第2話 王都
馬車に揺られ王都に着くとリエン達兵団は盛大に出迎えられ、城内へと案内された。
(華やかで綺麗なところねぇ)
リエンはリーゼル達と共に歩きながら、庭園・城内を見回す。
そのときまた腹痛を感じ、リエンは案内の者にトイレの場所を聞き1人集団から外れた。
歩いている途中、下の方から何やら剣同士のこすれる音がし、リエンが2階から1階の広場を覗くと、そこでは男性2人が上半身裸で剣の稽古をしていた。
(おぉ〜いい体してるわ)
リエンは手すりに捕まりながら、2人の稽古の様子を見る。
金色の目をした男の方が、グレーの目をした男を若干押している様子だ。
(これは金目の方の勝ちかなぁ)
そのとき、どこからか小さめの翼をもった魔獣が現れ、鋭い爪をたて2人目掛けて飛びかかる。
「危ない!!」
リエンは2階から素早く飛び降り、腰からのフックを城内に引っ掛け体のバランスをとると、魔獣目掛けて真っ直ぐに剣をふる。
一撃で魔獣を倒すと、2人の男性のそばに降り立つ。
「大丈夫でしたか?お怪我はありませんか?」
驚いている2人の男性を見上げ、尋ねるリエン。
2階から見ていたときには分からなかったが、2人ともとても背が高い。そして、がっしりとした上半身に腰までのラインはくびれ、同じ人間とは思えないほどスタイルが良かった。
そして、イケメンだった。
(あぁ〜目の保養になる〜・・)
リエンは顔を背け、密かに嬉しニヤける。
「あ、いえ・・あの・・」
灰色の目をした男がリエンに向かって話しかけたが、金色の目をした男が彼の肩を掴み、話すのを止めた。
「その格好からするに、君は兵団の方かな」
金色の目をした男が、リエンの体ををジロジロと見る。
その視線が嫌な感じで、リエンは一歩後ろに下がる。
「はい。本日、国王との謁見で来ています」
「兵団の方々は噂通り、鉄砲玉のように素早く動くんですね」
金色の目をした男が、目を細めて笑いかける。
笑っているが、なんか小馬鹿にされた感じがしてリエンは嫌な気持ちになる。
(せっかく助けたのに、なんか嫌な感じ・・)
「失礼する」
2人の男が去ろうとしたとき、灰色の目の男がリエンの方をチラッと振り替えると、リエンのそばに寄り身を少し屈める。
「先ほどの戦闘でお怪我されましたか?魔獣の血があなたの・・その・・腰下の部分についておりまして、大丈夫ですか?」
言いにくそうに、小声で話す灰色の目の男。
(えっ・・血・・?)
慌てて自分の後ろを確認すると、お尻あたりに赤い血が。白いパンツだから余計に目立つ。
「あ・・少し魔獣の血が飛び立ったようです!き、気にしないでくださいっ!!」
リエンは苦笑いしながら、顔の前で両手をふる。
「そうですか。それならよかった」
灰色の目の男は安心したような顔をすると、自分の腰回りで結んでいた白い布を外し、リエンに近づくと細い腰に巻く。
近くに寄られ、彼の胸元の広さに圧倒される。
「良ければこれを使ってください。返す必要はありませんので、いらなくなったら捨ててください」
そう言って小さく笑うと、リエンの前から去って行った。
「ありがとうございます・・」
リエンが呟くと、灰色の目の男は顔を少し向け小さく会釈した。
(誰だろう・・うわ、すごいいい手触り!)
リエンは、腰回りに巻かれた布を触り、サラサラときめ細かい触り心地に驚く。
(あっ、それより、トイレに行かないと・・)
リエンは慌てて近くにあった階段を上り、元の動線へと戻りトイレへ向かう。
◇◇◇
(やっぱりきてたかぁ〜・・)
リエンはハンカチで手を拭きながら、がっくしと肩を落とし下腹部をさする。なんか嫌な腹痛だなとは思っていたが、やっぱり月のものだった。
(さっきの人にこの白い布もらえて、血の汚れ隠せるし助かったかも・・でも、誰だったんだろう?)
