姫、異世界交流プログラムでトラブル連発!? 異文化と戦闘と焼きそばパン
「というわけで、リリィ。異世界の学園に留学してきてもらうぞ」
「なにそのさらっと言う感じ!? 昨日決闘大会でウサギ召喚したばかりの人に異世界留学は無理でしょ!!」
魔王である父が、例によってノリと勢いで重大発表をしてきた朝。
私は全力で布団にくるまり、現実逃避していた。
「リリィ様、ご安心ください。滞在先は名門中の名門――『聖リュミエール学院』。地球側にある正統派魔法学園です」
「急にファンタジー世界の入り口みたいな名前来た!? ていうかなんで魔王の娘が『聖』って付く学校行くのよ!!」
「文化交流じゃ。なんならうちの城の地下室から転移できるぞ。さぁ、いざ新たな地へ!」
「ちょっと父上、テンションおかしいってばー!!」
―聖リュミエール学院・正門前―
私は学園指定の制服に着替え、魔王城からの転移でド派手に登場した。
ドォォォン!
爆煙の中から現れる黒髪の魔王の娘、通称:異世界から来た変な子。
「……あれ? 入学歓迎の拍手とかないの?」
ザワザワ……。
「えっ、あれが噂の爆発魔族?」
「校庭にサークル状の焦げ跡残してる……ヤバすぎでは?」
「空気読まずに、焼きそばパン持ってるし……」
なぜか私の左手には購買の焼きそばパンが握られていた。転移前に買ったの忘れてた。
「えーと、ようこそいらっしゃいました。あなたが……その、魔王のお嬢様ですか?」
声をかけてきたのは、生徒会長の少女。金髪、碧眼、完璧に整った制服……まさに正統派を絵に描いたような存在。
「えっ、なんかすごくまともな人来た」
「ルミナ=セイクリッドと申します。以後、お見知りおきを。ちなみに――あなたの書類、未提出です」
「そこ真面目ェ!」
ミラのせいで書類を『なんかそのうち来ると思います! 魔王の娘!』みたいなノリで送ったのがバレていた。
異世界交流プログラムの内容は、極めてシンプル。
「一週間、他校のクラスに交じって授業&日常生活を送り、異文化に親しむ」――らしい。
ただし。
「この学園、週一で実戦演習あるって知ってた!?」
「聞いてないけどなんか予想はしてた!!」
そう――この学校、平和そうな顔して普通に魔法バトルがカリキュラムに組み込まれている。
「次の対戦、リリィ・ゼオスさんと、我が聖騎士科の期待の星――ジーク・レオンハルト君!」
ジークは金髪碧眼、剣持ちのイケメン……が。
「……俺、魔王の娘とか無理です。圧とか、存在感とか、全部ムリです……」
超絶ネガティブ陰キャだった。
「え、想像と違う!!」
「だって、こっちは剣一本でやってんのに……なんか、召喚とか、爆発とか、ウサギとか出すでしょ……?」
「もう私、ウサギの人として認識されてる!?」
「俺、前にウサギにかまれてトラウマで……やっぱ無理です、あの幻獣ダメです、ほんとムリ……」
「ジーク! 男なら戦え!! さあ、開始だああ!!」
「やめてえええええ!!!」
結果、演習は開戦せず。
私が魔法を構えるたびに、ジークが壁の陰に隠れて涙目で震えるので、先生が「じゃあ、もういいや」と匙を投げた。
「それでいいの!? 聖騎士科の看板男子でしょ!?」
「焼きそばパンください……」
「なんで購買のノリ!?」
放課後――。
私は学園の裏庭にて、ルミナと並んでベンチに座っていた。
「……あなた、思ってたよりずっとマトモね」
「言われ慣れてるけど、なんか褒められてない気がする!」
「でも、わかるわ。あなたが、戦わない道を選んでいるのは、魔王の娘だからこそなのね」
「いや、ただ単に怖いし暴走するし危ないし……」
「謙虚すぎて逆に不安になる!」
でも。
こうして異世界に来てみると――いろんな人がいて、いろんな価値観があって、そして「ウサギ」が思ったより影響力あって――
「……なんか、面白くなってきたかも」
「次の演習、期待してるわよ。あなたの力と想い――見せてもらうから」
ルミナが微笑む。
なんか、この子……すごくラスボス臭がするけど。
「ま、負けないからね!」
私の異世界交流、まだまだ続きそうだ。