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第1話 一狩り

「あそこだ!皆急いで追え!!」


 目の前の巨大な魔獣を、数人が馬で追いかける。魔獣は人々が住んでいる街の中心部へと、ゆっくりと向かっていく。

 一歩一歩は遅いが、巨大な足故に、一歩が大きくあっという間に離される。


「ダメだ!間に合わない!!」


 先頭を走る男がそう叫んだとき、男達の上をサッと通り過ぎる人影が。


 ギャルルルルルッ!キーーーン!!


 巨大な魔獣は上から斜めに皮膚をそぎ落とされ、魔獣はその場でものすごい粉塵と轟音をあげ倒れた。


 砂嵐かと思うほどの粉塵が少しずつおさまり、倒れた魔獣の方を見上げると、その上には赤い髪を後ろで一本に編んだ人物が立っていた。


「ここはもうこいつで最後だ。他の場所はリーゼルが殺やった。帰還するぞ」


「はい!」


 赤髪の人物は、シュッと飛び上がると、木と木の間を飛びながら素早く進んでいく。時折り、腰からフックのようなものを出し、先の木の幹に飛ばし体を引っ張るようにして移動している。


「相変わらず、かっこいいっすね・・!強くて早くて」

「あぁ、兵団のトップの1人だぜ、まさか俺らの所に助けに来てくれるとはな」

「おい!後ろ、うるさいぞ!」


 馬で駆けていた数人は、必死に馬をせき立てながらその赤髪の人物の後を追いかける。


 ◇◇◇


「リーゼル、皆兵団アジトに戻ったようだ。今回の戦闘で団員達を何人失った?」


「さぁな。いちいち俺は数えちゃいねぇ。エルメルトを失ってから、戦闘では損害も大きくなった。今回も予想以上の兵力を失っただろう」


 リーゼルはソファにドサっと座ると、足を組んで天井を見上げる。

 そばでは、先ほどの赤髪の人物がソファに座るリーザルを見下ろしている。


「そうなんだけどさ。だからといって、部下の死因もわからず、戦場のどこで死んだかも知りません、ていうのは、同じ兵団の仲間として薄情すぎるな、と」


「薄情かどうかじゃねえ。実際、エルメルトと共に、兵団の戦闘能力が高いやつをほとんど失った。現状の弱い団員と一緒じゃあ、魔獣を倒すのと街を守るので精一杯だ。兵団全員の死因を確認してる暇もねぇ」


 リーゼルは黒い髪をひたいからかき上げると、その鋭い目でこちらを見つめる。


「リエン。諦めろ。お前はよくやっている。だが、俺たちにだってできることの限界はある」


「分かってるよ。分かってるけどさ。ただ、亡くなった団員の家族に彼らがどう亡くなったのか、何も伝えられないのが・・それがただ申し訳ない」


「それは今に始まったことじゃない。昔からそうだろ」


 リーゼルがソファから体を起こし節目がちにそう話す様を見て、リエンはリーゼルも団員の死に負い目を感じているのが分かった。


「そうだったね・・。とりあえず今日は帰るよ」


 リエンは兵団のアジトである建物の3階の窓から飛び出すと、夜の静かな空間へと飛び立つ。


(静かだ・・落ち着くな・・)


 静かに落ちていく体に、腰あたりからフックを取り出し目の前の木に引っかかると、そのまま木々の間を縫うように飛びながら移動する。


 途中、湖が下に見え、そこで足を止めフックをしまい下に降り立つ。


 静かな湖畔の水に映る自分を見つめるリエン。


 白い兵団の制服に身を包んだ、スラッとした自分の姿が写っていた。


(うん、今日も我ながら問題なし!)


 リエンはニコッと笑うと、フックを上に投げ飛び上がり、家路へと急ぐ。


 ◇◇◇


「ただいま〜!」


「おぉ〜!リエン、おかえり〜!!」


 一緒の家に住む友人のマハラ、ピリ、ルイが、リエンの方を向き笑顔で迎える。


「その感じだと、今日もなかなか大変だった様子だね」


 マハラが汚れているリエンの制服を指さす。


「あぁ、そうなんだよ。制服は何着あっても足りないよ」


 笑うリエンは、ペタンとした真っ平らな自分の胸の辺りをさする。汚れと破れと泥にまみれた制服はこのまま廃棄いきだ。


「先に風呂入っちゃいなよ。オレら最後でいいからさ」


 ピリが食卓テーブルに料理を並べながら、リエンに風呂のある方を親指で示す。


「あーそうするわ。ごめんね〜いつも」


 リエンは風呂場に行くと、汚れた制服を脱いでいく。最後に胸の辺りを締め付けている白布を取ると、一気に体が楽になる。


「ん〜〜!!やっぱり、締め付けがない方が気持ちいいなぁ」


 ふっくらとした、たわわな胸の上からシャワーを流し、ふぅ〜と息をつく。その後、白くて長い手足を泡で撫でながら優しく洗い体を綺麗にしていく。


「お風呂一番にありがと〜。いつもごめんね」


 お風呂からあがったリエンは、ゆったりとした服装に着替え、皆んなのいる食卓へと戻る。

 胸はまた服の下で白布でギューギューに締め付けてあり、ゆったりとした服でも胸の膨らみは全く分からない。

 背中まで垂らした赤く長い髪は、まだ少し濡れたままだ。


「いいよ、別に。気にすんな」


 ルイは食卓にお皿を並べながらリエンに笑いかけると、金髪の髪がサラッと揺れる。


(あ〜・・やっぱり、イケメンは見てるだけで目の保養・・)


 リエンは心の中で、グッとガッツポーズをする。


 一緒に住んでいる全員が男性で、全員違った系統のイケメンだ。

 けれど、リエンは彼らに恋心は全くなかった。

 なぜなら、もう恋なんてしないと決めていたから。


「魔獣の返り血浴びてるかもしれないのに、皆んな私の後にお風呂入るの嫌じゃないの?」


「あー、それ言ったら気になってくるじゃんか〜。うわー、この後入るのどうしようかな〜」


 皆んなが盛り上がるのを、リエンは1人椅子に座ってクスクス笑い、頬杖をつき小さくバレないように息を吐く。


(明日は憂鬱だなぁ・・)


 明日は、このファーレ国の国王にリエンの所属する兵団が謁見する日だ。

 最近、知能の高い魔獣が見つかったとの報告があり、その件について話し合う予定だ。


 リエンは今や兵団のトップの1人なため、参加せざるを得ない。


(なんか嫌な感じの腹痛があるんだよね・・)


 リエンは下腹部辺りをさすり、またため息をつく。


 明日をきっかけに、王族の1人から執着される関係になるとも知らずに。

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