王女、初めての魔力暴走! 訓練場が更地になりました
「はーい、みんな~! 今日も元気に魔力訓練、がんばろー!」
朝の訓練場に響き渡る、元気すぎる号令。
指導役のグラン先生は、筋肉しか信用してない系の武闘派鬼族。年齢不詳、腕の太さは樽、口癖は『筋肉に不可能はない』なんでこんな人が教育係なのか、誰か真剣に考えてほしい。
「よし、今日は王女殿下にも特別メニューを用意したぞ!」
「……えっ、私ですか?」
訓練生たちの視線が一斉にこちらに向く。
そう。最近、魔力封印の疑惑が持ち上がったせいで、私――リリィ姫が再検査の対象になったのだ。城内のウワサは秒速で広がるから、今や私は「隠された力を持つツンデレ姫(仮)」扱いである。ツン要素、どこにあった?
「じゃあ、リリィ姫。あの的を魔力で壊してごらん」
「わ、わかりました……」
訓練場の端に設置された的は、超高耐久のドラゴンスチール製。普通の魔族でも一撃で壊すのは難しいレベルの代物。
私は手を前に出し、深呼吸。
(いける……はず!)
前世で得た集中力、今こそ発揮――!
「――ふぬぅぅぅうううっ!」
気合を込めて魔力を放出!
――しかし。
「……あれ?」
出たのは、ポフッという軽快な音と、ピンク色のもやだけだった。
的、微動だにせず。
一拍遅れて、訓練場にどよめきが走る。
「も、もや!?」
「なんだ今の!?」
「かわいい!」
「いや、かわいいで片付けないでほしい……!」
しかしその瞬間、事件は起きた。
さっき放った『もや』が、的の隣にあった岩を突然爆発四散させたのだ。
「え……?」
私が呆然とする間に、爆発の余波が連鎖して――
ドゴオォォォォォォン!!
次々に訓練場の設備が大炎上→爆発→粉砕の三連コンボ。
地面は陥没、見渡す限りのクレーター。
「ひ、避難ッ! 全員避難ーッ!」
「殿下が覚醒したぞーッ!!」
「もう手遅れだぁぁぁ!!」
あっという間にパニックに陥る訓練場。私はというと、呆然と立ち尽くしていた。
「な、なにこれ……私の魔力、暴走した……?」
地面がまだボコボコ煙を上げている。まさかピンクのもやに破壊力があったなんて。
いや、誰がどう見ても、暴走系魔王の娘演出じゃないですかこれ!
――その日の夕方。
私は玉座の間に呼び出された。
目の前にいるのは、父であり魔王、ゼオス様。相変わらず漆黒のマントを羽織り、玉座に座るその姿は威厳の塊である。
「……貴様。訓練場を、更地にしたそうだな」
「そ、それは……うっかりというか、予定外というか、事故でして……」
「ほう?」
声が低い。気圧が下がる。なんか背後に黒いオーラ見える。
このまま処刑エンドある? 転生特典どこ行った?
「……魔力が目覚めたのは事実か」
「え? ……はい、たぶん」
ゼオス様はしばらく沈黙し、それから重く言った。
「リリィ。貴様には封印がかけられていた」
「やっぱり、本当だったんですね」
ゼオスはゆっくりとうなずいた。
「貴様が生まれたとき、その力はこの魔界でも類を見ぬ異質なものだった。制御不能、予測不能……我々魔族の枠すら超えていた」
「……異質?」
「それゆえ、私は封印を選んだ。お前が、自分の意志でその力を使うまで、眠らせておくべきだと判断したのだ」
つまり父上なりに、私を思っての措置だったわけで。
……え、ちょっといい話なのでは?
「で、その異質な力って、具体的に何なんですか?」
少し緊張して聞いた私に、ゼオスは静かに答えた。
「……人間の力だ」
「………………は?」
一瞬、時が止まった。
「お前の中には、魔王の力と同時に――人間の魂が宿っている。しかも、異界のもの……この世界には存在しない、記録にも残らぬ存在だ」
「……やっぱり、転生バレてる!?」
やはりゼオス、ただの恐怖上司ではなかった。
「その魂が、魔界の力と融合したとき、何が起こるのかは誰にもわからぬ。だが、それは新たな可能性だ」
「新たな……可能性?」
「今後、お前は自らの意志でその力を制御せねばならぬ。そして、お前の進む道が――この魔界の未来を左右するかもしれん」
……あれ、気づけばすごく壮大な話になってない?
魔王の娘ってだけでいっぱいいっぱいなのに、異界の魂とか未来を左右とか、話のスケールがドラゴン級から宇宙級に跳ね上がってるんですけど。
「ついてこれるか、リリィ」
「えーと……とりあえず、今日の夕飯はカレーがいいです」
「……ふっ。好きにしろ」
ゼオスがわずかに笑った気がした。やだ、こわカッコいい。
その夜。自室のベッドで寝転びながら、私はつぶやいた。
「なんか……想像してた転生ライフと違う……」
ドラゴンステーキ食べてのんびりしたかっただけなのに、気づけば魔界の未来がかかってるらしい。どうしてこうなった。
でも――不思議と、ワクワクしている自分もいた。
異界の魂と、魔王の血を持つ自分。
この力が何かを変えられるなら、やってみてもいいかもしれない。
「……まぁ、まずは暴走しない練習からだな」
そうつぶやいた瞬間――枕が勝手に爆発した。
「ぎゃああああああああっ!?!?」