リリィ、人間界へ!平和交渉って聞いてたのにバトル発生!?の巻
人間界へ行くのは、これで二度目。
でも今回は、のんびり校舎めぐりや購買パンの探索なんてしてる余裕はない。
なにせ、今回のミッションは――
「人間界代表と平和交渉を行い、全面戦争を回避すること」
という、明らかに荷が重すぎる任務だった。
「私が交渉するって、やっぱおかしくない? 外交経験ゼロだよ? せいぜい、購買で『チョコメロンパン残ってますか?』って聞いたぐらいで……」
「しかしリリィ、おぬし以外に人間界へ入れる魔族はいない。しかも、彼らに信頼されている魔族は、おぬしだけじゃ」
「それってつまり、利用しやすいって意味じゃ……?」
というわけで、私は魔族側の平和の使者として、豪華な一行に囲まれながら人間界へ再上陸。
とはいえ、移動手段は相変わらずの魔導転送ポータル。
「ぐえぇ……。三半規管がブラックホールに吸い込まれる感覚、何回やっても無理……」
転送先に着いた瞬間、私は草原に膝から崩れ落ちた。
「――おお、久しぶりだな、リリィ」
聞き覚えのある声。顔を上げると、そこには――
「カイ!」
私の人間界での……うん、友達以上恋人未満(当社比)のカイだった。
相変わらず、前髪はちょっと目にかかってて、真面目そうで、でも隠しきれないやさしさがにじみ出てて――
「えっ、ちょっと、何その胸元の勲章。出世してる!? かっこよさアップしてる!?」
「そっちも髪型ちょっと変わった? ふわっとしてて……かわいい」
「え……っ、あっ、そ、そう?」
とりあえず、交渉より先に心が揺れました(照)
――そんな初手の甘酸っぱさを吹き飛ばすように、交渉会場はピリッと空気が張り詰めていた。
対面には人間界の重鎮たちがずらりと並び、中央には白髪混じりの貴族風おじさま。通称・グラン王政執行代理。
「魔族の姫リリィ・アズラよ。我が人間界への干渉について、どう釈明するかね?」
「えーっと、まず干渉って言ってますけど、私ただパン食べてただけで……あ、あと恋愛相談とか……」
「その行動が、人間の精神に影響を与えたという報告が多数ある。貴女の存在は、魔力的にも社会的にも……危険だ」
いやいや、そこまで言う!? ただのパン好き女子ですよ!?(たぶん)
「それに……」
王の後ろから、ピチッとした軍服を着た美少女が一歩前に出た。
「我が弟は、あなたに恋してしまったのです!」
「はい?」
「魔族に心を奪われたことを、私は決して許さない!」
「まさかの恋愛逆恨み案件!? え、交渉って、そういうのも対象!?」
そのまま会議は、まさかの公開ディベートバトル形式に突入した。
「我が名はステラ・エンリカ。王国第三騎士団長! 魔族との戦争を主張する!」
「私はリリィ・アズラ! 戦争反対派ですけど、ディベートなら負けません!」
テーマ:『魔族と人間は共存可能か』
ルール:魔法と発言を組み合わせて相手を論破すべし!
観客:「うおおおー! 魔法とトークのコラボ! 文化祭じゃん!」
「まず私からッ! 火の一撃!」
ステラの杖が光ると同時に、熱い演説が飛び出した。
「魔族は力を持ちすぎている! 彼らがこの世界に自由に出入りすれば、我々人間の暮らしが脅かされる!」
わかりやすくてうまい……! しかも最後にちょっと悲しいBGM流れた! 反則!
でも、こっちだって負けられない!
「光の説得!」
「魔族も人間も、パンを食べるし、恋をするし、アイスが好きです! 違いがあるからこそ、知り合う意味があるんです!!」
観客:「おおお~~~!」
ステラ:「うぐ……! でも、だからといって――!」
「共に笑えるなら、共に生きられるはずです!」
魔力と感情がリンクした瞬間――
ゴォン!!
私の足元に魔法陣が展開され、また封印が1つ外れた。
ステラ:「……これは……!? まさか、完全覚醒の兆し……!」
私:「あ、やっば……また魔力漏れてる!? ど、どうしよ、光ってる、床光ってる!」
会場:「うおおおーーー!? 進化イベント発生だ!!」
結果的に、このディベートバトルは、魔族・人間双方の意見を持ち帰り、再度協議という形で一時中断された。
「勝ったかどうか、よくわからなかったけど……まぁ、戦争にはならなかったよね?」
「うん。でも、君の魔力は完全に目覚めつつある。たぶん、もうごまかせないよ」
「……そうかぁ……」
私が本当に戦わなきゃいけない日が来るのかもしれない。
だけど、その時が来るまでは――
「アイス、食べよっか。緊張してお腹空いたし」
「……それ、人間界の交渉後の感想としてどうなの?」
「いいの。平和は、アイスから始まるの」