リエンの戻りが遅いため待っていた案内の者の後をついて、皆が待つ広間へと向かう。
「何やってたんだ。それにその腰の布はなんだ」
リーゼルが腕組みをし、不機嫌そうにリエンを見る。
国王はまだ広間に来ておらず、兵団は中央に整列し立ち待っている。
「ごめんごめん。ちょっと魔獣を倒してて・・それでちょっと汚れちゃってね」
「あぁ?魔獣がこの城内にいるわけないだろうが」
「いや、でも本当にいたんだ」
「国王がいらっしゃいます」
案内の者から声をかけられ、リエン達は胸に手を当て頭を下げる。
「兵団の方々、お忙しいなかよく来てくれた。日ごろの討伐の活躍も素晴らしいものと聞いている」
国王は話をそこそこに、顔をあげるようリエン達兵団に促す。
「今日は、もっと話し合わねばならないことがあるからな。それから事前に伝えてはいなかったが、今日の話し合いの場には私の息子達も同席する。長男のアークと次男のキルナンだ」
(あっ・・さっきの!)
息子と紹介された2人は、先ほど剣の稽古をしていた上半身裸の2人だった。
金色の目をした男が長男アーク、灰色の目をした男が次男のキルナンだった。
公式の場での正装をした2人は、さっきとは打って変わりザ・王族といった雰囲気で、立っているだけで圧倒するオーラがあった。
「息子達には稽古の中で魔獣討伐もさせているのだが、それを先ほど兵団の者が襲われていると思い助けに入ったとか。瞬殺だったと聞いておる。さすがの腕前だな」
リーゼルが鋭い目で、ギロリとリエンを睨む。
(そんなこと知らなかったもん〜)
リーゼルの無言の圧力に知らないフリをし、国王の方を見る。すると、その横に立っているアークが、リエンの方をずっと見ていることに気づいた。
キルナンは、リエンをチラリと見たが、リエンと目が合うとすぐに目を晒した。
「さて、部屋を移動して本来の目的の話をしよう」
国王、アーク、キルナン、兵団の中からの代表数人は別部屋へ移動し円卓に着く。
本来の目的とは、知能の高い魔獣の件だ。
知能の高い魔獣がいるという話は兵団の耳にも入っていたが、実際目にしたことはなく戦闘でも出会ったことがなかった。
だが、今や国中でその話題でもちきりだ。
「して、知能の高い魔獣だが兵団も見たことはないということだな?」
「はい。民衆の間でそのようなことが話題になっていることは把握しております。ですが、そういった被害はまだ確認できておらず、それが事実なのか単なる噂に過ぎないのか、今現在調査中です」
リエンは兵団の代表として、国王の問いに答える。
「わかった。単なる噂だとしたら、これで人々が混乱しては困る。事実かどうかを知りたい。早急に結果を出し迅速な報告を求める」
「はい」
「国王、私からよろしいですか?」
アークが金色の目をリエンに向ける。
「兵団は、以前のような統率力と戦闘力を失っていると聞きます。そのような状態で、今回の調査も結果を出せるのでしょうか。魔獣と見れば、状況も確認せず突進するその精神は素晴らしいですがね」
アークのうすら笑いに、リエンはムッとする。
「先ほどの稽古中のことでしたら、邪魔をして申し訳ありませんでした」
「女性はやはり状況確認が苦手な人が多いですね。今回は、男性に指揮をとってもらった方がいいんじゃないですかね」
(でた・・女性卑下)
兵団という組織は、やはり男社会だ。分かっていたからこそ、リエンは団員に負けじと今まで人より数倍訓練してきて、やっとこの位置まで這い上がった。
自分でいうのもなんだが、戦闘力ならば団員のリーゼルの次くらいの強さはあると思う。それに場数もふんできた。
ただ、戦略を考えるのは確かに苦手だ。その分、戦略を得意とする団員と共に話し合いことを進めている。
なのに、女である自分が目立った状況で成果が出ないと、すぐにこうやって叩かれる。
リエンはムカムカする思いを抑え、アークを真っ直ぐ見つめる。
「前団長であるエルメルトを失ってから、確かにアーク様のおっしゃる通り私達兵団は戦力を欠いております。ですが、先ほどの私の行動一つで兵団が機能していないように思われるのは、いささか思慮に欠けるのではないでしょうか」
アークは無表情で視線をリエンに向け、リエンもそんなアークを睨み返す。
(どうせ、いけ好かない女だと思っているでしょうね)
「その辺でやめておきなさい。私は兵団を信頼しておる。引き続きよろしく頼むぞ」
国王が割って入り、その場で話は打ち切られた。