まさかの宣戦布告!?リリィ、戦うとか聞いてませんけどー!
魔法学園に戻ってわずか三日。
私は、平和な学園生活を取り戻すはずだった――はずだったのに!
「リリィ・アズラ。人間界に対し、魔族代表として戦ってもらう」
「…………は?」
口を開いた長老様に向かって、私はゆっくりと首を傾げた。
「ちょっとすみません、魔族代表としてって……私、たったの七日間、人間界にお勉強しに行っただけなんですけど!? エンジョイ・ヒューマンカルチャーな感じで!」
「だからこそ、そなたが適任だ。人間を知る魔族など他におらぬ」
「いやいや! 知ってるって言っても、学校の購買でパン買ったり、アイス食べたり、あとは……人間界の学生に恋愛相談されただけですよ!? それが戦争の司令塔とか、聞いてませんからーーー!!」
私の悲鳴は学園の天井にむなしく響いた。
ことの発端は、学園祭での異世界屋台イベントだった。
「リリィちゃーん! タピオカスライムミルクティー売り切れそうだから、追加頼んできて!」
「スライムがタピオカ代わりって、倫理的にどうなの!?」
「ほらほら、ぷにぷに食感♪ってポップにも書いてるし、売れてるから大丈夫大丈夫!」
なんで私、タピオカの補充係やってるんだろう。魔王の娘ですよ?(一応)
――そんな、異世界グルメの平和な風景の裏で、事件は起きていた。
「人間界の王国から、宣戦布告が届いた」
校内放送の重々しい声に、全校生徒がざわつく。
「な、なにそれ? 学園祭の余興?」
「違う、本物らしいよ。なんか、魔王の娘が人間界に干渉したって噂が広がってるって」
「まさか、リリィちゃんが原因!?」
私の頭の中で、かつて人間界で対応した男子学生たちの顔がフラッシュバックした。
《リリィさん、どうしたらクール系女子を振り向かせられますか!?》
《告白って、やっぱり直接ですか!?》
《リリィさんのアドバイスで彼女できました! ありがとうございます!》
「――それが戦争の引き金になったって、どういう流れ!?」
もう、恋愛相談係とか、二度とやらない。
というわけで、私は長老会議に呼び出された。
「リリィよ、これはただの戦争ではない。存在の正当性を賭けたものじゃ」
「待って、急にスケール上げないで!? 私、まだ期末試験も終わってないんですけど!」
「人間界は、そなたの存在を人間の敵とみなしている」
「うそぉん……。あんなにパン分け合ったのに……」
「そなたの力は未だ封印されておる。だが、それも時間の問題。完全に覚醒すれば、世界のバランスが崩れると彼らは恐れている」
「はぁ~、なんで私、目立っちゃう体質なんだろう……」
そんな中、私の親友(であり、ちょっと恋愛フラグが立ちそうだった)カイから、密書が届いた。
《リリィへ。こっちはすでに警戒態勢に入った。君に会いに行きたいけど、今は危険すぎる。……でも、僕は信じてる。君が選ぶ道が、戦いじゃない未来を切り拓いてくれることを》
カイ……。
相変わらず真面目かっこいい文面でズルい。
「私だって、戦いたくないよ。でも、戦わなきゃいけない時が来るなら……」
その時は、せめて『パンとアイスと恋バナ』のことは忘れないでおこう。
そして今。
私は、戦場に立つ……のではなく、学園の裏庭にある《封印の泉》に呼び出されていた。
「いよいよか、リリィ」
「うう、気が進まない……」
目の前には、ド派手な封印装置。ご丁寧に「ここを解除すると超パワーが解放されます」みたいな看板まで立ってる。
「魔王の娘の真の力、いざ解放……!」
バシュウウウウ!!
派手な光とともに、私の体の中で何かが目覚めていく――気がする。
「おお……! 力がみなぎって……」
「みなぎって……る? のかこれ?」
何かが変わった気がする。でも、髪も目も服もそのまま。ていうか、ちょっとお腹が空いてきたくらいなんだけど?
「封印解除って、エネルギー使うだけのイベントだったの!?」
「いや……これからだ。力は徐々に目覚める。そなたの中に流れる混沌の血が」
「え、それって具体的にどんな副作用あるの?」
「たぶん、しばらくテンションが高くなる」
「それただの魔力酔いじゃん!」
こうして、私は半覚醒状態で人間界との戦争に向けた準備を始めることになった。
もちろん、戦争ったって魔法爆撃とかドラゴン召喚とか、そんな物騒な話はまだ先。
今のところは、「交渉使節団として人間界へ向かい、穏便に済ませてこい」という、これまたハードル高めなミッションだった。
「……でも、やってやるよ。だって、私だってただの魔王の娘じゃない。人間の心、ちゃんと持ってるんだから!」
「目指せ、平和な未来! パンとアイスと恋バナのある世界!!」
そんな私の叫びに、学園の風が優しく吹いた気がした。
でも、そのあと誰かがこっそり「……アイスだけはやめてほしい。前、床ベタベタになったし」と呟いてたのは聞かなかったことにしよう。




