謎の訪問者と、リリィの決意!
朝。今日は何だか静かすぎる。
「……誰も騒いでないなんて珍しいなー。昨日、訓練中にカエル凍らせ事件あったから?」
そんなことを呟きながら廊下に出ると、
「リリィ先輩! 大変です!」
「ほらね! やっぱり今日も事件起きてたー!!」
駆け寄ってきた後輩エリナが、慌てた様子で何かの紙を差し出した。
「これ……昨夜、学園に届いた書簡です。人間界より、魔法学園へ正式な交渉の使者を派遣するって……!」
「……は?」
受け取った手紙には、確かにそれっぽいフォントでこう書かれていた。
人間界・対異世界交流管理局
よりご挨拶申し上げます。
近日、リリィ・アズラ殿の件につき、誠に遺憾ながら――
『我々は防衛のための協議と対応を検討中である』
故に、代表者を派遣し、直接説明を求めるものとする
「……な、なにこれ。私、クレーム対応されるヒロインってこと!? 」
「というか、戦争になるんじゃないか説出てますよ、先輩」
「やだやだやだ! 私、ただスイーツ好きで魔力制御下手なだけの女子なんだけど!」
そのとき、学園の空が突然、バチンッと音を立てて割れたように開いた。
「……異界ゲート、強制開放!?」
空の裂け目から、ぬるっと出てきたのは――スーツ姿の男性だった。メガネで、書類を山ほど抱えている。
「……こんにちは。人間界から参りました、交渉官の堂島レンです」
「堂島……レン?」
見た目は普通の人間。でも、空間転移を魔法陣なしでやってのけるあたり、只者じゃない。
「このたびはリリィ・アズラさんの件について、我々の世界でもちょっとした騒ぎになっておりまして……」
堂島氏は書類をパラパラめくりながら言った。
「まず、あなたが人間界に滞在中、冷凍食品売り場に誤って転送された魔力で、店内の冷蔵庫が永久凍結状態になった件――」
「あれ、ニュースになってたの!? いやほんとにすみませんでした!!」
「そして、空を飛ぶアイスクリームワゴン事件。あと、校庭に雪だるま大量発生も」
「もう全部私じゃん!? 責任者は……私かぁぁー!!」
その日の午後、リリィは校長室で、学園の上層部と人間界の交渉官に囲まれていた。
「リリィ・アズラ君。我々は君の魔力量と潜在能力を把握している。だがこのままでは、君自身が――」
「脅威とみなされる可能性があるんですよ。人間界の防衛組織が、動き出す前に対処したい」
リリィは歯を食いしばった。
(そんな……私、ただの魔法学園生なのに。好きなだけで魔法をやってただけなのに……)
「でも……逃げたくない」
静かに立ち上がる。
「私、ちゃんと魔力を制御して、人間界に――謝りにいきます! それに……守りたい人がいるから!」
(カイ……あなたの世界と私の魔力が、ぶつからないようにするためにも)
堂島レンはふっと目を細めた。
「……ならば、特別協定として使者候補生として行動してもらいましょう。異世界代表として、訓練を受けながら」
「……特別、使者候補生……? なんかカッコよさげな響き!」
「ただし、軽い気持ちで挑むと、たぶん爆発しますので気をつけてください」
「わかりました!(え、なにが爆発するって?)」
その夜。
屋上で、リリィは夜空を見上げていた。
「……人間界との戦いじゃなく、和解のために。私、ちゃんと立ち向かうよ」
空は穏やかにきらめいていたけれど、
その輝きの向こうで、またひとつ、大きな運命が動き出していた。
――そしてリリィの魔力の封印は、着実にほどけ始めていた。




