姫、メイド喫茶で大混乱!?グリフォンが厨房で暴れました
「まさかメイド服を着る日が来るとは……」
私は学園の更衣室で絶望していた。いや、正確には鏡の前でフリルだらけの白黒メイド服を着て、無表情に焼きそばパンを握っていた。
「リリィ様、可愛いですわ!! 爆裂的に可愛い!! もうそのまま世界征服できますわ!!」
後ろでテンション高めのハイテンション眼鏡少女、ミラが叫んでいた。例によって元凶である。
「なんで学園祭のクラス出し物がメイド喫茶で、しかも私が参加決定してるのよ!!」
「だって、異世界から来た魔王の娘がフリルで接客って、ギャップでウケるじゃないですか!!」
「魔王の娘をなんだと思ってるの!!?」
【学園祭当日 喫茶・聖なる乙女たちの安らぎ亭】
――名前が長い。
「いらっしゃいませご主人様。ご注文はお決まりですか?」
隣で完璧スマイルを見せるのは生徒会長・ルミナ。
貴族のお嬢様がやると、もはやメイドがメイドを雇ってそうな風格である。
「では私は、焼きそばパンと笑顔のオマケを」
「焼きそばパンはメニューにないよ!! ていうかお客が私を指名するシステムやめようよ!!」
私は注文を取るたびに爆発しそうな魔力を抑えつつ、慎重に接客していた。この笑顔、全力で作ってます。
「こ、この焼きそばパンで世界を救うのよ……(震え声)」
「リリィ様、笑顔怖いですわ! ソウルイーターみたいな気迫を感じますわ!」
「うるさい黙れミラ!!」
事件は厨房で起きた。
「ねぇ、なんか……でかい影が窓の外にいるんだけど」
「うわ、グリフォンだこれ! でっっか!!」
どうやら、私が昨日うっかり召喚して放置してた使い魔グリフォンが、焼きそばパンの匂いに釣られてやって来たらしい。
「よぉしよし、焼きそばパンあるぞ〜?」
「リリィ様!? 今何してるんですか!? 餌付けじゃないんですよ!?」
案の定、厨房に乱入したグリフォンは――
調理台をひっくり返し!
パフェをひと舐めで消し去り!
店長(仮)のルミナに抱きついた!!
「ぎゃああああ!? 羽毛がフワッフワで案外気持ちいいけどぉぉぉ!!」
「ツッコミどころ多すぎる!!」
「……ええい、こうなったら非常手段よ!!」
私はスカートをたくし上げ、内腿に隠していた緊急封印用タリスマンを取り出した。
「魔王式召喚解除術・ゲート・オブ・帰宅!!」
パァァァンッ!!!
巨大な異空間ゲートが現れ、グリフォンはくるりと振り返り、ぺろっと焼きそばパンの最後の一口を舐めてからスッ……と消えていった。
「なんてスマートな帰宅……」
「おかわりないのかって顔で見られたんですけど!?」
事件後。
学園の放送室で、学祭特別ニュースが流れていた。
《速報です。喫茶・聖なる乙女たちの安らぎ亭にて、グリフォンによる調理妨害事件が発生。なお、焼きそばパンは無事です》
《犯人のグリフォンは、魔王の娘の使い魔と判明し、現在は厳重に保護されています(=寝てます)》
《生徒会は「次はドラゴン来たらどうしよう」と頭を抱えている模様です》
「リリィさん、いろんな意味で大人気ですね」
「すっごい嫌な言い方だね今の!!」
その日の最後、生徒会のルミナとミラ、そして私の三人で校舎の屋上に座って、空を見上げていた。
「……まさかメイド喫茶で召喚獣が出てくるとは」
「異文化交流ってレベルじゃなかったわね」
「……でも、ちょっと楽しかった」
私は笑う。
魔王の娘としてじゃなく、一人の学生として過ごした、少しだけ騒がしくて、でもあたたかい一日だった。
そして私は、焼きそばパンを取り出し――
「……あっ、落とした」
コロコロ……ドン。
その瞬間、グリフォンがどこからともなく再召喚され、全速力で屋上に飛び込んでくる。
「リリィ様ァァァァ!?!?!?」
「焼きそばパンへの執念すごすぎない!?」
そして屋上は、今日2回目の大混乱へと突入するのだった――