それが一層モヤモヤを大きくする。


(男性に貸しはつくらない方がいいよね、例え王族であっても)


 リエンはまたあの場所に行くのは面倒くさいと思いつつも、明日また王都に向かうことに決めた。

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