姫、学園恋愛ドラマに出演!?相手役はまさかの生徒会長!?
「え? わたしが、演劇部の主演……?」
焼きそばパン片手に、私はぽかんと口を開けていた。
「そうよ! 学園祭のフィナーレイベント、演劇部による恋愛ドラマ劇! 台本に『異世界から来たお姫様役』があるんだけど、もうリリィ様以外考えられませんわ!」
ミラがウキウキで台本を突き出してきた。横には演劇部の部長らしき人が土下座している。
「た、頼む……うちの演劇部、ヒロイン役が風邪で倒れてしまって……!」
「で、でも演技とか、私できないし……」
「だいじょうぶです! ただでさえ異世界設定で浮いてるんだから、多少棒読みでも『リアル異世界感』ってことでいけますわ!!」
「それ褒めてないでしょ!!?」
【数時間後:舞台袖】
私は豪華なドレスを着せられていた。まさかのガチ衣装である。頭に王冠、手には薔薇のブーケ。
――そして横には、生徒会長・ルミナ。
「まさか、私が王子役とはな……」
「えっ、あんた!? もっとこう……演劇部のイケメンとかいなかったの?」
「主演は演劇部の意地でプロ級の人を呼ぶ予定だったけど、急遽来れなくなったんだってさ。で、なぜか私が代役。理由? 顔が整ってるからだそうだ」
「ぐぬぬ……妙に納得できるのが腹立つわ……!」
ルミナはさらっと手を差し伸べる。
「じゃあ、共演者としてよろしくな。お姫様」
「~~~~~っ!! その言い方やめてよ、慣れてないんだから!」
【舞台上:恋愛劇『魔法の薔薇と星の約束』】
幕が開いた。
観客席から歓声が飛ぶ。
私は緊張で足がガクガクしていたが、とにかくセリフを忘れないように――
「わ、わたくしの、心は……そなたに、ずっと……あずけ……あずけ……あずけ……てしまいましたわ!!」
詰まった。
しかし、ルミナは表情ひとつ変えず、私の手をそっと取り、低く囁く。
「その気持ち、受け取った。リリィ姫」
客席「キャーーーーッ!!」
……ちょっと待って、今のアドリブ!?
ていうかなんか私の名前混ぜてたよね!?
「ちょっと、ルミナ!? それ今の、台本に――」
「――黙って目を閉じてろ。キスシーン来るぞ」
「はぁぁああああ!???」
だが本当に、脚本上のクライマックスは『おでこにキス』だった。
ルミナは静かに、私の額へ口づけ――
その瞬間!!
バァン!!
「リリィ様ァァァ!? 逃げてくださいましィィ!! グリフォンが、グリフォンが舞台装置に突っ込んで来ましたのォォ!!」
ミラ乱入!
「またお前かああああ!! どれだけ焼きそばパンに執着してんのよ!!」
「舞台袖のケータリングから匂いがしたらしくてぇぇぇ!!」
舞台は大混乱に。
「キャーーッ! 鳥が、鳥が王子役を連れ去ったわーーッ!!」
「落ち着け! ルミナは生きてる、たぶん!」
「やめて、たぶんって言うの!!」
その後、観客は爆笑。舞台は「特別演出による異世界式恋愛劇」として記録され、学園祭MVP賞をなぜか私とルミナが受賞する羽目になった。
【放課後・屋上】
私は疲れきった顔で、焼きそばパンをかじっていた。
「……やれやれ、今日も波乱だったわ」
「だが、悪くなかっただろ? 共演」
隣に腰を下ろしたルミナが、ぽつりと呟く。
「……うん。まぁ、ね。ちょっとドキドキしたけど」
「それ、演技じゃなくて?」
「うっさい! 黙れ王子!」
――夕焼けの屋上で、私はちょっとだけ頬を染めながら、
焼きそばパンを、またひとくち。
そして、空からふわりと落ちてきたのは――
グリフォンの羽毛。
「また来たのかよーーーっ!!!」